episode30
「響さん......?」
響さんの手が少し動いた。そして、かすかに私の名前を呼んだ。
「りん......ちゃん」
「響さん.....よかった。よかった」
響さんは目を少し開けた。切れ長のシュッとした目と、目が合った。
「もう、なんで......」
「凛ちゃん」
「もう私、すっごい心配しましたが、まぁいつかは目覚めると思いましたよ!?だって響さんだから、大丈夫かなーって!」
本当は、こんなこと思ってるわけない。
でも、目を覚ました響さんをいざ前にすると、自分に素直になれない。
「連絡しても返信ないし、家に行こうにもいるわけないし、病院何回行っても目覚さないし。ずっと、ずっとずっとずっと!!」
「.......」
私は何度も鼻を啜った。
「凛ちゃん」
「......はい」
「ありがとう」
「......っ。もう、いなくならないでください」
「え?」
「私は、あなたなしでは、おかしくなってしまうから」
響さんは、少し目を開いてから、ニコッと笑った。
「私、いま大学の授業中なんで、行ってきますね」
「えっ、そうなの?」
「はい。じゃあまた来ます」
「頑張ってね〜」
響さんは手を振っていた。
全然元気そうじゃない。
私は少しだけ笑って病室を出た。
「裕奈〜!」
「凛!会えた?」
「うん。目覚ましてくれた」
大学に戻り、講義終わりの裕奈と合流した。
「研究所の方には、私から言っといたら」
「ありがとう〜。なんか言ってた?」
「あのなんだっけ.....薫さん?って人は少しムスッとしてたけどね」
「明日改めて謝るわ」
「あと、もう1人さ、男の子いたよね?あんな子初めてみた〜」
頭の中に、宮野くんの顔が浮かんだ。
「少しやんちゃしそうな感じのタイプじゃない?」
「そ、そうだね」
彼の印象は、あの出来事しかない。
「そういえば裕奈さ、今日彼氏と会う日?」
「そうなの〜!!一泊2日で軽井沢旅行です!」
「いいな〜旅行」
「凛は京本と旅行とか行かないの?」
「旅行か〜.....」
『スキー旅行は、どうかな』
前に言ってたのは、スキー旅行。だけど今は、無理そうだな〜。
「まぁいつか行くよ!」
「そっか。じゃあ私こっちなんでじゃね〜」
「バイバーイ!」
裕奈に手を振った。
このまま帰ろうかと思ったけど、家でやりたい研究の課題があるから、一度研究所に戻ることにした。
さっさと課題だけ回収して、家に帰ろう。
エレベーターで上の階に上がり、研究室まで早歩きをした。
ついでに、薫さんがいたら謝ろっと。
ガチャン
「失礼しま〜す......あ」
「はーい!凛さん?」
「今日はごめんね。急に欠席にしちゃって。課題だけ取りに来たの。勉強の邪魔しちゃったよね。すぐ帰るから」
私は自分の机に行き、引き出しにあった課題を回収した。
「じゃあまたね!」
部屋を出ようとした時だった———
「.....宮野くん?」
「凛さん。一度、俺の話を聞いてください」
「なに?」
「俺、やっぱり———
凛さんのことが好きです」




