第十九部 お見舞いのバナナ
昔は、お見舞いといえば果物の定番はバナナでした。
今では当たり前に食べられるバナナも、当時の子どもにとっては特別なごちそう。
そんな一本のバナナが、今でも忘れられない思い出になっています。
小学生の頃、8歳上の姉にボーイフレンドがいた。
私はそのボーイフレンドが大好きで、家に遊びに来るたびに、いつも2人の間にお邪魔していたものだった。
(今思えば、かなり邪魔だったと思う。)
優しいお兄ちゃんは、宿題も見てくれて、一緒に遊んでくれた。
姉のボーイフレンドというより、私にとっても優しいお兄ちゃんだった。
だから、お兄ちゃんが遊びに来る日が楽しみで仕方なかった。
幼馴染と2人で、お兄ちゃんの家まで遊びに行ったこともあった。
そのお兄ちゃんが入院し、お見舞いに行くことになった。
当時は、病気のお見舞いといえば高価なバナナが定番だった。
病室へ入ると、私はきっと、そのバナナを食べたそうな顔をしていたのだろう。
お兄ちゃんが、
「バナナ食べる?」
と聞いてくれた。
私は「ありがとう」と言ったのかどうかも覚えていない。
気が付けば、もうパクパク食べていた。
母も姉も何も言わなかったが、心の中では、
「それ、お見舞いのバナナなんだけど……」
と思っていたに違いない。
本来なら病人が食べるために持って行ったバナナなのに、食べたのは元気いっぱいの私。
しかも、遠慮するどころか、とても満足そうな顔をしていたような気がする。
あの優しいお兄ちゃんも、まさか自分のお見舞いのバナナを、小学生の私に食べられるとは思ってもいなかっただろう。
今思い出しても、あまりにも遠慮のない子どもだったと、自分で自分に笑ってしまう。
あの頃は、バナナひとつにも特別感があった時代。
だからこそ、あの日のことを今でもはっきり覚えているのかもしれない。
今では一年中手軽に買えるバナナですが、子どもの頃は本当に特別な果物でした。
優しいお兄ちゃんと、お見舞いの一本のバナナ。
思い出すたびに、懐かしさと一緒に、遠慮のなかった自分の姿に思わず笑ってしまいます。
昭和には、こんな何気ない出来事も、大切な思い出として心に残っています。




