第15話 放課後、明かされる凛の秘密。後編——
凛の脱いだブラウスがはらりと床に落ちて小さな音を立てる。
視線の先、凛の胸元——そこに巻かれた、真っ白く折り重なる布。
俺の脳内も、その布のように真っ白になっていた——
「あのね、あっくん……胸に巻いていたサラシが緩んじゃって、それを直すの手伝ってほしいの///」
サラシ?ブラジャーは?っていうか……なんで凛がサラシ……?どゆこと?
その光景を見た俺は、全く理解が出来ずただ硬直していた。
そんな俺に向かって凛が甘い声で囁く。
「手伝って?お願い……♡」
「…………えっ……と、わかった……どっ、どうすればいいの?」
お願い=命令だ。断れるはずもない。
戸惑いながらも俺は首を縦に振ると、凛はニコリと笑ってゆっくりと体を反転させ、長い髪を手で片方にまとめるように払い、白く華奢な背中をこちらに向けてきた。
「あのね……この脇の布をぎゅって握っていてほしいの」
「えっと、これ……?」
「そう……それ。ありがと」
横腹あたりに飛び出ている布の端を指さしている凛。
その指示通りに俺は布を片手でぎゅっと強く握ると、彼女はそれを確認してもぞもぞと動き始める。
サラサラと巻かれた布が衣擦れの音と共に緩み始め——思いもよらないシルエットが俺の目にちらつく。
——……へっ…………!?
凛の肩越しに見える、薄く白い布を力強く押し出す大きく張り出した丘。
そう……おっぱいである。
それも、けっこうな大きさの。それこそ、ほのか先輩に迫るほどの……。
みるみるうちに胸を覆う布がほどけてゆき、肌の露出が強まってゆく。
放課後の西日差す教室。上半身をほぼ露出した女の子とふたりきり……衣擦れの音。
このシチュエーションは俺にはあまりにも刺激的過ぎた。
ゴクリと喉が鳴り、俺は慌てて視線を窓の外に移す。これは見てはいけない……見たら息子がヤバくなる。
そんな葛藤を俺が繰り広げている間も、凛は手際よくサラシを巻き直している。
「あのね……私、ずっとコンプレックスだったの……このおっぱい」
耳に届いた凛の小さな声。
「中学生の頃からおっぱいが大きくなってきて……2年の頃には誰よりも大きくなっちゃって……そしたら周りからの視線が急に変わったの」
「…………」
「なんか、色物を見るような……そんな視線。それが怖くて、それからずっとサラシを巻いて生活してたんだ。怖そうな自分を装って、人を近づけないようにして……」
声に交じる悲しげな香り。それに俺はそれにハッと我に帰る。
過去を伝える凛の声には真実味があり、明らかに演技で言っていない感じがする。
その時、俺の手に彼女の温かな手が触れた。
「あっくん……ありがと、持っててくれて」
「あっ……ああ……」
言葉を失う中、凛は作業が一段落したのかこちらに向き直り、床に落ちたブラウスを羽織り始める。
彼女の恥ずかしそうな顔を見ると、色物を見る目を俺をしていたかもしれないと思い、なんとも情けない気持ちになる。
その間にも、手早くブラウスのボタンを留め、ブレザーを羽織り終えた凛は、俺へ質問の投げてきた。
「あのさ……昨日言ってたけど、あっくんはおっきなおっぱいが好きなんだよね?」
「えっと……それは……」
——ここでそんな質問されても……俺なんて答えていいかわからないよ……。
あまりにも逃げ場のない質問に、俺はその答えを探して口を閉ざす。
「あのね、あっくんがおっきなおっぱい好きなら……私、サラシを辞めてみようかなって思ってるんだ」
「えっ!?でも凛……周りの目が怖いって」
「うん、怖いよ……でも」
「そっ、そんな俺の好き嫌いなんて、どうでもいいだろ!?」
「……どうでも良くないよっ!」
なぜそんな判断をしたのか?それを全力で考える。
凛のことだ、本気でこの催眠に向き合い演技をしているとしたら……?
この催眠は好意を持っている相手に対して行うもの。ならば、術者は好意を持っている相手の理想の人間になりたがる、だから凛もそれをしているということか……?
でも、そこまでしなくても……。
「凛が嫌ならサラシを巻くべきじゃないか!?俺は辛い思いをしてる凛を見るほうがよっぽど辛いぞ!?」
それが俺の答えだった。
流石にそこまでしなくてもこの催眠の効果の検証には影響はないと思うし、そもそもあの最恐風紀委員長が辛い顔なんてしていたら、それこそ大問題だろう。
というか、急に凛が巨乳になったら、むしろ学校の風紀が荒れかねない。
和風美人でスタイル抜群の巨乳……たとえ最恐といえど、言い寄るやつが出てきそうだし。
その答えに、凛は甘く、優しく笑った。
「ふふっ♡あっくんて本当に、いっつも優しいんだね♡こんな私にも……」
「やっ、優しいっていうか……当たり前というか……」
「あっくん、アドバイスありがと♡」
女神のような微笑み。
今、俺の視線の先にあるそれは、そう例えるのが一番しっくりくる。
ついトキメキそうになり視線を逸らしてしまった俺は、自分の心にもう一度しっかり言い聞かせる
——これは演技で俺自身へ向けられたものではない。勘違いしたら、終わりだ……。
ムズムズする心を制している俺の前で、凛が荷物を肩に掛けながらゆっくり立ち上がっていく。
「じゃあ用事も済んだし、あっくん一緒にかえろっ♡」
「一緒に!?」
「そっ!ほらっ、早くっ!」
「ちょっ、凛っ!?うおっ!?」
俺の左手をぎゅっと握った凛に立たされた俺は、慌てて自分の荷物を持った。
その手の温かさが、余計に俺の心を揺らしてくる。
教室の出入り口まで引っ張られていくと、手のぬくもりがふっと途切れ、
彼女は鍵を開ける前にくるりとこちらへ振り向いた。
「あっくん……もし私に何かあったら、守ってね?///」
「まっ、守る?」
「そう……これは命令だよっ♡あっくんは私を守りなさいっ!」
そう一言だけ告げた凛は、俺に背を向け教室の鍵を開けて外に飛び出していく。
凛を守る、それが命令……でも、いつ、何から?
疑問は山積みだが、今はそれどころじゃない。
俺は彼女の背中をただ追いかけるように、夕日に照らされる教室を後にしたのだった——




