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美人だけど最恐堅物な風紀委員長が、俺の前でだけエッチなデレデレ極甘女子を演じ始めて今日も感情がない件  作者: ファッション捜査課のスカリー


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第30話 ふたりの心——

凛SIDE——


私はなんてことをしてしまったんだろう……。

その言葉が、朝からずっと頭の中で繰り返されていた。


授業中もノートにペン先を落としているはずなのに、書いている文字がどこか上滑りしていく。先生の声は遠く、黒板の文字も目に入っているのに意味として届かない。

後悔だけが波みたいに押し寄せてきて、何度も私を足元からさらっていく——


昼休みのチャイムが鳴った瞬間、私は反射みたいに席を立った。

早くひとりになりたい。早く考えを整理したい。

そう思って足を動かすのに、胸の奥はますます落ち着かなくなる。


風紀委員会議室へ向かう廊下はいつもと同じはずだった。

人の気配、笑い声、購買へ急ぐ足音。

なのに今日は、それが全部私を追い立てる音に聞こえてしまう。


本当ならあっくんに声をかけて、いつもみたいに一緒に行ければいいのに……。


でも、それはできない。これ以上、彼に迷惑をかけたくないから。

私が自分の気持ちを抑えきれなかったせいで、色々と彼を巻き込んでしまった。


今日の朝、あっくんに助けられたり、髪留めも髪型も褒めてくれたりして……私はそれだけで舞い上がって最高の1日になると思っていた矢先——すぐに現実が殴りつけてきた。


まさか、こんなにも早くこの日が来てしまうなんて……。


私はあっくんに迷惑をかけてばかり。

なのに、それでも諦めきれない自分がいるのがいちばん苦しい。

理性はやめろと警告しているのに、心がそれに従わない。


……全部、あのデートが原因だ。


楽しすぎて。私の理想すぎて。怖いくらい幸せで。

あの時間がどうしても頭から離れない。


私と一緒にデートをしていたあっくんは、本当のあっくんじゃない。

手を繋いで、私を見て、プレゼントをくれたのも、催眠にかかって私の言葉に従ってくれていたあっくんだ。


……それでも、その記憶だけは本物だった。


指先の温度も、息づかいも、彼の香りも、どうしようもない嬉しさも……全てが忘れられないし、諦めたくなくなってしまった私がいる。

その現実が私をいちばん情けなくしているみたいだ。


これ以上変な噂が流れてしまったら、本当にあっくんに迷惑がかかってしまう。

彼は真面目で、優しくて、変に悪目立ちするような人じゃない。

なのに、私のせいで他人の好奇心の的にされてしまう。


なによりあっくんには橘先輩がいる。その邪魔を私がするなんておこがましい。

自分で思うたびに胸が痛むのに、それでも嫉妬の火種が消えないのがさらに嫌だ。


会議室の前に着いた私は、いつものようにドアの取手に手を掛けた。

ドアの先にはいつも通りの光景。その最奥。そこが私とあっくんの席。

あそこだけは私たちだけの場所。そう思ってしまう自分が怖い。


私はそこへ歩みよると、ゆっくり椅子を引いて腰を下ろし、大きくため息を吐いた。


息を吐くたびに、胸の奥に溜まっていたものが少しだけ外へ出てゆく気がした。

けれど、代わりに別の痛みが残ってしまう。


楽しい時間はいつか終わる。私はそれを分かっていたはずなのに……。

そろそろ、この検証を終わらせる時が来たのかもしれない。私の幸せだった唯一の時間を、私の手で終わらせる時が……。


そう思った瞬間、胸の奥がきゅっと縮んで涙が出そうになった。

私は机の端を指先でぎゅっと掴み視線を落とす。泣くわけにはいかない。

これ以上彼に迷惑をかけないと決めたのだから——



————————


飛鳥SIDE——


昼休みを告げるチャイムが教室の空気を切り替えるみたいに響いた——


ざわめきが一斉に広がる中で、俺の目線の端にひときわ速い動きが映りこむ。

凛だ。

彼女が振り返りもせず、誰とも目を合わせず、まっすぐ廊下へ消えていく。


——やっぱ、声かけてくれないよな。


たったそれだけのことなのに胸の奥が沈む。

あんなことがあったんだから当たり前なのに、自分でも理由が分からないほど落ち込みそうになってしまう。俺はただ、同じ風紀委員として手伝っているだけなのに……。


気を取り直すように息を吸って俺は席を立つと、風紀委員会議室へ足を向けた——


会議室の前に着くと、そこにはいつも通りの扉がある。

でも、今日は開けるのがどこか怖い。


躊躇いがちにドアを開けると、先に来ていた凛とふと目が合った。

彼女の顔には、どこか張り詰めたものが見えた気がする。


