episode29
「響さんの過去?」
「はい。実は、京本さんから事前に頼まれていまして。京本さんはあまり他人には言えない職種の上、身の回りに危険がたくさんあります。そのため、いつかのためにと、託されておりました」
やっぱり、響さんが言う、”政府公認の暴力団”って、本当なのかな。
「嵐さん」
「なんでしょう」
「.....教えてください。響さんのことを」
「かしこまりました」
嵐さんは姿勢を正して、私に体を向けた。
「私が京本さんと出会ったのは、5年前のことです。私が35歳のとき、京本さんが21歳の時です。私は昔から、京本家のボディーガードとして仕えていました。しかし、2021年の3月、日本政府の大々的な政権交代がありました。前の政権では、京本家は基本的に表向きにできない汚職事件の捜査、対処を行なっていました」
「汚職事件?」
「はい。年に何度か、テレビで取り上げられてるのをご存知でしょうか?それらの事件を解決に導いているのが、私たち京本家なのです」
「じゃあ、なぜ暴力団と呼んでいるんですか?」
「昔ながらの呼び名が、そのまま使われているからです。京本家は代々に渡り日本政府と深く関わってきました。昔は、どうしても力ずくで解決する手法を取っていることも、しばしば。そのため、暴力団と呼ばれているのです」
「そうだったんですね.....」
京本一家は政治家の汚職事件を解決する。
そんなの、知るわけがなかった。
「政権交代後、私たちをよく思わない政治家たちが一致団結し、京本一家の存続が危ぶまれました。当時京本一家の8代目であった京本響さんは、京本一家を残すために、大学を中退されました」
「.......」
「しかしこの一連の流れは、仕方のないことではあります。選挙結果のことに関しましては、私たちは何も言えませんし、分かりません。ただ、仕えていた人が突然いなくなると言うのは、私たちにとってマイナスでしかないです」
自分の家を守るために、大学を捨てた。
自分の未来を捨てた、響さん。
「ありがとうございます。京本家のことが、よく分かりました」
「よかったです」
「でも、なんでこのことを私に話そうとしてくれたんですか?言いたくないけど、私たちはただの彼氏彼女で、いつ離れてもおかしくないのに......」
私は響さんの方を見た。ぐっすり、すやすや眠っていた。
「京本さんは仕事中以外、常に凛様のことを考えておりました。凛様と電話越しで話している京本さんは、桁違いの笑顔を浮かべておりますよ」
「......」
「では、私はこれで失礼致します」
「あ———」
嵐さんは立ち上がり、一礼をして病室の入り口に行った。
「あの!!」
「はい」
「ありがとうございました!!」
私は手と手を合わせて深くお辞儀をした。
嵐さんは何も言わないまま、部屋を後にした。
ガチャン
「はぁ......」
また椅子に座り、響さんの手を握り直した。
暖かくて、安心する手。
早く、握り返してほしいな。
たとえ響さんが危ない仕事をしようが、私たちの関係には、関係ない。
だって私は、響さんのことが好きだから。
「り.....」
「え」
「り、ん......?」




