24.憧れのお姫さま抱っこ
正直、レイさんの変わりようには驚いた。
初めて会ったときは少しぶっきらぼうな青年だったのに、おじいちゃんの家では、カトラリーの音一つ立てず、お上品にご飯を食べられちゃう貴族の御曹司さまみたいだった。そして、お父さんを怒鳴りつける姿は、まるで破落戸のような口調なのだもの。驚くなというほうが無理というものだ。でもね?
「レイさん! 汚い言葉を使ってはいけません! 小さい子が真似しちゃうでしょう!」
私のために怒ってくれたのはうれしい。でも、それはそれ。これはこれです。
「罵りたいくらいのお馬鹿さんのために、自分を落とす行動をするのはもっとお馬鹿さんなんだって、おばちゃんが言っていたし、私もそう思う!」
私は本気で叱ったというのに、なぜかレイさんは楽しそうに笑った。
「お前のご近所さんは本当にすごい人だな。なかなかに真理だ」
「でしょう? おばちゃんは最強なんだよ!」
おばちゃんの自慢をしながら、私はレイさんのそばに寄り、彼の耳元で囁いた。
(でも、ちょっと気分がよかったわ。ありがと、レイさん)
弟妹たちには内緒ね? と手振りでお願いすると、レイさんはとうとう爆笑してしまった。
だって、仕方がないじゃない? 悪いことだと分かっていても、やっちゃいたいことってあるものなのよ。
「……フィリシア。お前、いま父親のことを馬鹿だと言ったのか」
「私はおばちゃんの持論を話したつもりだったけど、お父さんは自分のことかもって思う理由があったんだ?」
お父さんの顔に朱が走った。……なんで走るっていうんだろう。ちょっと不思議だ。
「そうだな。自分の愚かさを自覚しているならありがたいことだ」
「……あ……パーシヴァルさま」
「到着したはずなのに、ちっとも入ってこないと思ったが、まさか馬鹿を晒していただけか」
お父さんの顔色が忙しい。今度は少し血の気が引いている。
それにしても、おじさんまで馬鹿って言ってるわ。男の人には困ったものだ。
「おじさん、この子たちにココアを飲ませてあげてもいい? とっても楽しみにしてるの」
「……姉ちゃん、すごいな。このタイミングで言うのかよ」
エイデンがボソリと呟いたが、気にしない。
だって、せっかく来たんだよ? おじいちゃんだって待ってるだろうし、マチルダさんがみんなに振る舞ってくれるって約束したもの。
「そうだな、みんな疲れただろう? 私は君たちのお母さんの兄でパーシヴァルだ。パーシーおじさんとでも呼んでくれ」
そこからみんなの自己紹介が始まりそうになったけど、おじさんが「君たちのお祖父様とお祖母様も一緒に聞きたいだろうから、続きは中でな」と止めたので、ちょっとおあずけだ。
くっついて離れないエレノアを抱っこし、両サイドをノアとネイサンが張り付いた。
一晩留守にしたことが尾を引いているみたいなので、歩きにくいのは我慢することにした。
意外なことに、バネッサはレイさんに向かって両手を広げた。どうやら抱っこを所望しているらしい。
「お姫さまは抱っこと肩車、どっちがいいかな?」
「んーと、お姫さまだっこ?」
「アハハッ、承知いたしました」
強いな? バネッサ。まさか、お姫さま抱っこをねだるとは思わなかった。
そんなバネッサのおかげで、他の子たちもレイさんに近づいていった。
ただ、お父さんとお母さんだけが、呆然と佇んでいる。
「ソフィア。父上と母上が中で待っている。早く来なさい。……ああ、間違えてもお前までルパートにお姫さま抱っこを希望するなよ?」
おじさんの嫌味が炸裂した。……えっと、嫌味だよね? 本当にそんなことをしていたわけじゃないよね?
思わず、レイさんを見上げた。なんとも言えない笑みを浮かべたまま口を閉ざしている。どうやら、私と同じ気持ちみたい。
結局、答えを知るのが怖くて、私たちは質問することができませんでした。




