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美人だけど最恐堅物な風紀委員長が、俺の前でだけエッチなデレデレ極甘女子を演じ始めて今日も感情がない件  作者: ファッション捜査課のスカリー


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第20話 わからない風紀委員長との距離——

俺は生還した……ボロボロになりながらも、あの地獄から。

いや、実際は生還とは言えないかもしれない。昼休み終わりに催眠を解かれてから、凛が口を聞いてくれない……そんな気がする。


元々そこまで話すわけじゃないが、今日は沈黙の密度だけがやけに重い。

もしかして嫉妬?そんな突拍子もない単語が頭をよぎるが、あるわけがない。

あるとしたら検証を邪魔されて予定が狂ったとか、そういうのが現実的な線だろう。

そして、答えが出ないまま迎えた放課後——


「飛鳥くん?ちょっといいかしら?」


帰ろうと荷物をまとめていた俺の頭越しに、澄んだ声が落ちてきた。

声の主はもちろん凛だ。


「あっ……りっ、凛……どしたの?」


自分でも分かるくらい声が上ずっていた。

しかし、凛はそんな俺を気にする様子もなく、いつものように淡々と話を続けていく。


「廊下に張っていた掲示物を撤収したいんだけど、手伝ってくれるかしら?」

「掲示物?もっ、もちろん手伝うよ……」


返事をしながら内側でこっそり息をつく。

そこには、俺が知ってるいつもの凛がいる。いつもの温度で、いつもの距離で。


——もしかして、気にしていたのは俺だけだったのか……?


そんな考えが浮かぶほどに。


「ありがとう。じゃあ、行きましょ?結構量が多いのよ……」

「ちょっ凛!?まって!!」


すぐに身を翻してしまった凛を、俺は慌てて鞄を掴んで追いかけてゆく。

スタスタと先を行く背中は相変わらず迷いがなくて、その無慈悲なテンポがなぜか今の俺には救いだった——



——————



掲示物の撤去は思ったより手間がかかり、気づけば外は暗くなり始めていた。

俺は凛にあることを伝えたかったのだが、そのタイミングを逃してしまい……結局そのまま流されるように凛の隣に並んで校門を出ていた——


ふたりでの帰り道。道足並みは揃っているのに会話はほとんどない。

時々、明日の挨拶運動の時間を確認するくらいで、あとは互いにスマホを見たり、前だけを見たり……。


そのうち見慣れた灯りが見えてきて、気づけば凛の住むマンションの前でまで来ていた。


「それじゃ飛鳥くん私はここで。また明日の朝、よろしく頼むわね」


そう言い終えると、凛はいつものように温度のない仕草で俺に背を向けた。

その背中が遠のいていくのを見て、俺は悟る。もう、タイミングはここしかない——


「ちょっ!ちょっと待って凛!」


反射みたいに一歩踏み出して凛を呼び止めると、声が夜気に跳ねて心臓がドクンと脈打った。


凛が振り返る。

街灯の明かりを受けた横顔は冷たさの中に細い緊張が混じっていて、まつ毛の影まで繊細に見えた。


「ん?なにかしら、飛鳥くん?」

「あのさっ……これっ……」


凛の元へ駆け寄った俺は、鞄の中を慌てて漁り始める。

彼女に不思議な顔をされながらも、ようやく手に触れたA4サイズの丁寧に包装されたそれを掴んで外に引きずり出すと、彼女へ向かって両手で差し出す。


「これっ……今日のお礼」

「お礼……?」


凛の目が一瞬、箱に落ちる。


「そう……凛も忙しいのに、わざわざお昼作ってきてくれたじゃん?そのお礼。まあ、お礼になるかわからないけど……」

「飛鳥くん……」


凛は小さく息をこぼしてから、そっと手を伸ばして受け取ってくれた。


——ただお礼を渡すだけでどうしてこんなに緊張してんだ俺?


昨日連絡を貰った後、必死に開いている店を検索して買いに行ったプレゼント。本当なら昼休みに渡したかったが、色々あって今になってしまった……。


「凛、甘い物は好き?これチョコなんだけど……」


初めて凛と行ったカフェでメロンソーダフロートを嬉しそうに飲んでいたのを思い出し、甘いものが好きなんじゃないかって勝手に都合よく予想して決めたプレゼント。

あれだけで断定はできないが……。


「…………ふふっ♡……甘いものは好きよ」


凛は箱をまじまじと見ながら——小さく笑った。

それはいつもの凛の表情じゃない。どこか柔らかくて角が取れていて——その笑みが俺の中の何かをぐらりと揺らした。


理由が分からないのに、恥ずかしい。顔が熱い。

目を合わせ続けるのが怖くなって、俺は逃げるみたいに口を開く。


「よかった、良ければ食べてくれると嬉しいな。それじゃ、また……」


そう告げて身を翻した、その時——


「飛鳥くんっ!ちょっと待って!」


背中に飛んできた声に足が止まる。


「ん?」


振り返ると凛がそこに立っている。俺の渡したプレゼントを両手で抱えながら。

でもさっきまでのように視線が定まっておらず、唇が小さく動いては止まり、言葉を探しているみたいにもごもごしている。

それは、まるであの演技の時の凛に少し似ていた。


「その……よかったらこのチョコ、一緒に食べない?私の家で。大したもの出せないけれど、お茶位なら出せるし……」

「………………へっ?…………」


耳を疑った。

今何て言った?凛の家で一緒にチョコを?

頭が追いつかなくて声が空気を噛む。


「私、言ったでしょ?今度お茶でも飲んでいってって……まあ、忙しいならば全然断ってくれていいのだけれど……」


断っていい。その逃げ道を出された途端、逆に答えが分からなくなる。

凛が気を使って言ってくれてるなら断るべきか?でももし彼女自身がそうしたいなら?……どっちが正解なんだ?


俺は今、ただ一人の男子として立っていた。

そして悩みに悩んでようやく出た結論は、妙に現実的な言葉。


「えっと……いいの?ご両親とかに迷惑とか掛からない?」


その言葉に凛は小さく目を細める。


「ええ、もちろんよ。飛鳥くんなら歓迎って言ったでしょ?覚えていないのかしら?」

「それは、そうだけど……」


あの時の凛の言葉は社交辞令社じゃなかったのだろうか?

そう考えている間にも彼女はくるりと踵を返してゆく。


「ほらっ、置いていくわよ?早く行きましょ?」

「ちょっと待って!凛!」


いつも通りに追いかけようとして俺はすぐに気づいた。

凛はスタスタ行ってしまいそうで、行かない。ちゃんとこちらを見て、俺が並ぶのを待ってくれている。


「…………ふふふっ♡焦らなくても、待ってるわよ」


外はすっかり暗くなり、凛の表情はよく追えなかった。

けれど、声だけはどこか軽やかだ。


俺は彼女の横に並び歩幅を合わせ、並んだまま一緒にマンションの中へ入っていく。

その先に何が待っているのか、まだ分からない。けれど、足だけは凛の隣で迷わず前へ出ていた——



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