episode37
「出ないな」
俺は何度も凛ちゃんに電話をかけた。しかし一向に出てくれる気配はない。念願の退院を迎えて、早く凛ちゃんに会いたい。病院の目の前にあるバス停のベンチに座ってバスが来るのを待った。
目の前に郵便局があり、白い息を吐いた人たちが出入りをしていた。木にはイルミネーションが施されており、その下で男女が写真を撮り合っていた。色違いのマフラーを着けていた。今度、凛ちゃんにマフラーでもプレゼントしようかな。そんなことを考えているうちにバスがやってきた。カバンから定期を取り出して料金を支払う。後部座席に続く小さな段差を登って一番後ろの席に座った。昼間だったからか乗客は4、5人ほどだった。
“今日会える?”
最後に一度だけ凛ちゃんにメッセージを送った。それからスマホを閉じて車窓をぼーっと眺めた。街は今日も愉快に人々を支えていた。
「あ」
天気予報にはなかった雪が降った。赤信号で停止したタイミングで、通行人がみな手のひらを空に向けていることに気がついた。前に雪が降った時は凛ちゃんと一緒に駅から歩いている時だった。あの時の凛ちゃんの頬っぺたはもっと近づきたくなった。
早く会って話したい。
メッセージボックスを見たけど、返信はまだなかった。
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「よいしょっと」
家に帰ってきた。長方形の凹んでるコンクリートの玄関で靴を脱いだ。洗面台の横を通り過ぎてメインの居間に荷物を置いた。少し背伸びして買った高めのグレーのクッションに腰掛けた。コートは着たままだった。
脳裏に“あの”光景が勝手に浮かんでくる。あの相手って、カフェの人だよね。なんであの人が響さんの病院にいるの。
響さんとあの人って、どんな関係性なの…….?
あの人、本当に遠くから見ても美女の雰囲気が抜けてない。身長の高い響さんともほとんど背丈が変わらない。長い茶色の巻紙に前髪は流して金色のピンで留めていた。
響さんいつも私のこと好き好きって、あんなに言ってたのに。普通付き合ってる人がいる時、他人とキスする?するわけないよね。
プルルルル!
突然の電話に思わず肩が跳ねた。スマホの画面を見てみると
「あー」
また響さんだ。
「......」
もちろん出ない。いまはあんな人と話したくない。
私はスマホを遠くに置いた。寒い部屋で通知が止まず鳴っていた。
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あれから、数日が経った。この間も響さんとは連絡を取らなかった。通知も極力見ないようにしていた。
「おはようございます」
私は数ヶ月ぶりに東京ドームに戻ってきた。
「あんた、戻ってきたんだね」
「......はい」
ロッカールームで嫌味を言われたが、私は冷静になり自分の制服に着替えた。
ここ数ヶ月間、売り子のバイトには出ていなかった。一度戻るのが遅かったからって、しばらく出禁になった。しかし今日は正式に上から出勤の許可がおりた。
「もう辞めたのかと思った」
すれ違ったバイトの子にそんなことを言われた。しかし何も言い返さなかった。私は真面目にバイトをするだけ。
「よしっ」
黄色いロゴが描かれた20キロほどの樽を背負ってロッカールームを出た。




