第十五部 消えた30円の謎
今の子どもたちにとって30円は、小さなお金かもしれません。
でも昭和の子どもにとっては、一日10円のお小遣いをコツコツ貯めることが、何よりの楽しみでした。
父が作ってくれた竹の貯金箱には、私の夢とワクワクが詰まっていたのです。
いくつの頃だったか思い出せないくらい、まだ小さかった頃のこと。
父親が、青々とした竹の筒を節と節できれいに切り出し、お金が通り抜けるくらいの細い穴をノコギリで器用に開けて、特製の貯金箱を作ってくれた。
私はそれが嬉しくてたまらなかった。
もらったばかりの大切なお小遣いの10円玉を、使わずにそっと穴に入れてみる。
カラン!
貯金箱を振ってみると、心地よい音が響いた。
次の日も喜んで、またお小遣いの10円玉をチャリン!と入れる。
振ってみると、チャリンチャリンと賑やかな音がした。
その次の日も10円玉を入れて、ワクワクしながら振ると、チャリンチャリン!とまた楽しげな音が聞こえてきて胸が躍った。
そして、その次の日。
いつものように10円玉を入れようとして、竹の貯金箱を手に取った。
「……」
まずはいつものように振ってみた。
シーン!
……まったく、何の音もしない。
「ん……?」
頭の中に大きな疑問符が浮かんだ。
子ども心になぜ? と言いようのない強い不安に襲われ、それは今でも忘れられないほどの大きなショックだった。
私はパニックになりながら、その貯金箱を両手で持って父親と母親のところへ駆け寄った。
「大変! 貯金箱が空っぽになっとる!」
大粒の涙を浮かべながら、必死で訴えた。
「私の30円が!」
「無くなってるーーっ!」
父親と母親が代わる代わるその竹の筒を受け取り、怪訝な顔をしてシャカシャカと振ってみたが、中から音がするはずもなく、ただ乾いた空気が響くだけだった。
私は悔しさと悲しさで、わんわん声を上げて泣きながら叫んだ。
「誰が取ったーーーっ!」
5人兄弟だった我が家。
真っ先に頭に浮かんだのは、家の中で一番怪しい、あの兄かもしれないということだった。
でも、疑われた兄をはじめ、兄弟みんなに聞いても、全員が口を揃えて「知らない」の一点張りだ。
今冷静に考えれば、たったの30円!
けれど、当時の私にとっては、毎日コツコツ貯めていった夢とワクワクの詰まった、かけがえのない「30円」だったのだ。
結局、いまだにその犯人は分からないままだ。
あの時消えた30円は二度と戻ってこなかったけれど、毎日10円玉を入れては耳を澄まして振っていた、あの胸が高鳴るようなワクワクした気持ちだけは、何十年経った今でもはっきり、鮮やかに胸の奥に残っている。
結局、あの30円はどこへ消えたのか、今でも分かりません。
誰かが取ったのか、それとも子どもの私には分からない何か理由があったのか…。
けれど、不思議なことに覚えているのは30円そのものではなく、毎日10円を入れては貯金箱を振り、「今日は音が増えた!」と喜んでいた、あの小さな幸せです。
昭和の子どもだった私にとって、30円は宝物でした。
そして、その謎は今もなお、我が家の未解決事件として心に残っています。




