EP.022
あれからしばらくして、私はマリアンヌと二人でお茶会を開いていた。
「…え?フラテリーニ侯爵家のことを知りたい?」
マリアンヌが驚いたように目を瞬きする…
「そうなの。…あの、でもね、知りたいと言っても、事業とか、マリアンヌが知ってることを教えてほしいの」
「ロゼリア…なんか変なことに首突っ込んでないよね?」
できるだけ自然に伝えたつもりだが、流石の洞察力である。
無言で首を振り否定する私を、マリアンヌは怪しげに見つめてくるも、それ以上は踏み込まず、知っている情報を教えてくれた。
「確か、事業はロゼリアのお家と同じで仲介業?が中心って聞いたかな…。でも、ほとんど国内取引が主って話」
「…あ、あと、五年くらい前?に、養子を取ってたわね」
「え、養子?」
その話は初耳だった。
どうやら、ちょうど私があの家に閉じ込められた後くらいらしい。
「噂では、レオナルド殿下の婚約者に添えようとしてるって…ってごめん、こんな話…」
「私が聞いてるから大丈夫」
心配をかけないように即座に返事をする。
「…それに──レオン様とは、別に、今も昔も婚約者ではないから」
気にしていないといえば嘘になるが、この言葉が全てだった。
私とレオン様の間には、明確な名前がついているわけではない。ただの、友人と変わらない立場なのだ。
しかし、マリアンヌは優しいからなんとなく察してくれたのだろう。違和感のない程度に、手短にその話を切り上げてくれた。
「…そう?まぁ、あくまでフラテリーニ侯爵が張り切ってるって話だけどね。まぁ…その義理の娘のサラ様も、結構殿下にお熱とは聞いたけど」
「あぁ…」
レオン様は、普段はあんな感じだが、れっきとした王位継承権も持つような第二王子である。
(その辺り、本人はあまり興味がないみたいだけどね…)
そのため、どれだけ裏──親しい人間の前でぶっきらぼうな口調や言い回しをしていても、表に立つと、誰もが見惚れるような王子の顔をするのだ。
爽やかに微笑み、柔らかく言葉をつなぎ人々を惹きつけるその姿に、数多くの令嬢が胸を焦がし泣いているとの噂である。
「ただ…いや、う〜ん…なんていうんだろ…」
「何かあるの?」
「う〜ん…別に、変な意味はないのよ?私から見たら、他のご令嬢と接している時と大きく変わらないと思うんだけどね。…噂では、結構──レオナルド殿下とサラ様、いい感じって話らしいのよね…」
驚きはしたが、顔には出なかったと思う。
うまく隠せたと思う。
私が聞いた手前、ショックを受けたりするのは違うから。
「…そうなの。でも、まぁ、レオン様も王族だものね。早く結婚しないといけない年齢ではあるし、いいことじゃない」
自分でもおもろくほど冷静な声だったと思う。
本当は、この事件のために近づいているのではないか?
そうであってほしいと、心のどこかで思っている自分がいた。
けれど、真相を確かめる術は私にはなかった。
「まぁ、あくまで噂だからね!気にしなくていいと思うわ」
マリアンヌはそう言うと、小さく手を叩きぱっと表情を変えた。
「あ!そういえばね!そのフラテリーニ侯爵家が出資している商会が王都にあるらしいの」
「商会?」
「うん。うちの国の特産品とか、その土地に特化した雑貨とか色々扱っているらしいの。お買い物がてら、気になるんだったそこに行ってみたらどう?」
マリアンヌが提案してくれたこの情報も、私にとっては初めて聞いた話だった。
流石に私一人で出かける許可は降りないだろう。
(アンに相談してみようかな…)
少し買い物に行き、ちょっとお店を見る。
まさか、その程度の気持ちで決めたお出かけが、後にあんな事態に繋がるとは、この時の私は知る由もなかったのである。




