ジョーカー
退院の日、恵里菜の母親は、娘に全てを話した。恵里菜は、「いやよ!」と言ったが、康人が絡んでいることなので、断りきれず、数日後、安紀の家に向かった。
安紀のマンションのドア、中学生の初夏、ここを通ってしまったばっかりに、この全てが始まったのだ、と思うと、恵里菜は、たまらなくなる。康人が「パパー!」と、ドアの向こうに走り込んで行く。ドアを開けた、安紀の母親は、ふふふ、と微笑む。
康人は、小さなリュックから、絵を取り出す。そこには、あの6人に、もう1人が、描き加えられていた。「これ、おばあちゃん!」と、安紀の母親を指さす。それを見て、まあ、と言う顔をして、安紀の母親は、泣き出す。健気に見えてしまうのが恐ろしい。恵里菜の母親は、小さくため息をついた。
「赤ちゃんを見せて。」と安紀が言うので、恵里菜は、がっちりと抱きしめて顔をのぞかせると、安紀は、「やっぱり、石川さんそっくりだね。」と言った。赤ちゃんが小さくあくびをした。
安紀の母親は、急に明るく大きな声で、「見て〜。康人くん、遥菜ちゃん、ちらし寿司!おいしいのよ。」と華やかなお皿を持ってくる。康人が、「直くんも食べられる?」と赤ちゃんを見ながら言うと、安紀の母親は、「なお…くん。…。ああ、まだね。」と答えた。
恵里菜は、トイレに行ってくる、と、直を自分の母親に託して、リビングを出た。トイレの位置は知っている。ここで4年前、康人を妊娠していることを知ったのだ。恵里菜は、手を洗って戻ろうとすると、ドアを開けっ放しにした安紀の部屋が、見えた。
初めての安紀との接触、お腹にいた康人を触っていた安紀、ここで迎えた陣痛、全てを思い出し、呆然としていると、後ろに安紀が立っていた。はっ、と息を飲んだ瞬間には、安紀は、恵里菜を、ベットに突き飛ばし、ドアを閉めた。ドアを閉める前、トランプで遊ぶ康人の、「あー、ジョーカー!」と言う声と、「言っちゃだめなのよ!」と言う安紀の母親の声が聞こえた…。




