観察
数ヶ月後、安紀が、リュックに塾の教材を詰めていると、ピンポン!……ピンポン!ピンポン!ピンポン!とインターフォンの連打が聞こえる。安紀が開けると、恵里菜が入ってきて、抱きしめてくる。安紀は、抱きしめられながら、「どうしたの?」と真顔で聞く。恵里菜は、「会いたかったの、ずっと……。検診終わった後、ママと帰るはずだったけど、ママに用事が入って、ここに来られた。」と、弾んだ息で言う。安紀は、恵里菜に、「とりあえずそこに座って。」と、部屋のベットに恵里菜を座らせる。恵里菜は、座っていると、あっ、と思うので、「安紀くん、手出して。」と言って、自分のお腹に触れさせると、動いている。安紀は、「もう動くんだ。今、何か月だっけ?」と聞いてくる。恵里菜は、「22週。」と答える。安紀は、「じゃあ、そこに寝て。」と言って、服をめくって、恵里菜のお腹に両手で触れる。「前より大きくて、あったかいね。」と言う。恵里菜は、この瞬間がやっぱり好きで、おとなしくしている。「エコーの写真見る?」というと、安紀は、「うん。」と言う。見せると、「ここが頭で、ここが足か…。大きくなったね。」と、他人の子のように言う。少しして、恵里菜は、「出産、怖い……。」と漏らす。「安紀くんが隣にいてほしい……。」安紀は、「僕が隣にいたら、皆、僕がどうしてそこにいるのか気になるだろうね。」と的外れなことを言う。恵里菜は、「この部屋で産んじゃおうかな?」と冗談で言うと、安紀は、「医療機関の安心感の方が、好きな人の横にいるより上回るんじゃないの?」と言う。恵里菜は、もう、どうでもよくなって、めくれた服のまま、また、抱きつくと、「これ、そんなに安心するの?」と聞かれるので、「うん。」と答えてやる。
突然、恵里菜の携帯が鳴る。「もしもし、うん、うん、ごめんなさい。今、ちょっと気分転換で公園に。うん、冷やしてないよ。うん、もう帰るから。はい、ごめん、分かった。」と話している。安紀は、また、時計を見て、「電車、行っちゃった。」と独り言をつぶやいた。恵里菜は、「そろそろ帰る、また来るね。」と言うと、「次はラインして。それか、写真をラインで送ってくれればいいんだけど?」と言うので、恵里菜は、「絶対また来るから。」と言う。安紀は、「そっか、じゃあラインして。」とだけ繰り返した。




