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約束  作者: 梅子
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微笑

 恵里菜の母親は、安紀の母親に、「どうして遥菜じゃなくて、康人に、会わせろと言ったの?」と聞くと、「あの子は恵里菜さんによく似てますから。もし、息子に似ている遥菜さんに会わせたら、安紀は、その眩しすぎる鏡に、失明したかもしれません。」と、柔らかい口調で、淡々と答える。

 安紀は、小声で、「赤ちゃん、どんな子?」と、康人の腕を掴んだまま聞く。康人が「かわいいよ。」と小声で答えると、「どっちに似てる?」と、また小声で聞き返す。「うーん…僕かな?」と康人が言うと、安紀は腹を抱えて笑う。康人は、なぜ父親がこんなに笑うのか分からず困って、それでも、病気の父親が笑っているのが嬉しくて、戸惑った笑いを自らも浮かべる。ひとしきり笑って、安紀は、「康人くんに似ているってことは、つまり、ママに似てるんだろ?そっかー男の子は、いつもママに似るんだな。かわいがってやれよ。」と言う。康人は、「僕、パパに似てるよ!」と言って、小さい鼻を押さえて、「ほら、お鼻がパパとおんなじ。」と言う。安紀は、少し見て、「いや、それは、ママの鼻だよ。」と笑う。「康人くん、僕には決して似ちゃだめだ。なんでもママの言うことを聞くんだよ。ママが正しい。僕の話は聞き流すに限る。」と言う。さらに、安紀は、「勉強なんて、しなくていい。僕みたいになる。ただ、ママを大好きだって気持ちを忘れないで、妹と遊んで、笑って、弟を守って、自信をつけるんだ。」と言って、頭を撫でると、康人は、「パパは?パパとママは、一緒に暮らさないの?」と言うと、「僕は、ママをまた損なうからね。」と困ったような顔を作って言う。

 そこに、「おにぃちゃーん。」と遥菜も入ってくる。「おお、遥菜ちゃんも来てたんだ。」と言うと、遥菜は、安紀をじっと見て、こくり、と頷く。恵里菜の母親が、「康人くん、そろそろ帰るわよ。」と言うと、「いやだ!僕はパパとまだお話する!」と言う。遥菜は、安紀にそっくりな顔で、そんな兄を見ている。安紀は、「康人くん、もう帰りなよ。僕は逃げないからさ。あるいは、僕は急に遠くに行くかもしれないけど、それはそれで君のためだ。」と言う。康人は、祖母に、「僕は、ここに残る!赤ちゃんを連れてきてよ。」と強情に言うので、祖母も頭に血が上って、「何を言ったの?」と、安紀に怒鳴る。康人は、ベットにしがみついて、「僕はパパのそばにいる!」と言うので、祖母が「何言ってるの!」と怒ると、安紀の母親が来て、「お預かりしますよ。赤ちゃん、生まれたばかりで、他に2人も育てるのは大変でしょう?」と言う。「ふざけないで!」と康人の腕を引っ張るが、「いやだ!」と言って聞かない。遥菜は、「お兄ちゃん、帰ろうよ。」と、祖母と一緒に手を引っ張ると、康人は、「遥菜ちゃん。ママと赤ちゃんを連れてきてよ。パパ、遠くに行っちゃうよ!」としどろもどろに言う。遥菜は、「うわーん。」と泣き出して、恵里菜の母親は、遥菜を、あやすのにも手間を取られる。

 安紀の母親は、その隙に、康人を抱き上げて、「初めまして、おばあちゃんよ。」と言う。康人は、「はじめまして。」と、真似して言う。恵里菜の母親は、「何してるのよ!」と言うと、安紀の母親は、「この子を残していってください!お願いです。」と被害者のような顔で言う。

「待って…!分かったわ…。娘の容態が安定したら、会いに行く。それでいいでしょ?今、あの子は、痛みに耐えてる。康人や遥菜に何かあったら、あの子は…。」

 恵里菜の母親は康人に向き直して、「康人、ママが元気になったら、赤ちゃん連れてパパに会おうね。」と言った。康人は、安紀と別れる時、「パパ、待っててね。」と言った。安紀は、微笑を浮かべたように見えた。


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