第六件 期待を込めて星五公害訴訟 正式名称:未使用・非品質評価レビュー累積に伴う未来購買環境汚濁及び品質判断阻害請求事件
さてさて、皆様。
夜空に輝く星は、古くから旅人の道しるべでありました。
北の星を見れば方角が分かり、星座を見れば季節が分かる。
星とは本来、暗い夜に迷わぬための印でございます。
ところが、現代の星はどうでしょう。
通販サイトに五つ。
飲食店に五つ。
旅館に五つ。
美容室に五つ。
買い物に迷った人々は、その星を眺めて、これは良いものか、悪いものか、己の財布を開くべきかどうかを判断いたします。
まことに便利な仕組みであります。
さて、本日この星をめぐって時際裁判所へ呼び出されましたのは、安西修平さん。三十九歳。
職場では「感じのいい人」と言われ、飲み会では注文を急かさず、会議では強い言葉を避け、レビュー欄ではめったに低評価をつけない男でありました。
安西さんは、自分を悪くない消費者だと思っておりました。
いえ、むしろ少しだけ、良い消費者だと思っていたかもしれません。
怒鳴らない。
責めない。
星一をつけない。
店にも事情がある。
作り手にも苦労がある。
悪いところより、良いところを見た方がいい。
実に穏やか。
実に大人。
実に感じがよろしい。
しかしながら、感じのよさというものも、使い方を誤れば濁ります。
期待を込めて星五。
届くのが早くて星五。
家から近くて星五。
すぐ壊れたけれど、壊れるまでは動いたので星五。
星よ。
お前はいつから、感情の排水口になったのか。
本日は、そんなお話でございます。
*
安西修平は、昼の定食屋を出たところだった。
平日の十二時四十分。
オフィス街の小さな店は、昼休みの客で混んでいた。
焼き魚定食は、悪くなかった。
ただ、特別に良かったわけでもない。
魚は少し冷めていた。
味噌汁も、熱いというより、ぬるくはない、くらいだった。
米は少し硬かった。
漬物は少なかった。
ただ、会社から近い。
席にもすぐ座れた。
店員は忙しい中でも、ていねいに動いていた。
安西は歩道の端に立ち、スマートフォンを開いた。
レビュー画面には、星が五つ並んでいた。
星三にしようとして、指が止まった。
星三。
悪く言っているように見える。
星四。
少し偉そうな気がする。
星五。
悪い店ではなかった。
安西は本文欄に入力した。
会社から近く、昼休みに入りやすいお店です。
味は普通でしたが、店員さんも忙しい中ていねいに対応してくれました。
また利用すると思います。星5です。
投稿ボタンに指を伸ばしたところで、声がした。
「安西修平さんですね」
顔を上げると、黒い鞄を持った男が立っていた。
「はい。何か」
「時際裁判所送達執行官です」
「裁判所?」
男は銀色の縁取りがある封筒を差し出した。
「訴状です」
安西はスマートフォンと封筒を交互に見た。
「いや、今ちょっとレビューを書いていて」
「その件です」
「この店の?」
「この店に限りません」
封筒には、こう記されていた。
第六件 期待を込めて星五公害訴訟
未使用・非品質評価レビュー累積に伴う未来購買環境汚濁及び品質判断阻害請求事件
安西は眉をひそめた。
「僕、低評価はほとんど書いたことないんですけど」
執行官は言った。
「はい。それが問題です」
*
法廷には、安西が過去十二年間に投稿したレビュー記録が提出されていた。
裁判長の前には、銀色の栞が置かれている。
検察官は、厚い証拠束を手元に置いた。
「本件は、被告安西修平による星五評価レビューの累積が、未来の購買環境を汚濁し、後続購入者および未来品質解析機構に損害を与えたとして提起された公害訴訟です」
安西は被告席で首をかしげた。
「公害って、大げさじゃないですか」
裁判長が言った。
「被告は、自己のレビュー投稿数を把握していますか」
「だいたいは」
「十二年間で二千三百十二件。平均評価は星四・八七です」
「それは、まあ、できるだけ良いところを見るようにしていたので」
「低評価を避けていた」
「避けていたというか、あまり悪く言いたくなかったんです」
裁判長は検察官を見た。
「証拠を」
検察官は最初のレビューを表示した。
まだ使っていませんが、期待を込めて星5です。
裁判長は資料を読んだ。
「被告。この商品は使用していなかったのですね」
安西はうなずいた。
「はい。でも、良さそうだったので」
「良さそう、とは」
「説明も丁寧でしたし、レビューも良かったので」
