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美人だけど最恐堅物な風紀委員長が、俺の前でだけエッチなデレデレ極甘女子を演じ始めて今日も感情がない件  作者: ファッション捜査課のスカリー


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第16話 夕暮れと体温——

夕暮れが街の輪郭を柔らかくほどいて、空がじわりと橙に染まっていく。

歩道に伸びる横並びのふたつの影が細長く伸びて、重なりかけてはまた離れる。

靴音が同じリズムで響き、それに交じるテンポの良い何気ない会話に、くすぐったいような落ち着かないような感覚が胸の奥に溜まっていく。


いつもと同じ帰り道。けれど一つだけ違うのは俺の隣に凛がいること。

いままで知らなかったが、彼女の家は俺の自宅と同じ方向らしく、帰る道がずっと重なっていた——


「そういえば凛の家ってどこらへんなの……?あっ、これ聞いちゃまずかったよね……?ごめん」

「ううん全然いいよっ!私の家はね〜……ほらっ、あのグレーのマンションだよ!」


——完全にノンデリ発言だったなこれ……気をつけよう……。


凛が指さした先にあったのは薄いグレーの外壁が夕陽を受け、やけに上品に見えるマンション。


「んっ!?あそこ!?俺の家にめっちゃ近いじゃん!?」

「ええっ!?あっくんのお家はどこらへんなの?」

「えっと、凛のマンションの5件先くらいの……あの茶色いとこ」

「ふえっ!?あそこっ!?めっちゃ近いじゃん!?」

「ね?……俺もびっくりだよ……」


自分でも笑ってしまいそうになるくらいの距離感にあった凛の家。

こんなに近いのに今まで一度も気づかなかったなんて、逆に凄いかもしれない。

言い換えれば、それほど俺は凛と距離を置いていたんだろう。

まさかの偶然に驚きが隠せない俺をチラリと見た凛は、嬉しそうに広角を上げて一言。


「これなら、これからも一緒に帰りやすいねっ♡」

「まっ……まあ、確かにそうかも……」


凛の語尾は相変わらず甘々。

なんて返せばいいかわからず曖昧な答えしか出来ない俺に、彼女は不思議な質問を投げてくる。


「あっくんはさ、誰かと一緒に帰ったりしたこと結構あるの?」

「俺は……まあ、それなりっていう感じかな?」

「そっかぁ。あっくんてみんなと仲いいもんね♪……ちなみに女の子と一緒に帰った事はある?」

「おっ、女の子!?」


——なんでそこっ!?そこ重要?!


心臓がビクンと跳ね、夕暮れの空気の中で凛の質問が妙に鮮明に刺さってくる。

しかし嘘を吐くのもなんか違うというか、バツが悪いと感じた俺は素直に返した。


「まあ、前に一回だけなら」

「それ………………橘先輩……?」

「えっ!?……なんで知ってんの?」


思わず驚きの声を漏らしてしまった俺に、凛は少しだけ顎を引いていたずらっぽく目を細めてみせる。


「んふふっ……なんとなく、かな……女の勘っやつ?」

「すっ……すごいな、女の勘って……」

「えへへ〜……でしょ?」


——これが女の勘なのか……怖っ……


他にも色々見抜かれているかと思うと、背中がむずむずしてしまう。

それをごまかすように俺は凛から視線を外し、歩道の端にある街路樹へと逃がした。

短い沈黙の後、彼女の声色が少しだけ変わる。


「……あのさっ、あっくん……」

「ん……?」


ふと振り向くと、目線を少し下げながら口をモゴモゴして何かを言いたげな凛がいた。


「あっくんはさ……その……」

「……なに?」

「……………………ううん、なんでもない……今のナシっ♪」

「えっ、ナシって!?ちょっと気になるじゃん!?」

「んふ〜♪やっぱひ・み・つ♡これ以上は聞いちゃダメ!命令っ!」

「あっ!!……」


——ズルいぞっ……そんな命令の使い方もあるのか!?


