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美人だけど最恐堅物な風紀委員長が、俺の前でだけエッチなデレデレ極甘女子を演じ始めて今日も感情がない件  作者: ファッション捜査課のスカリー


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第27話 心の行方——

繋いだ手は、まるで何かに縛られているかのようにほどけることはなかった。

暗闇の中で重なった指先は、時間が進むほど当たり前の形になって離す理由を失っていく。

気づけばそれは、映画の内容よりも鮮明に俺の中に残っていた——


映画の内容は、正直あまり覚えていない。

スクリーンの中では筋肉と爆発と血飛沫が暴れていたはずなのに、意識は半分以上、隣の温度に吸い寄せられていた。

凛の香り。息づかい。たまに小さく笑う気配。手の中で微かに動く指先。

その全部が映像よりも強い刺激になってしまって、気づけばスクリーンにはエンドロールが流れていて、客席の照明がゆっくり上がっていた。


ざわめきが戻り、席を立つ音が増えて人の流れが出口へ向かっていく。

客席がどんどん空いていくガラガラになった映画館の中で、俺と凛だけがぽつんと取り残されたみたいだった。


「私たちも、出よっか……」


凛の声にはっと我に返ると、「そうだね」とだけ告げて立ち上がり、繋いでいた手をふっと離す。


手のひらの内側が急に空っぽになり、さっきまでそこにあった温度が消えて風が通るみたいで、胸の奥がなぜか少しだけ淋しくなる。

俺は凛の顔を見ることができないまま出口へ向かった。見たらまた余計なことを考えそうだったから——


映画館を出ると外の光が眩しく感じた。

日が傾きかけていて、建物の影が長く伸びていて、スマホで時刻を確認するともう五時を回っていた。


「もう5時かぁ……けっこういい時間になっちゃったね」

「うん、楽しい時間ってすぐ終わっちゃうよねぇ……」


俺はその言い方に、胸の奥が揺れそうになるのを抑えたまま次の言葉を選ぶ。


「じゃあそろそろ帰る?凛……」


凛は少し考えるように目を伏せた。

夕方の光が頬の輪郭を薄く照らして、表情の細部が読み取りづらい。


「…………うん、そうだね……」


その声には残念そうな雰囲気が漂っている……そんな気がした。


でも、俺にはそれが演技なのか本音なのか見極める力がなかった。

どちらだと決めたところで、今の俺にできることは変わらない気もする。


俺たちは家に向かって歩き出す。

足音が二つ並び、信号を渡り、雑踏の端を抜けていくと、どこか後ろ髪を引かれてしまう自分もいる。


けれどそれはきっとなにかの間違いだ。そう信じたい。信じないと——


その時だった。また温かな手が俺の手に触れたのは。


「「……………………」」


言葉はなく、ただ指先が探るみたいに自然に重なる。

それはさっきまでの暗闇の勢いじゃなく、夕方の明るさの中で当たり前みたいに起こった。

指が絡むと、体温がゆっくり移ってくる。

繋いだ部分だけが妙に熱くて、それが全身に広がりそうになるのを俺は呼吸で押さえた。


横顔に視線を向けると、凛はどこか恥ずかしそうな表情をしていた。

でも離そうとはしない。

視線は前に向いたままで繋いだ手だけが確かな意思を持っているような、そんな感じ。

俺は何も言わずに歩き続けてゆく。夕方の街の中、繋いだ手の温度をほどかないように、ただ前へ——



————————



同じ方向の電車に乗って数駅。

同じ駅で降りて、人の波に押されながら改札を抜け、同じ方向へ帰っていく。

その間も手は繋がれたままだった——


夕方の光は街の輪郭をやわらかく映し出し、遠くの空が薄く滲む。


ふたりの間に会話は少なかった。

電車の音、駅のアナウンス、街の雑踏。

そういうものの隙間に言葉が落ちる程度で十分だった。


むしろ、話しすぎたらこの温度がこぼれそうで、俺は自分から口を開けなくなっていた。


凛の自宅が近づくにつれて、なぜか物悲しい気持ちが湧いてくる。

さっきまで確かに楽しかったはずなのに、終わりが見えてくるだけで胸のどこかが締まっていく。コレは検証だというのに……。


「今日、楽しかったなぁ……」


凛がふと呟く。

その声は小さくて夕方の空気に溶けそうなのに、俺の耳にははっきり届いた。

次いで俺へ向けて問いが飛んでくる。


「あっくんは……楽しかった?」

「うん……楽しかったよ……」


その答えに、凛は足を止めないままもう一段踏み込むように聞いてきた。


