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美人だけど最恐堅物な風紀委員長が、俺の前でだけエッチなデレデレ極甘女子を演じ始めて今日も感情がない件  作者: ファッション捜査課のスカリー


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第10話 いわゆる修羅場というやつかも——

九月の厳しい残暑が残る朝の校舎横。陽射しはまだ鋭く地面から熱が立ち上る。なのに、その一点だけがまるで氷点下みたいに冷え切っていた——


眼前で腕を組んでいる月城さんの冷たい視線が俺を貫き、その強い圧の前に、俺はヘビに睨まれたカエルみたいに動けない。

そして、月城さんと視線が交差した瞬間——彼女は組んでいた腕をほどいて口を開いた。


「並樹くん!あなたは朝っぱらから堂々となにしてるの!?」

「……ごめん、月城さん」

「風紀委員であるあなたが、朝から橘先輩と……その……イチャイチャするなんて、あってはならないことじゃない!ましてや先輩も勉強のために活動を休止しているとはいえ、一応は風紀委員なのよ!?それをわかっているのかしら!?」


言葉の勢いと共に、グイッと俺の方へ近づいてくる月城さん。

距離が詰まり、その華奢な体が当たりそうになってしまって、俺は気圧されるように一歩下がった。


「……本当にごめんなさい……気をつけます……」

「まったく、ちゃんと風紀委員としての自覚を持って行動してくれないかしら!?」


本当にその通りではある。

が……ほんの少し、言葉に出来ない微かな違和感が意識をかすめる。

指導の厳しさとはまた別の、怒りの角度がいつもと違う……そんな気がする。なぜ彼女はここまで怒っているのだろう?


そのとき、月城さんの表情にふっと影が差し、視線が一瞬だけ揺れて怒りの形が少し崩れた。


「それに…………」

「…………」

「それにっ……なんで私が近づくと、いつも並樹くんは一歩引くのかしら!?」

「えっ!?そっ、それは月城さんに体が当たっちゃ悪いって思って……」


これは本音だ、月城さんと接触するのは恐れ多いというか、そもそも女子と触れ合いそうになったら一歩引くものだと思う……。

だが、その言い訳に月城さんの瞳が鋭さを増し、怒りの温度が言葉に乗って跳ねた。


「なによっ!!橘先輩とはいつも体が当たったって平気な癖に!どの口が言ってるのかしら!?」

「そっ、それは……!?」


——それを持ってこられると、ちょっとイタい……慣れというのもあるけど……


返す言葉が見つからない。

そんな俺を見つめる月城さんの表情に、悲しみの色が微かに加わった気がした。


「しかもっ……しかもよ!?私たちもう1年以上ずっと一緒にいるのに、なんでいまだに月城さんって堅苦しい呼び方なのっ!?橘先輩はほのかって名前で呼んでるくせにっ!あなたはそんなに私の事が怖いのかしら!?」

「ちょっ、ちょっと月城さん落ち着いてっ!……そっ……そんな怖いってわけじゃっ……」


——正直怖い……けど流石に言えない……


またしても一歩踏み込んでくる月城さんをなだめるように言葉を返すも、やはり止まらない。


「あっくn……ううん……飛鳥くんはクラスのお友だちはみんな名前で呼んでるくせにっ!なのにっ……なのに私はいつまでも月城さんって……ちょっと悲しいわよ」

「っ!?」


その言葉が落ちた途端、月城さんはさっきまでの勢いがすとんと落ち、顔を伏せてしまった。

飛鳥くん——その呼び方が耳に残り、彼女の気持ちが少しわかった気がして胸の奥がひくりと跳ねる。


「ごめん……そんなつもりじゃなかったんだけど……」


口から出たのは思った以上に頼りない言葉。

それを受けた彼女は顔を伏せたまま口を閉ざし、沈黙だけが空間を満たしてゆく。


「飛鳥くん……《《ちょっとツラ貸してくれるかしら》》……?」


——……えっ!?


月城さんが震えた声で囁き、あまりに唐突な催眠キーワードに俺の心臓が跳ねる。

このタイミングでなぜ?意図が分からない。でも、やらないわけにはいかない……

考えを巡らせる俺の耳に、次いで凛の命令がそっと届く。


「…………あっくん……そのまま動かないで……」


命令通りにその場で固まった俺に、一歩、また一歩と凛が俺に近寄ってきて、体が触れ合いそうな距離になった刹那——

ゆっくり無言のまま、彼女は俺の肩に頭を預けてきた。


「ッ!?」


トンッと重みが乗り、制服越しに伝わる体温と髪がさらりと俺の胸元にかかって、清潔な香りがふわっと立つ。それだけで混乱が押し寄せてきて、つい息を止めそうになり、慌てて浅く呼吸を繰り返す。


「……ごめんね、急に……少しだけ頭冷やさせて……」


凛の口元から微かな声が漏れる。

俺は何一つ喋れない。いや、喋っちゃいけないと本能が告げている。


それから数分、沈黙だけが続き——やがて肩の重みが離れると、細い指が目の前で小さく踊った。


————————パチンッ。パチンッ。


指がこすれて小さな音が2回鳴る。


「……………………」


何も言えないまま、俺は瞬きをして前を向くと、そこにはいつもの月城さんが立っていた。

背筋が真っすぐで表情が硬い。いつもの、あの風紀委員長の顔で。


「…………その……ちょっと言い過ぎたわ……飛鳥くん……」

「そっ、そんなこと……」

「もうすぐ予鈴がなってしまうわ。だから今日はこれくらいにして教室に戻りましょ……?」


いつもの調子で話を急に切り替えた月城さんは、身を翻してすでに一歩踏み出しはじめている。

あまりのギャップに混乱する俺は慌てて彼女を追いかけようと声を掛けた。


「ちょっ!?月城さっ……」


そこまで言いかけたところで、月城さんがくるりとこちらを振り向いた。


「違うわよ……私は凛よ……名前くらい覚えておいてほしいわね……」

「あっ!?えっ!?…………りっ、凛……さん……?」

「凛よ、リ・ン!…………さんは余計よ。まったく……」

「わっ、わかったよ……ごめん……凛…………」

「ほらっ……早く行かないと授業に遅れるわよ飛鳥くん?」

「ちょっ!?だから待ってって!?」


そう言って月城さん、もとい凛は足早にその場を後にして、俺も遅れないようにその背中を追いかける。


その時、風に乗ってクスっと誰かの小さな笑い声が聞こえた気がした——



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