「んふふふっ♡」


凛の笑い声が風に混じって軽く跳ね、柔らかな笑顔が沈みかけた夕日に照らされて赤く染まる。そんな彼女の笑顔を見ていると、つい見とれてしまいそうな自分がいる。


これが演技じゃなく本当の凛だったら……そこまで考えて俺は思考と止めた。

気づけばグレーのマンションがもう目の前だった——


「むぅぅ、着いちゃったね……」


マンションの前で凛が足を止め、名残惜しそうに唇を尖らせてみせる。

茜が髪の艶を薄くなぞり、さっきまでの会話の余韻だけが俺の胸の奥でまだ揺れている。


「ねぇ、あっくん……ちょっとこっちきて……」

「凛?どこいくの……?」

「いいからいいからっ♪」


凛は俺の袖をつまむみたいに引いて、マンションの真横にある小さな公園の木陰へと導いてゆく。外の喧騒が少しだけ遠のいて、代わりに自分の呼吸がやけに大きく聞こえる。


「はいっ、こっち向いて♪」

「はっ、はい……で、なんでここに来たの?」


言われるがまま凛の方へ向き直ると、凛は一歩だけ距離を詰めてぱっと腕を広げた。

その仕草だけで、胸の奥が変な速度で鳴り始める。


「あっくん…………ぎゅってして……♡」


——え。


「……ぎっ……ギュッ?」

「そう、ぎゅって♡……お願い♡」

「あっ……ああ……」

「はやくぅ〜♡」


腕を広げたまま体を揺らしてアピールしてくる凛の追い打ちに、俺の理性がぐらつく。

これは検証であり……命令だ……。

そう自分に言い聞かせ、俺は自分を落ち着かせるように息を吸った。


「そっ、それじゃ……失礼するよ……?」

「うん♡」


次の瞬間、俺はガチガチになりながらもそっと凛を抱きしめた。

柔らかい布の感触が腕の内側に広がり、そよぐ夕凪が凛の髪を頬に触れさせ、ほんのり甘い清潔な香りが鼻をくすぐった。


なにより俺の理性を削ってくるのは、彼女のサラシ越しの胸の感触。

ブラジャーのようにワイヤーが無いからなのか、生々しい位に感触と体温が伝わってきて、胸の奥が一気に騒がしくなる。


そんな中——


「すぅぅぅ……はぁぁぁ……これがあっくんの匂い♡いい匂い……♡」


急に背中に手がまわってきて、凛は満足そうに息を漏らす。

その吐息混じりの声に背筋がぞくりとする。喉が熱い。心臓が破裂しそうだ。


——これはまずい……色々と……限界かも……。


「りっ……凛……そろそろ、いい?」

「んふ〜♡しょうがないなぁ〜……今回はこれくらいで許してあげるっ♡」


その一言と同時に凛の腕がするりと離れていく。

ぬくもりが抜けた途端、腕の中が空っぽになってなぜか風が冷たく感じた。


「あっ……えと……」


言葉がうまく出ない。顔が熱いのが分かる。呼吸を整えようとしても胸の奥の鼓動が全然言うことを聞かない……。

まともに凛の顔さえも見れない俺に向かって、彼女はそっと言葉を落としてきた。


「あっくん……ありがと、わがまま聞いてくれて♡それじゃ……」


視界の端に映った細い彼女の腕。次いで聞こえる小さなスナップ音。


————————パチンッパチンッ


「……はっ……」


催眠解除の合図に、俺はわざとらしく肩を揺らしてみせた。

しかし、心の中は未だに落ち着かなくて平静を装うのに必死だ。


一方、目の前の凛はすっと表情が硬くなり、いつもの風紀委員長の顔に戻っていた。


やっぱり彼女は凄い。演技だとわかっていても、一喜一憂してしまう俺と違って、ちゃんと割り切れている。

そんな彼女を見て、俺と凛は隣を歩く距離感になれるわけないんだと再認識できる。


「飛鳥くん、今日も付き合わせちゃったわね……」

「大丈夫だよ、これも大事な仕事だからね」

「仕事……ふふっ……そうね。また手伝ってくれると嬉しいわ」

「もちろん、いつでも言って」

「ええ、ありがとう……じゃあ私はここで……」


いつもの調子で端的に会話を終えた凛はマンションの方へ向き直り、一歩踏み出しかける——が、そこでふっと思い出したみたいにこちらに振り返った。


「そっ、そうだ飛鳥くん……また時間がある時でも、私の家でお茶でも飲んでいって。手伝ってくれているお礼みたいなものよ。あなたなら、歓迎するわ……」

「えっ……?うん。ありがとう、凛」


——たとえ社交辞令でも、凛にそう言われると悪い気はしないな……。


「じゃ……また明日学校で……」


最後の一言を残し、凛がマンションのエントランスへ入っていき、自動ドアの向こうに消える。


残された俺はしばらくその場から動けなかった。

腕の中に残った凛の感触。鼻に残る甘い香り。耳の奥に残る吐息。

風が頬を撫でるたび、さっきの温度がフラッシュバックみたいに蘇って呼吸が乱れそうになる。


俺は拳を軽く握りしめ、一歩、歩き出す。

彼女のマンションから五件先。いつもと同じはずの道が今日はやけに長く感じた——


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