誕生
恵里菜は、その日の夜、また、お腹の痛みを感じたが、ナースコールも押さずに、ふらふら、ベットを抜け出し、外の芝生で寝転んで、土地の匂いを感じていた。力が抜ける。入院着が土地の湿り気に心地よく濡れる。強まる腹の痛みも吸い取られる気がして、恵里菜は目を閉じる。恵里菜は、ふー、と息を吐く。痛みが引くと、ポコンと胎動を感じる。恵里菜は、康人を産んだ時には、この時点での痛みにも七転八倒していたが、もう、痛みを感じるほどの気力もなく、ただ、脱力をしている。全てが夢のように思われる。痛いということも、よく分からない。少しすると、温かい水が足をつたった。だんだんと、恵里菜は、無意識にうーん、と唸ってしまう。それでも、やみくもな唸りではなくて、ちょうどよく力が抜けている。恵里菜は、もう、何も考えず、ただ時折、唸る。
ようやく病院が恵里菜を見つける。ただならない様子なので、最悪の事態を想定し照らして見るが、思ったより出血していない。ズボンを下げると、既に頭が見えていた。恵里菜の唸りが止まると、頭も戻るので、医者は、どうしようか、こんな土の上で産ませて、容体を急変させたら…と思うが、もう運べる状態でもない。「まだ、力を抜いてくださいね。」と言うが、恵里菜は反応せず、もともと力も入っていなかった。恵里菜は、何か大きな異物が挟まる感じがして、もどかしいが、頭の骨だ、とすぐに分かる。肩の骨が、その手前で、当たっている、と彼女は思った。
今、いきんで!と言われても、恵里菜は、いきまない。医者は、このままじゃ、まだまだかかりますよ、というが、恵里菜の耳には入らない。恵里菜は、破裂しそう、と感じながら、あっ、今だ、と思い、うーん、と半身を起こして唸ると、ずるりと頭が出る。あとは、肩ですよ、と医者は言う。確かに肩が当たっていると思う。もう、あの破裂の感じはなく、ただ、軽くいきむと、全身が出た。康人の時より大きい泣き声が上がった。恵里菜は、生まれたばかりの子を取り上げようとする医者に、「やめて、返して。」と言う。治療が必要かもしれません、検査しますから、と言われても、「こんなに元気な子をどうして。」と言う。恵里菜は、何人もの医者や看護師に取り囲まれて病室に運ばれた。