「では、あなたのレビューは何に基づくものですか」
「期待です」
裁判長はペンを置いた。
「期待は、使用後評価ですか」
「使用前の気持ちです」
「商品評価欄に、使用前の気持ちを投稿した」
「でも、期待していたのは本当です」
検察官が言った。
「分類名は、期待先払い型星五です」
裁判長は記録させた。
次のレビューが表示された。
発送が早くて助かりました。商品は週末に使う予定です。星5です。
裁判長は安西を見た。
「商品は使っていない」
「はい」
「評価したのは」
「発送の早さです」
「配送評価が、商品評価欄へ流入した」
検察官が言った。
「配送満足混入型星五です」
安西は少し不満そうに言った。
「発送が早いのも大事じゃないですか」
裁判長は答えた。
「大事です。ただし、商品の性能ではありません」
次のレビュー。
梱包が丁寧でした。中身はまだ開けていませんが、安心できました。星5です。
裁判長は一度、目を閉じた。
「被告は、箱を評価したのですか」
「箱というか、対応の丁寧さです」
「中身は」
「まだ開けていませんでした」
「商品評価欄に、箱と安心感が流入した」
検察官が言った。
「梱包安心感流入型星五です」
安西は小さく息を吐いた。
「言い方が、いちいち嫌ですね」
「分類です」
裁判長の声は平静だった。
検察官は次の証拠を出した。
家から近いので星5です。味は普通ですが、通いやすいです。
裁判長はその文を読み返した。
「被告の自宅に近いことは、飲食店の料理品質に含まれますか」
「いや、でも通いやすいのは大事で」
「それは被告の生活導線評価です」
検察官が言った。
「生活導線混入型星五です」
安西は少し笑った。
「でも、近い店ってありがたいじゃないですか」
「ありがたさは否定しません。評価対象を確認しています」
裁判長は資料をめくった。
「ここまでは、不適切ではありますが、まだ理解はできます」
検察官はうなずいた。
「では、次の群に移ります」
「次の群」
「低評価ねじ曲げ系星五です」
裁判長は顔を上げた。
「星五なのに、低評価なのですか」
「はい」
最初の証拠が表示された。
思っていたのとは違いましたが、思っていたほど違わなかったので星5です。
裁判長のペンが止まった。
「何を評価しているのですか」
安西は少し考えた。
「想像より悪くなかった、ということです」
「商品が良かったのではなく、被告の想像が致命的には外れなかった」
「そういう言い方をすれば、そうかもしれません」
検察官が言った。
「想像乖離許容型星五です」
次のレビュー。
思ったより小さかったですが、サイズを確認しなかった私が悪いので星5です。
裁判長は安西を見た。
「被告は商品を評価したのですか。それとも自らの確認不足を評価したのですか」
「自分にも落ち度があると思ったので」
「商品評価欄に、被告の反省態度が流入した」
「低評価をつけるのも違うと思ったんです」
「分類名は」
検察官が答えた。
「自己反省代替評価型星五です」
次のレビュー。
配送は遅かったですが、無事に届いたので星5です。
裁判長は言った。
「最低限の到着が、満点評価になっています」
検察官が続けた。
「到着生存確認型星五です」
次のレビュー。
私には合いませんでしたが、合う人には合うと思うので星5です。
裁判長はしばらく黙った。
「合う人とは誰ですか」
安西は困った顔をした。
「いや、一般的に」
「特定されていますか」
「していません」
「被告は、自分ではない架空の適合者を代表して評価した」
「合う人には、本当に合うかもしれないので」
検察官が言った。
「架空適合者代弁型星五です」
次のレビュー。
写真とは違いましたが、写真と完全に同じものが来るとは思っていなかったので星5です。
裁判長は資料を見つめた。
「期待値を、事後的に下げていますね」
「写真と実物が多少違うのは、よくあることなので」
「被告は、商品ではなく、自らの期待値調整能力を評価しました」
検察官が言った。
「事後期待値引下げ型星五です」
安西は少し身を乗り出した。
「でも、そこまで怒ることでもないじゃないですか」
裁判長は答えた。
「怒る必要はありません。正確に記録してください」
検察官は次のレビューを表示した。
すぐ壊れましたが、壊れるまでは使えたので星5です。
裁判長は、数秒間その文を見ていた。
「壊れたのですね」
「はい」
「すぐに」
