表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美人だけど最恐堅物な風紀委員長が、俺の前でだけエッチなデレデレ極甘女子を演じ始めて今日も感情がない件  作者: ファッション捜査課のスカリー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/40

第28話 いつもの朝、いつもと違う朝——

日曜日を挟んで月曜日の朝。

俺はいつも通り、校門前で風紀委員の挨拶運動に参加していた——


「はい〜、みなさんまだまだ暑いですが服装は正して登校してくださいね〜……」


いつもの声、いつもの風景。

登校する生徒たちの足取り、校門前のざわめき、挨拶の声。

何も変わらない、いつもの活動だと……そう思っていた——


でも今日はそうじゃない。

手の温度。耳元の囁き。香水の香り。抱きつかれた時の重みと首筋に落ちた温かな雫。

凛とのデートの記憶がふとした瞬間に蘇ってきて、脳内がずっとうるさい。


俺はどうしてしまったんだろう?


検証だ。演技だ。そう割り切るはずだった。

なのに月曜の朝になっても、俺の中のどこかが置いていかれているみたいで、視線は自然と挨拶運動をしている凛のほうへ向いてしまう。


でも、それは俺だけじゃなかった。

今日、いちばんいつもと違うのは、俺の心じゃなく凛だったからだ——


「そこの男子っ!!ワイシャツのボタンをしっかり締めなさいっ!」


鋭い叱咤が飛ぶ。

その声に呼ばれた男子生徒は肩を跳ねさせて立ち止まると、目を丸くする。


(はっ……はい…………月城さん…………)


返事はか細くどこか上擦っている。そこまではいつもの光景。

凛が鋭く指導し生徒が従う。いつもの日常の一部。

なのに、その続きが明らかに違う。


「なぁにジッとこっち見ているのかしら?さっさと行きなさいっ!!」

(はいっ………)


叱咤された生徒……特に男子がみんなして一瞬声を失っている。

それから慌てたように頷き、指示に従い……そしてなぜか、ずっと凛を見つめながら校内へ入っていく。


俺の視線の先にいる凛——


いつもの制服。きっちり整えた襟元。冷たく背筋の伸びた立ち姿。

そこまでは確かにいつもの最恐風紀委員長だ。


でも、今日の彼女は髪が違う。

長い黒髪がハーフアップにまとめられていて、そこにあの蒼い髪留めが光っている。

青いレジンのグラデーションが朝の光を受けて、朝焼けの海みたいに輝いていた。


もともと凛は超が付くほどの美人だ。それだけでも十分目を引く。

けれど、問題はその黒髪に縁取られた美しい顔立ちのその下にあった。


凛がサラシをしていない……。


そのせいで隠されていた大きな胸が制服の胸元を歪め、これでもかというほど主張している。まるで抑え込まれていた秘密が、外に漏れ出してしまったみたいに。


なぜそうなったのかは分からない。

けれどこれは由々しき事態だ……美人でスタイルが良くて、巨乳。そんな風紀委員長が生まれてしまっていた。まるでほのか先輩の再誕だ。


俺だけが知っていた凛の魅力が公になってしまった。そんな感覚が胸の奥のノイズになる。

そして、それに追い打ちをかけるように、俺の耳に飛び込んでくる話し声。


(おい……見たか?月城さん……)

(みたみた……ヤバい……あれはヤバい……いままでどうしてたんだ?)

(すげぇよな……うわぁ、俺めっちゃ好きになっちゃいそう……ちょっと今度声かけてみよっかな……)


下心丸出しのヒソヒソ声。

聞いているだけで胃のあたりが嫌な感じに重くなる。


今までずっと凛を避けていたくせに。怖いだの厳しいだの言って距離を置いていたくせに。見た目が変わった途端に手のひらを返すみたいに態度を変えて。


でも、俺も人のことは言えないのだ。

俺だって最初、ほのか先輩をそういう目で……否定しきれない過去がある。

しかも、俺と凛は別に深い関係でも何でもない。口出しする権利なんてあるわけない。

なのに、胸の奥のノイズは大きくなるばかり。

そんなことを考えていた矢先だった——


気づけば、凛の周りにチャラめの髪型の男子が集まり始めていた。

いつもなら彼女から距離を取るはずの連中が、今日だけは人だかりを作って軽いノリで声をかけている。


(あれ?君、2年の月城さんだよね?なんか変わったよねぇ?どしたん?)

