不抜
さっきまで、テーブルに腕枕で寝ていた恵里菜の母親が、むくっと起きて、最初、赤ちゃんを抱く恵里菜をぼんやりと見ていたが、隣にいる安紀を認めた瞬間、鬼の形相になって、「はるとくんに触らないで!!」と飛んできた。「ママ!遥人じゃない、康人!や、す、と…。」と、はっきり、恵里菜は言った。母親は、「私が決めてあげた名前を、そんな名前に……。やすと、なんて、呼ばないわよ!私は。」と、赤い目を見開いて言う。「あんたがしたことは、産んで、名前をつけたことだもんね。」と続けて嘲るように言うと、今度は、安紀に向き直って、「あんた、何で勝手にここにいるの!?」と怒鳴る。安紀は、「この子の「父親」だからです。」と、今にも殴りかかってきそうな母親に、平然と言う。母親は、思いっ切り、安紀を殴り飛ばして、「恵里菜には父親がいないから、私を舐めてるんでしょ。私はこの子の父親でもあるのよ!」と言って殴り続ける。「あんた、赤ちゃんが死にそうな時、何してた?何度も何度もお医者さんに、脅かされて、不安で不安で眠れなくて、そんな夜を過ごしたことあんの!」と問い詰める。安紀は鼻血を出して、白いシャツが血に染まる。安紀は、鼻を押さえながら、母親から身を引いて、「落ち着いてください。この子どもの母親は、あなたじゃなくて、石川さ…、恵里菜さんですよね。僕は彼女と「父親」になるって約束したんです。」と、ポタポタ流れる血をうっとうしそうに言う。母親は、あまりの言い草についに笑い出して、「えりちゃん、この人何言ってんの?えっ?えりちゃんが母親?勝手に産んどいて…まともに顔も見ないくせに?…ねぇ、あんたたち、ほんとお似合いよ。二人で駆け落ちでもなんでもしてよ!もう、勝手にして!でも、私の孫だけは置いてって、遥人くんだけは、私がまともに育てないと。」と笑いながら、泣きながら言う。