俺は一言も発さず、阿吽の呼吸みたいに扉を閉めて鍵をかけると、会議室の最奥に座る凛の隣へ腰を下ろす。

いつもの日常。いつもの配置。いつもの距離。それがなぜか今日は遠く感じる。


何があったかはだいたい分かっている。

朝、あの会話を盗み聞きしてしまったようなものだから。

だからこそ、俺から踏み込んで話題にするのは憚られたが、重たい空気に背中を押されつい先に口を開いてしまった。


「それで凛……今日はどうしたの?」

「……来てくれてありがとう。あのね、飛鳥くん……」


少し躊躇うように、短い間を置いてから話し出す凛。

その声色に嫌な予感が胸をよぎった。


「本当にごめんなさい……」

「……え??凛、どうしたの急に……?」


急な謝罪に思わず本音が出てしまった。

凛がこんなふうに先に頭を下げるなんていつもの彼女らしくない。

そもそも俺は謝られることなんてしていない。むしろ俺が謝りたいくらいなのに……。


「どうやら、私たちのデート検証を友だちに見られてしまっていたみたいなの……私の不注意のせいで……それで、なんか変な噂が立ってしまっているのよ……」


「そっ、そうなんだ。それはちょっと困ったね……。でも、それは凛が悪いわけじゃなくてたまたまでしょ?そんなに謝らなくても……」

「いえ、私が悪いのよ……本当にごめんなさい……」


凛の声は固くて、責任を全部抱え込もうとしているみたいだった。

俺はその態度が逆に苦しくなってしまい。声を無理やり明るくした。


「凛、そんなに謝らないで!俺は全然大丈夫だから!むしろ凛のほうが心配だよ」

「私が……心配?」

「うん。だって、俺と変な噂が立ったら、凛のイメージとか立場とかに影響があるかなって思って……」

「………………」


凛は少しだけ黙って俺のほうを見つめてくる。


「ふふっ…………飛鳥くんって本当にいつも優しいのね……」

「優しいっていうか……心配するのは当たり前じゃないかな?」


小さく笑った凛にほんの少しだけ安心しながら、俺は話を現実に戻した。

このまま凛の気持ちの話に触れたら、余計に混乱しそうだったから。


「それで、これからどうするの?この検証。もう人目に付くような事は避けないといけないだろうし……」

「そうね……そのことなんだけど……」


そこまで言うと表情を硬くした凛。


正直、怖かった。終わりを告げられるのが。

検証が終わるってことはあの時間も終わるってことだから。

これはただの検証だ。そう言い聞かせても胸の奥が勝手にざわついてしまう自分がいる。

そんな俺の気持ちを知るよしもない凛が、慎重に口を開いて続けてゆく。


「これから私たち、学校では少し距離を置いたほうがいいと思うの……」

「………………」


言葉が喉に引っかかって出てこない。『そうだね』というその一言が。


分かっている。凛が正しいのに胸の底がひやりとして息が浅くなってしまう。

しかし、凛はそこで止まらずさらに続けた。


「それで……これからは密会型にするのはどうかしら?」

「……密会型?」

「そう、密会よ……この前飛鳥くん私の家に来たから、場所はわかるでしょ?」

「うん、それはわかるけど……」

「次からは、私の家でやりましょ?それなら絶対に人目につかないわ……」

「えっ……マジで……?」


まさかの提案に心臓が一瞬跳ねた。

家という言葉が持つ意味が、勝手に別のものを連れてきてしまったから。


「マジよ。最も安全と言ってもいいんじゃないかしら?両親も基本いないから、好き勝手出来るし」


凛の言い方がやけに事務的で、だからこそ余計に現実味があった。

人目につかない。噂にならない。確かにそれが最優先だ。

そう、これはどこまで行っても検証なんだから……。


「そっか……まあ、凛がそう言うなら……」

「じゃあそういう事で。また連絡するわね……」

「わかった、連絡待ってる」


俺の言葉に凛は軽く頷いて少しだけ視線を外すと、いつもの委員長としての口調のまま冷淡に言った。


「じゃあ……飛鳥くんは先に教室へ戻ってくれるかしら?」

「あ、うん……凛は戻らないの?」


「一緒に出たらまた怪しまれるわ……私は少し遅れて出るから……」

「そっ、そっか……そうだよね……ごめん、気を使えなくて……」

「……いいのよ、大丈夫だから……」


何に謝ってるのか自分でも分からないまま立ち上がると、俺は凛のほうを見ないまま扉へ向かう。


会議室を出て廊下の光の中に戻ると、自然とため息が出た。

検証が続くと聞いて少しだけ安心してしまった自分がいる。それが表情に出そうになって、俺は慌てて口元に力を入れた。


顔を引き締め呼吸を整えると、俺は自分の教室へとゆっくりと足を向ける。

一人で、黙々と——



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