episode36
「なんで.....」
病院の入り口には、響さんとカフェのお姉さんがいた。なんであの人が、ここにいるの。2人は背丈があまり変わらない。お姉さんはチョコレート色のブーツを履いていた。そして品のある首元がモコモコの白いコートを着ていた。
どうしよう.....話しかけた方が、いいのかな。
2人の距離はどんどん近くなった。響さんは特に嫌がる様子もなかった。
「.......」
冬風が頬を撫でたのちに、まだ残っている黄色のイチョウが地面に落ちるのを見た。
目と鼻の先にいる2人は、キスをした。かなり長く。私は見ていられず、走ってその場から離れた。握りしめていたマフラーはシワが中央に集まっていた。それにところどころから糸が出てきていた。
昨日作ったばかりなのに、もうほつれちゃったや。
「なんで」
私は病院から少し離れた広い公園に来た。日曜日だったからか、半袖短パンの子供がたくさんいた。冬場なんて関係ないってくらい強気で。
公園の中にある縁か濃い緑色で全体的に茶色のベンチに座った。ふと前を見ると、枯れ果てた大きな樹木が目立たしく立っていた。
「.......あぁ、もう」
マフラーを膝の上に置いてから、手の甲で強く目を擦った。朝早く起きて、顔を洗って、マッサージして、メイクもして、何度も荷物の確認をして、鏡の前で自分を見て、響さんの顔を思い浮かべながら、早足で来たのに。
私はあんな姿見に来たんじゃないのに。ただ、会いたくて、来たのに———
初めて出会う感情に、自分が追いつかない。
とめどなく溢れる涙が落ちた時には、もう頭にはあの響さんの少し口角を上げて笑う顔はなかった。
少し切れ長な目をしていて、黒目が大きい。鼻はシュッと尖っていて彫りが深い。上唇が浮いたまま意地悪に笑う顔が、1番好き。帰った時には必ずハグをしてくれる。顔をグッと私の肩に埋めてくる。何度も私の名前を呼んでくれる。美味しいご飯をたくさん作ってくれる。2人でお風呂上がりに読む本が好き。近づくと鼻がくすぐったくなるような香りがする。たまに酔っちゃうと朝まで何もせずに一緒にいてくれる。ちゃんと泣いてくれる。本当はもっと頼って欲しい。もっと大人扱いもして欲しい。名前を呼ぶ声は少し甲高いのも好き。
「大好きなの......」
マフラーをギュッと握りしめた。
後ろの方から明るい声がする。
いま、風がひゅーっと吹いて両手で肩を撫でた。寒くて白い息が出た。足元には黒色のブーツが伸びていた。
鼻をすすってもすすっても足りない。気付かぬうちに、1人で過呼吸になるほど泣いていた。
作ったマフラーはびしょびしょになり、色が濃くなっていた。
あなたにとって、私は何?
多分辛いけど、ずっと頭には響さんが浮かんでいた。最後にもう一度だけ強く目を擦り空を見上げた。勢いのまま顔を上げたせいで首が痛む。
あの、バカ。
目を瞑るとじわっと涙が広がってさらに頬に伝った。私は立ち上がることができず、青空を見たまましばらくして、目を瞑った。
「......!?おい!!何すんだよ!!!」
「なにって、キスだけど」
「ふざけんなよ!!」
「なんでよ。私たち、付き合ってたでしょ?」
「お前な......」
「私ね、まだ響のこと好きだから」
「俺には———」
「それじゃあ、またね!!」