(ほんとだぁ……なんか可愛くなった?ねぇ、よければ◯ンスタ交換しない?)


もちろん凛は一歩引いてはっきり拒む。

でも、いつもと違う周りの圧が凛の動きを鈍らせているようで、その表情には怯えが見えた。


「ちょっ……ちょっと先輩っ!?……そういうのはっ……」


——流石に……あれは良くないよな……。


そう思った時には、俺の足は勝手に動いていた。

怖い。けど見ていられない。

俺は凛の元へ駆け寄り、できる限り声を張ってその人達へ告げる。


「あのっ!すいませんっ先輩!ここ校門前でして……人通りも多いんで、捌けて頂いていいですか?風紀委員として学校の景観も維持する必要があるんで……」


言いながら心臓が嫌な速さで打っている。

なんとも情けない言い訳。俺は喧嘩なんてできない。でも、それでも——


それを聞いて素直に散ってくれる人もいた。が、集団の中のひとりがこちらを鋭く睨んできた。


(ああっ?別にいいだろ?ただ話してるだけなんだからさ)


その勢いに押されそうになり足がすくみそうになる。

でも、どうにかそこを踏ん張って今度は頭を下げた。


「あのっ、でも彼女嫌がってますし……なんで、やめてあげて下さい。すいません生意気言って……お願いしますっ!!」


「ちょっ……飛鳥くん!?」


驚く凛の声が耳に刺さる中、俺は先輩に頭を下げたまま姿勢を固定した。

俺は弱い。だからこれくらいしかできない。けど、凛のあんな顔は見たくない。


彼氏面とかじゃなく、これは同じ風紀委員として彼女を守っているだけだ……そう自分に言い訳をし続けて。


しばらくの沈黙のあと、相手は舌打ちするように空気を崩した。


(……なんかしらけたわ……いこいこっ……)


——ふぅぅぅ、よかった……行ってくれたぁ……。


怖さで震えそうな体を必死に抑えて顔を上げると、既にその人たちは離れ人だかりも散っていて……俺の視界には凛の心配そうな顔だけが残っている。


「そのっ……大丈夫?凛……」

「それはこっちのセリフよ飛鳥くんっ!あんな事しなくたって……私一人でなんとか出来たわよ!?」

「それは、そうかもしれないけど……なんていうか、見てられなくて」


俺の言い訳に若干呆れたような顔をする凛。

けれど、その表情はすぐにほどけてゆき、小さく頬が緩んで……そこには俺だけが知っている凛がいた。


「ふふっ……まあ、あんまり危ないことはしないでね?私のせいでなにかあったら嫌だし。でも助かったわ……ありがとう飛鳥くん」

「ごめん、気をつけるよ」

「ええ、お願いね……」


そう言って、すぐに振り返った凛。

その背中に爽やかな光が当たり、蒼い髪留めが綺麗に光る。


その光景に、俺はつい声を掛けてしまっていた。


あれを凛にプレゼントしたのは俺だけど、俺じゃない。催眠中の俺だ。

だから催眠を解かれた俺は、それをあげた事さえ知らない立場でいなければいけない。

それなのに……。


「凛。その髪留めとか、その髪型……似合ってるね」


凛がその一言にピクリと肩を揺らして止まる。

そして、ゆっくりこちらへ振り返ると、そこには甘く柔らかな表情が浮かんでいた。


「ふふっ♡そうかしら?ありがとう。これ、ある人にもらったのよ。似合うと思ってって……私の宝物なの……」


その表情はデートの時と同じで、演技のはずの境界線が曖昧になっている。そんな気がした。

凛の声の温度に、あの夕方の公園の景色がフラッシュバックする。


宝物。嬉しい。……でもなぜか悲しい。


まるで他人から貰ったみたいに言うその振る舞いが、胸の心に小さな棘を植え付けた。仕方ないのは分かっている。


本当に俺は一体どうしてしまったんだ?


目の前の凛はすぐにいつもの冷淡な表情へ戻り、振り返って仕事へ戻っていく。


その背中を、俺はまるで苦笑するように見つめていた。

自分の感情の行き場が分からないまま、校門前の熱気の中に立ち尽くして——



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