「そっか、よかったぁ……私といて、嫌じゃなかった?」

「嫌なんて……そんな事はないよ絶対」


それは本音だ。

今日一日を思い返すと、検証だの演技だの、そういう理屈を横に置いてしまう瞬間が何度もあった。

凛との時間は今思えば本物のデートみたいで、俺は確かに幸せだった……それは、終わってほしくないと思うほどに。


自分の思考の変化に内心で驚く。けれど、その先は考えないようにした。

怖いから。勝手に勘違いして勝手に傷つくのはもうごめんだ。


「んふふっ♡そっかぁ……安心したよぉ♪」


嬉しそうな凛の声。

その声を聞くと、どこか嬉しくなる自分がいるのが分かってしまって、俺は視線を前に固定する。


やがて、凛のマンションが視界に入ってきた。


いつもより立派に見える建物が、夕方の光に縁取られている。

もう着いてしまう……。

そんな実感が押し寄せて胸の奥がざわつき、俺は意を決して凛に声を掛けた。


「凛……ちょっといい?」

「ん?……どうしたの?あっくん……」

「ちょっと、公園寄ってもいい?」

「公園……?いいけど……」


凛の手を引いてマンションの隣の小さな公園へ向かう。

斜陽が差し込むその場所は、遊具の影が地面に長く伸びていて人影も少ない。

この前と同じ木の影に辿り着くと、俺は凛の手を解いた。


手のひらが離れた瞬間、さっきまでの温度が名残みたいに残って、少しだけ指先が冷える。

それを気にしないフリをして、俺は手に持っていた袋から小さな小包を取り出して凛へ差し出す。


「凛……コレ……」

「…………ん?」


「貰ってくれる?今日のお礼っていうか……プレゼント」


驚いたように瞬きをした凛は、そっとそれに手を伸ばす。


「プレゼント?いつの間に買ったの……?」

「まあね……開けてみて……」

「う、うん……」


そう促すと、俺から受け取った小さな小包を少しもどかしそうに指先でほどき、最後のテープが外れた瞬間——中からあの髪留めが姿を見せた。


夕日に照らされるそれは、まるで海みたいだった。

青いグラデーションが光を飲み込んで、静かに揺れて見える。


「これ……」

「うん、髪留め……凛すごく気に入ってそうだったし、似合うと思って……」


言い終える前に、凛の声が急に弾ける。


「あっくん!!」

「うおっ!?」


————————むにゅん♡


気づいたときには正面から抱きつかれていた。

勢いはあるのに腕の回し方はどこか必死で、離したくない気持ちがそのまま形になったみたいだった。

胸元が押し当てられる感触に息が止まりかけた俺は反射で大きく息を吸った。


凛の顔が俺の首筋に触れる。

髪が頬をくすぐり、香水のフローラルが近すぎる距離で広がって、頭の中が白くなりそうだった。


「すっごく…すっごく、すっごくすっっっごく嬉しいよ……私……」


耳元で囁かれて、鼓動が一段跳ねる。

こんなに嬉しいと言われると、どう返せば正解なのか分からなくなる。


「そそっ……それはよかった……」

「大事にするからね……」

「……うん………………」


次いで、首筋に落ちた暖かい一雫。

最初は雨かと思ったが、すぐに違うと気づく。凛の肩が微かに震えていたから。


「「……………………」」


抱きしめられたまま、俺は動けない。

凛の香りと、体温と、涙の温度が混ざって、時間が永遠に続くみたいな感覚になる。

心臓は早く脈打っていてどうしていいか分からない。

この暖かさが心地よいのに……そこに慣れてしまうのが怖くて、俺は声を絞り出した。


「りっ……凛……?そろそろ……その……離れても……」

「ダメっ……まだ……だめ…………今あっくんに顔見せれないから……」

「………………っ……」


温かな雫がまだ首筋を伝う。

俺はそれを受け止めるしかなくて、ただ公園の木陰に佇んでいた。凛が泣き止むまで。


こんなにも素直な感情が彼女の中にあったことに驚く。

これは演技だとは到底思えなかった。震え方も、息の乱れも、抱きつく強さも全部が取り繕えないものに見える。

その時、耳元で微かな声が落ちた。


「……………………ばか…………こんなのされたら、諦められなくなる……」


風が吹いてその声は半分ほど掻き消される。

聞き取れた気もするし聞き違えた気もする。俺は確かめる勇気が出ないまま、ただ凛の背中にそっと手を置いた。


茜が木々の隙間から差し込み、二人の影を重ねる。

その柔らかな時は、何も言わずに優しく俺たちを包みこんでくれていた——


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