「でも、最初はちゃんと動いたので」
「耐久性の欠如を、短時間の正常作動で上書きした」
検察官が言った。
「瞬間正常作動過大評価型星五です」
裁判長は低く言った。
「検察官。これは、どの程度存在するのですか」
「同種の星五レビューは、未来購買環境保全機構によって三十六類型に分類されています。確認可能な範囲だけでも、主要購買サイトにおいて相当数です」
「相当数とは」
「少なく見積もっても三千七百万件以上です」
裁判長は動きを止めた。
「三千七百万」
「はい。なお、この数には『期待を込めて』を含むレビューは含めていません」
「含めずに」
「はい」
法廷に短い沈黙が落ちた。
「続けてください」
検察官は次の証拠を出した。
全部乗せを頼みましたが、メンマだけ乗っていませんでした。でもメンマは嫌いなので星5です。
裁判長は口を開いたまま、しばらく何も言わなかった。
やがて、静かに尋ねた。
「全部乗せとは」
「その店の主要な具材をすべて乗せる商品です」
「メンマは」
「本来含まれます」
「しかし乗っていなかった」
「はい」
「被告はそれをどう評価しましたか」
安西は少し笑った。
「嫌いなものが入っていなかったなら、結果的には良かったんじゃないでしょうか」
裁判長は安西を見た。
「注文内容の欠落を、自己の嗜好によって免責した」
検察官が言った。
「欠落好都合補正型星五です」
裁判長は額に手を当てた。
「被告がメンマを嫌いであることは、未来のメンマ好きにとって罠です」
安西は言った。
「罠ってほどでは」
「全部乗せを頼む者の中には、メンマを求める者もいます」
「それは、まあ」
「被告は、その者たちへ欠落情報を渡さなかった」
安西は口を閉じた。
検察官は、さらに証拠を続けた。
餃子が一個足りませんでしたが、食べ過ぎ防止になったので星5です。
「欠品健康補正型星五です」
イヤホンが耳に合わず、ノイズキャンセルも効きませんでしたが、鳥の声が聞こえたので星5です。
「機能不全自然接続型星五です」
裁判長は顔を上げた。
「ノイズキャンセル機能の不全を、自然観察体験として評価したのですか」
「はい」
「購入者が求めたのは鳥の声ですか」
検察官は即答した。
「いいえ。遮音性能です」
次のレビュー。
店主が横暴で言い合いになりました。交渉の練習になりましたので星5です。
裁判長は眉を寄せた。
「接客上の問題を、自己鍛錬の機会として高評価化した」
検察官が言った。
「接客被害交渉訓練化型星五です」
安西が言った。
「でも、そういう経験も人生には必要かなと」
裁判長は言った。
「後続客は、交渉訓練を目的として来店するとは限りません」
次のレビュー。
商品説明と違いましたが、昔読んだ詩に似ていました。星5です。
裁判長は、少しの間、何も言わなかった。
「詩」
検察官が答えた。
「はい」
「商品説明との不一致が、詩的想起へ接続された」
「商品不一致詩的想起型星五です」
「後続購入者は詩を購入したのですか」
「いいえ。商品を購入しました」
次のレビュー。
傘が一度で壊れましたが、異常気象って社会問題ですよね。星5です。
裁判長は言った。
「傘の耐久性不足が、気候問題へ転嫁されています」
検察官が言った。
「耐久不良社会問題転嫁型星五です」
「当該傘は、異常気象下で使用されたのですか」
「いいえ。通常の雨天です」
次のレビュー。
問い合わせの返事が来ませんでしたが、心の声と対話しましたので星5です。
裁判長は、ついにペンを置いた。
「問い合わせ窓口の不応答が、内面対話へ変換されています」
「サポート不全内面対話化型星五です」
「後続購入者が求めるのは、心の声ですか」
「いいえ。サポートからの返信です」
次のレビュー。
予約が通っていませんでした。不条理文学に興味を持ちました。星5です。
裁判長は、何かを言いかけて止まった。
「検察官」
「はい」
「これは、商品評価ですか」
「形式上は予約サイトの施設評価です」
「内容上は」
「被告の文学的関心の発生です」
裁判長は、深く息を吐いた。
「購買環境へ流してよいものではありませんね」
「はい」
検察官はまだ証拠を持っていた。
説明書が入っていませんでしたが、文明以前の人類もこうして考えたのだと思います。星5です。
「説明欠落人類史接続型星五です」
冷蔵庫が冷えませんでしたが、熱とは何かを考える機会になりました。星5です。
「機能不全熱力学関心型星五です」
