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約束  作者: 梅子
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虚構

 康人と、遥菜は、この数ヶ月で、おとなしくなった。母親が、青い、何かに耐えるような顔をしているから、声をかけられない。康人は、自分のせいだ、と思って、ママー!!と飛びつくこともしない。遥菜は、母親の身体の変化に気付き、それを何か不気味に感じて、口が重くなっている。処置をしてから、送り迎えは、また、恵里菜の母親がすることになった。ある日、お風呂に入っている時、遥菜は、「ねぇ、ママ。どうして、お腹が膨らんでいるの?」と聞く。恵里菜は、もう隠せない、と思って、湯船につかっている康人も見ながら、「遥菜ちゃんの弟か妹がいるんだよ。」と言うと、遥菜は、「ママ、うれしい?」と真っ直ぐな目で聞く。恵里菜は、「うん。」と悲しそうに笑った。康人は、「パパの赤ちゃん…?」と急に的を射たことを聞くので、恵里菜は、動揺したが、「そうだよ。」と言う。「パパってどんな人?」康人が、苦しそうな顔で聞く。恵里菜は、涙が出そうなのを、シャワーで濡らしてごまかしながら、「パパはね、今、ちょっと心の調子が悪いみたいなの。」と、何とか言ったが、心なんて安紀にあるのかな、と思う。康人は、「パパ、病気なんだね。」と無邪気に呟いた。「じゃあ、パパが良くなるまで、僕たち、いい子でいるね。ね、遥菜ちゃん。」と言うと、遥菜もこくりと頷いた。そういえば、最近、この子たちは、そろばんやりたい!とか、絵を描きたい、とか言わなくなったな、と思うと、恵里菜は、本当に心が縮むほど悲しいので、「赤ちゃんが生まれたら、皆でお出かけしようか!」と、あえて明るく言う。「パパも?」康人が聞いた。恵里菜は、つい「うん。」と言ってしまった。

 康人は、遥菜と、絵を描いた。赤ちゃん、赤ちゃんを抱いている恵里菜、遥菜、遥菜と手をつなぐ恵里菜の母親、康人、そして康人と手をつなぐ安紀……。恵里菜は、それを見た時、そのおぞましさによりも、康人は、ずっとパパをほしがっていたんだ、との気付きに、胸を震わせた。だから、「上手だね!!」と言いつつ、小さく「ごめんね。」と、頭を撫でた。だいぶ、お腹が大きくなったので、入院を勧められたが、子供たちを心配させないために、そして、お金を少しでも貯めるために、恵里菜は断った。

 いよいよ産休に入り、家で、康人と遥菜と、折り紙したり、オセロをしたり、できる限り遊んだ。たまに、母親が2人を外に連れて行くと、恵里菜は、少し気が抜けて、昼寝をした。そんな昼、ピンポンが聞こえるので、遥菜が、またハンカチ忘れた!とか騒いだのかなと思ってドアを開けると、安紀だった。安紀は、「調子どう?」と平気で言う。「帰って!」と言うと、「なんで、お母さんにお金を郵送させるの?僕が持って行くのに。」と言う。「あなたに会いたくないの!」と、恵里菜は、きっぱり言う。その姿を見て、安紀は笑って、「君が家に一人でいるつもりでも、僕はずっと君の近くにいるじゃない?」と、目立つ恵里菜の腹を指さして言う。そして、玄関ポーチの扉を、上から手を回して上手に開け、無理やり家に入ってくる。リビングに貼ってある、あの絵を見て、「ここに、僕がいる。」と、すぐに気付いて言った。「ほら、僕と結婚する気になった?」と、安紀は、冷淡に言う。恵里菜は、「ならない。」と懸命に言うが、その声に力はない。「康人くんの望みだよ?」と安紀は、容赦なく言う。恵里菜は、「もう帰ってよ!約束では、子供が無事生まれてから、結婚でしょ?今は、ほっておいて!」と言うと、「分かった。また生まれる頃に来るよ。」と言って、家を出て言った。


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