episode32
私たちは抱き合った後、病院の裏庭のベンチに腰掛けた。
「星が綺麗ですね〜」
「そうだね」
響さんとの距離は近くて、手が触れそうで触れなかった。2人で同じ空を見上げる時間が、ただひたすら幸せだった。
私が響さんに会いたかったのは、ただ会いたいもある。けど、言いたいことと、聞きたいことがあるからだった。
「響さん」
「ん?」
「1つ、話したいことがあって」
「なに?」
私は小さく息を吐いた。脳裏に一瞬だけ、宮野くんの顔が浮かんだ。
「今日、同じ研究所の子に、告白されました」
「.......」
「それで、考えるとだけ言って、飛び出しました」
「.......」
「こんなこと聞いて、なんやねんこいつって、思ってもらって構いません。でも、私は、響さんしか考えられないので、断ろうと思います」
「......凛ちゃん」
「なんですか?」
「俺は、凛ちゃんのことを大事にしたいと思ってる」
「.......」
「凛ちゃんがなんと言おうと、俺は全部受け止めるから」
響さんは空を見上げてから、私と目が合った。その優しい目が見たくて、私は走ってここまで来たのかもしれない。
「泣かないで」
響さんはそう言いながら、私の頬を拭った。
響さんを目の前にすると、無性に涙がこぼれ出てきてしまう。
「響さん?」
「ん?」
「もし、私が他の人を好きになったら、どうしますか?」
「......俺は、追いかけないよ」
「......じゃあ逆は?もし、響さんが他の人を好きになったら?」
「なんで.....」
「私ね、今日、会ったんだ」
「だれに」
「多分、響さんの前の彼女と」
響さんは一瞬眉を寄せたが、すぐに元の表情に戻った。
「私と裕奈がカフェにいる時、響さんの名前出したら、店員さんが近づいて来て、聞いたことある名前だって、言わました」
ありのままにあった出来事を話すと、響さんは白い息を吐いた。その横顔は、とっても綺麗で。
「どこから話せばいいのか。嵐から、話は聞いた?」
「うん」
「そっか」
私は構えた。何を言われようとも、全て受け止める。
「今日は遅いから、もう帰った方がいいよ」
「え」
「タクシー呼ぶから」
なんで、話終わらせちゃうの。せっかく、来たのに。
「話たく、ないんですか?」
響さんはスマホでタクシーを呼んでくれていた。そして、うん、とだけ言った。
「私、響さんが話せるまで、待ってますから」
「......」
「どうしました?」
響さんはじっと目を見てきた。
「キス」
「え?」
「していい?」
えっ。いつもそんな、報告してくるっけ。
私は目を瞑った。
「......」
「......」
あれ。
「今日は、来てくれてありがとう」
鼻先だけ触れた。
「あ、タクシー来たかな」
響さんは立ち上がり、道路の方に行った。私も後を追った。
「きてるね」
病院の前に、一台のタクシーが止まっていた。
「......」
「寒いから、あったかくしてね」
「響さんも」
響さんは院内服で、腕組みをして小さく手を振って来た。私はタクシーに乗り込み、運転手さんに行き先を伝えた。扉が閉まり、窓からしか姿が見えない。響さんは仁王立ちしてまま、動かなかった。車体が動き出して、徐々に離れた。
「......」
寒そうに手を合わせて、ずっとこちらを見ていた。




