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第十二部 運動会の梨

運動会と聞くと、徒競走やリレー、鼓笛隊を思い出す人が多いかもしれません。


でも、私が真っ先に思い出すのは、不思議なことに「梨」なのです。


勝った思い出でも、負けた思い出でもなく、家族と食べた、あのみずみずしい梨の味が、今でも心に残っています。

小学校の運動会で、一番懐かしく思い出されるのは――なぜか「梨」だ。


おそらくPTAなどの注文販売だったのだろう。

運動会の最中、校舎の窓から、まるで子供の頭ほどもあるような大きな梨を受け取って買っていたのを覚えている。


私は走るのがあまり得意ではなく、いつも足が遅かった。

それでも毎回必ずビリというわけではなく、いつも「後ろから2番目」あたりをウロウロしている、入賞とはまったく縁のない子どもだった。

それに引き換え、弟は足がものすごく早かった。学校のノートに「一等賞」という大きなスタンプが押されたものを誇らしげに持って帰り、父親や母親に見せて自慢していたものだ。


だからこそ、我が家にとって運動会といえば、足の早い弟の健闘を祝う意味でも、あの大きな梨だったのかもしれない。


お昼になると、母親が朝早くから起きて作ってくれた大きなお弁当を、家族みんなで車座になって食べた。

その食後に食べた梨が、驚くほどみずみずしくて甘く、口いっぱいに果汁を頬張りながら夢中で食べたのを覚えている。


当時の運動会といえば、今とは比べ物にならないほど子供の数が多く、それ以上に地域のおじいちゃん、おばあちゃん、親戚といった大人たちの数がものすごくて、グラウンドの周りは観客でギッシリと埋め尽くされていた。


高学年の五、六年生になると、運動会には「鼓笛隊」という花形の素晴らしい出し物があった。

先頭に立って笛を吹き、旗を振ってみんなを指揮するカッコいい係――(もちろん、運動神経のパッとしない私には一生縁のない役だった)。

その次は、鉄琴や太鼓、アコーディオンを担当する一団。(これも当然、私には縁がない)。

じゃあ私は何をやっていたかといえば、その他大勢の「縦笛担当」だった。


だからこそ、あんなに運動会のあとの梨の記憶が強烈に残っているのだろうと思う。

そんな、足の遅さと梨とお弁当の思い出しか残っていないような運動会が無事に終わると、私はもらった残りのお菓子を大事に持って、すぐ隣に住む幼馴染の家へと遊びに行ったものだった。


その幼馴染の家には、当時大流行していた「ダッコちゃん」という、ツヤツヤした黒いビニール風船の人形があった。

黒い肌に、目玉がギョロリとしていて、コアラのように腕にしがみつくようになっている、あのちょっぴりレトロで愛嬌のある人形だ。

おそらくあの頃の世間でも大流行していたのだろう。

幼馴染の家で、生まれて初めて見る本物のダッコちゃんに興味津々になり、腕に巻きつけて夢中で遊んだものだった。

秋晴れの空の下、グラウンドに響いたピストルの音や万国旗のざわめき。

大人たちの熱気。


あの日の運動会を思い出すたびに、徒競走の順位の悔しさよりも、家族みんなで食べたあの梨のみずみずしい甘さと、幼馴染の家で触れたダッコちゃんの感触が、真っ先に温かくよみがえってくる。

運動会の順位も、鼓笛隊でどの楽器を持ったかも、今ではほとんど忘れてしまいました。


それなのに、家族と囲んだお弁当や、口いっぱいに頬張った梨の甘さだけは、昨日のことのように思い出せます。


思い出とは、不思議なものですね。


きっと私にとって運動会は、一等賞ではなく、家族と過ごした一日そのものが宝物だったのでしょう。

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