第三十二部 さくらんぼ泥棒と鯛の目玉好き
結婚式といえば、ごちそうが並ぶ特別な日。
でも、子どもの頃の私は、ごちそうよりも夢中になったものがありました。
私がまだ小さかった頃、親戚の結婚式に出席した。
披露宴では、座敷に立派なお膳がずらりと並んでいた。
ごちそうがたくさん並んでいたはずなのに、私の目はあるものに釘付けになった。
お皿にちょこんとのった、真っ赤なさくらんぼである。
まずは自分の分をパクリ。
それでも物足りず、家族のお膳のさくらんぼも食べてしまった。
すると、ますます食べたくなり、親戚のお膳を回っては、さくらんぼをもらって食べ歩いていた。
ところが、親戚の子は私とはまったく違った。
その子が狙っていたのは、なんと鯛の目玉だった。
お膳を回っては、
「目玉ちょうだい!」
と嬉しそうにもらって食べている。
私は、その光景を見てびっくりした。
「えっ、鯛の目玉って食べるの?」
子どもだった私は、目玉を食べるなんて考えたこともなく、ただただ驚くばかりだった。
私は、さくらんぼを探してお膳巡り。
あの子は、鯛の目玉を探してお膳巡り。
同じ披露宴で、同じようにお膳を回っているのに、狙っているものはまったく違う。
今思えば、子どもの頃から好みは人それぞれ。
私はさくらんぼ、あの子は鯛の目玉。
あのときの光景を思い出すと、今でもちょっと笑ってしまう。
今では、さくらんぼも鯛の目玉も、どちらも珍しくはありません。
でも、子どもの頃は「好きなものしか目に入らない」ものだったのでしょうね(笑)。
あの結婚式では、私はさくらんぼ担当、親戚の子は鯛の目玉担当。
今思い出しても、なんとも微笑ましい昭和の思い出です。