充電器が発熱しましたが、エネルギー問題を身近に感じました。星5です。
「危険兆候環境教育化型星五です」
部屋に虫が出ましたが、生命の多様性を感じました。星5です。
「衛生不備生物多様性接続型星五です」
星1も付けたくないと思いましたが、星1を付ける自分になりたくなかったので星5です。
ここで、裁判長の表情が変わった。
「もう一度」
検察官は同じレビューを読み上げた。
星1も付けたくないと思いましたが、星1を付ける自分になりたくなかったので星5です。
裁判長は安西を見た。
「被告」
「はい」
「これは、商品への評価ですか」
安西は答えられなかった。
検察官が言った。
「分類名は、絶対低評価自己像回避型星五です」
裁判長は、静かに言った。
「被告は、商品を評価したのではありません。星一を付ける自分から逃げたのですね」
安西は口を開きかけたが、閉じた。
検察官が証拠提示を終えると、法廷は奇妙に静かになった。
裁判長は言った。
「被告。あなたは、これらを善意で書いたのですね」
「はい」
安西ははっきり答えた。
「僕は、できるだけ悪く言わないようにしていました」
「なぜですか」
「低評価って、きついじゃないですか。店の人も傷つくかもしれないし。作った人にも事情があると思うので」
「未来の購入者にも事情があります」
安西は一瞬、言葉に詰まった。
「でも、僕が悪く書いたら、僕が嫌な人みたいじゃないですか」
裁判長は安西を見た。
「今、未来の購入者の被害について話しています」
「僕の気持ちは関係ないんですか」
「関係あります。ただし、本件の中心ではありません」
安西は納得していない顔だった。
検察官が言った。
「被告の星五レビューを信じて購入した未来消費者の記録を提出します」
映像ではなく、短い記録が表示された。
防災用ライトとして購入。平均評価四・八。使用三分で故障。停電時に使用不能。
全部乗せラーメン店を訪問。メンマ欠落に関する情報なし。同欠落が常態化していたことを後日確認。
説明書が分かりにくい商品を高齢者用に購入。設定不能。返品期限経過。
ノイズキャンセル機能を期待してイヤホンを購入。遮音効果なし。通勤時使用を断念。
安西は言った。
「そんなことになるとは思わなかったんです」
裁判長は即座に答えた。
「思わなかったことが、本件の問題です」
「でも、僕は誰かを傷つけたくなくて」
「その誰かの中に、未来の購入者はいませんでした」
安西は黙った。
裁判長は続けた。
「あなたは、販売者を傷つけない自分を見ていました。低評価をつけない自分を見ていました。寛容な消費者である自分を見ていました」
安西は目を伏せた。
「しかし、その星五を信じて買う誰かを見ていませんでした。未来の他者を、自分と同じ重さを持つ人間として扱っていなかった」
「そんなつもりは」
「つもりの話ではありません」
裁判長の声は強くなかった。
「記録の話です」
弁護人が立った。
「裁判長。被告は悪意ある虚偽レビューを書いたわけではありません。報酬を得たわけでも、販売者と結託したわけでもありません」
「その点は認めます」
「であれば、過失として扱うべきです」
「本件の悪質性は、悪意の有無ではありません」
裁判長は安西を見た。
「被告は、自らの善良さを疑いませんでした。そこに問題があります」
安西は顔を上げた。
「善意まで責められるんですか」
「いいえ」
裁判長は言った。
「善意の向き先を問うています」
判決。
法廷の空気は、証拠提示時の笑いを含んだ混乱から、少し重く変わっていた。
裁判長は判決文を開いた。
「被告安西修平による一連の星五レビューは、単なる高評価ではありませんでした」
安西は裁判長を見ていた。
「そこには期待、配送満足、梱包への安心、生活導線、自己反省、労働同情、想像との乖離補正、欠品への好都合解釈、文学的連想、社会問題への転嫁、内面対話、人生訓が混入していました。これらは商品の品質評価ではなく、被告自身の感情、気遣い、自己像を星五という形式に流入させたものです」
裁判長は一度、言葉を切った。
「星は、感情の排水口ではありません」
法廷は静かだった。
「また、本件における低評価ねじ曲げ型星五は、特に悪質です。欠品、破損、不適合、説明不備、期待外れといった、後続購入者に伝えるべき情報を、被告は寛容さ、自己反省、前向きさ、あるいは過剰な意味づけによって星五へ加工しました」
安西は小さく息を吐いた。
