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約束  作者: 梅子
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衝突

 恵里菜は、分娩室で、母親に「痛い、あー痛い!」とずっと言っていたが、少し治まると、ねぇ、「安紀くんは?安紀くんどこ?」と言う。また痛くなると、「ママ、ママー!」と言うが、少し治まると、「安紀くん連れてきて、お願い。」と言う。母親は、混乱して、「やすきくんって誰なの?」と言うが、恵里菜は、「呼んできて。お願い。」としか言わない。恵里菜は、ついに波が来ているときまで、パニックのように「安紀くん、呼んできて!安紀くん、見て!」と言うので、母親は、一旦分娩室を出て、あの少年を探しにいく。すると、追いかけてきていたのか、不気味なほどすぐ見つかる。

 母親は、「あなたが、やすきくん?」と聞くと、「はい。」と短く答える。「あなたが父親なのね?」と言うと、安紀は、首を傾げて、少し考えてから、「そうなりますね。」と首を傾げたまま言う。母親は、女手一つで手塩にかけて育てた娘が、こんな子どものせいで、人生狂わされて、あんなに苦しんでる!と思うと、かっときて、安紀の両肩を掴んで、「あんたのせいだったのね、あんたのせいだったのね!」と激しく揺さぶる。安紀は、最初こそ、されるがままを許していたが、一向に状況が変わらないので、「やめてください!」と振り払う。安紀は、崩れ落ちる母親を見下して、「確かに僕は子どもの生物学的父親です。でも、僕は、石川さんに…恵里菜さんに、父親になるつもりはない、知りたいだけだって言いました。石川さんから、子どもがほしいって言われたから、父親にならないって約束をして、妊娠させたんです。それを、どうして恵里菜さんも、お母さんも僕を責めるんですか?」と、不満げに言い切る。母親は、しばらく呆然としていたが、突然、すっと起き上がって、パチンと安紀の頬を叩く。「あんた何やったか分かってないの?生まれるのよ!赤ちゃんが!」と言う。安紀は、頬を押さえながら、母親を、軽蔑した目で睨む。母親は、「あんた、父親にならないって言うんだったら、何でいるのよ!うせなさいよ!」と言うと、安紀は、「見届けるって、もう一つの約束です。」と言って、分娩室に入っていく。母親は、「行かせない!」と安紀の肩を尚も掴むので、安紀は、振り返って、「恵里菜さんが望んだことでしょ。僕は最後まで見届けるって約束を守っているって言っているじゃないですが?どうして僕を止めるんですか?」と、話が分からない人だという顔をする。安紀は、「早くしないと、いつどうなるか分からないでしょ。」と肩の手を振りほどいて、恵里菜のもとに行く。恵里菜は、痛みのあまり前後不覚で、叫んでいる。安紀は、「辛そうだね。」と恵里菜に向かって言った。


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