「被告は、批判を避けたのではありません。批判する自分を避けました」
安西は顔を上げたが、言い返さなかった。
「被告は、誰かを傷つけたくないと言いました。しかし、その誰かの中に、未来の購入者はいませんでした。被告は、顔の見えない後続購入者を、自分と等価な人間として想像していなかったのです」
裁判長は銀色の栞を手にした。
「被告は善良さを示すつもりで、遠くに悪を流しました」
安西の表情が初めて変わった。
「よって被告を、未来購買環境汚濁および品質判断阻害につき有責と認めます」
裁判長は刑を告げた。
「被告を、未来購買環境浄化センターにおけるレビュー再分類および後続購入者影響記録労務刑に処します」
安西は眉をひそめた。
「どういう刑ですか」
「被告は、過去の星五レビューを一件ずつ読み、そこに混入した期待、同情、自己反省、個人嗜好、配送満足等を分類し、本来後続購入者に渡すべき情報へ再構成すること。さらに、そのレビューを信じて購入した未来人の被害記録を読み、見えなかった他者を記録上に復元すること」
「僕が」
「はい」
「星を直すんですか」
「星だけではありません」
裁判長は言った。
「視線を直すのです」
*
刑の初日、安西は未来購買環境浄化センターの端末の前に座っていた。
最初に表示されたレビューは、自分が書いたものだった。
すぐ壊れましたが、壊れるまでは使えたので星5です。
画面の下に分類欄が出る。
商品欠陥:あり
耐久性情報:不足
寛容演出混入:あり
後続購入者危険情報:隠蔽
推奨修正評価:星1から星2
安西は顔をしかめた。
「星1は、ちょっときつくないですか」
監督官が言った。
「商品がすぐ壊れています」
「でも、壊れるまでは使えているので」
「その発想を修正する刑です」
安西は黙って、修正文を入力した。
購入直後は使用できましたが、短期間で故障しました。耐久性を重視する方にはおすすめできません。
監督官が確認した。
「星は」
安西は少し悩んだ。
「三」
監督官は無言で見た。
「……二」
「理由は」
「すぐ壊れたからです」
「よろしい」
次のレビューが表示された。
全部乗せを頼みましたが、メンマだけ乗っていませんでした。でもメンマは嫌いなので星5です。
安西はしばらく画面を見つめた。
「これは……」
監督官が言った。
「メンマ好きの未来購入者を想像してください」
安西は深く息を吐いた。
全部乗せを注文しましたが、メンマが入っていませんでした。私個人はメンマが苦手ですが、注文内容としては欠品です。メンマを期待する方は注意してください。
「星は」
「三ですか」
監督官は無言で見た。
「二……ですかね」
「疑問形をやめてください」
安西は小さくうなずいた。
作業終了時、端末は感想入力欄を表示した。
安西はしばらく迷い、入力した。
分類作業は大変でしたが、勉強になったので星5です。
数秒後、画面に赤い文字が出た。
差し戻し。
理由:本刑においても、被告は経験評価を星五へ逃がしています。
安西は椅子にもたれた。
「難しいな」
監督官は言った。
「難しくありません」
*
さてさて、皆様。
星とは、道を示すもの。
けれども、期待や気遣いやメンマ嫌いを流し込めば、その星はたちまち濁ります。
低評価をつけないことは、いつでも優しさとは限りません。
悪く言わないことは、いつでも善良とは限りません。
伝えるべきことを伝えないまま、きれいな星だけを残せば、後ろから来る誰かが同じ石につまずくのであります。
レビュー欄は、あなたの寛容さを飾る棚ではありません。
未来の誰かが、転ばずに歩くための小さな道しるべなのです。
なお、時際裁判所の判決に対し、安西被告は後日、
「厳しい判決でしたが、裁判長もお仕事なので星5です」
と感想を残そうとしました。
もちろん、即時差し戻しとなりました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今回の教訓は簡単です。
星五は、期待や気遣いや個人的な事情を流す排水口ではありません。
よかったものを、よかったと残す。
悪かったものを、悪かったと残す。
それだけのことが、なぜ未来の法廷で確認されなければならないのでしょうか。
評価とは、優しさでも処世術でもなく、未来へ残る記録です。
人類、もう少し星を重く扱ってもよさそうです。
次の事件では、「かわいい」の一言が、思考停止語として裁かれます。




