episode27
ピー.....ピー
「......」
私は一度、鼻を啜った。
一晩中、響さんの手を握っていた。
「響さん」
優しく彼の体を揺さぶった。酸素マスクをつけて、目を瞑ったまま。
金属バッドで頭を強く打たれたせいで、一時的に危険な状態まで落ちた。しかし今は脈も安定し、ただ眠っているだけという。
「凛ちゃん」
「あ、お母様」
病室に、響さんのお母さんがやってきた。
「まだ、目覚さない?」
「はい」
「そう」
しばらく病室で、沈黙が流れた。2人でひたすら響さんを見つめた。
「脈が安定してるなら、大丈夫ね。それじゃあ、また来るわね」
私はお辞儀をした。
お母さんは扉に向かって歩き、部屋を出ようとした。「響は」
しかし、足を止めた。
「本当の両親でない私たちよりも、ずーっとあなたのことを愛していると思うわ」
「......」
「だから、そばにいてあげて」
私は唇を噛んだ。
「失礼するわね」
ガチャン
お母さんは部屋を後にした。
少しだけ、複雑な気持ちになった。
だけど、スッキリもした。
私は再び響さんの手を握った。
「りーんちゃん!!」
あの声、早く聴きたいなぁ。
『うわっ!何するんですか!?』
『ん〜?』
『てか顔近いから!!』
『そんなに見つめられるのいや?』
『はぁ!?』
『ははっ。うそうそ。いってきます』
『気をつけて』
「もう———!」
なんでこんな会話ばっかり頭を浮かぶのよ。もっとこう、ドキドキするような、大人な恋とか、そうゆうもんが欲しいのに.....
「響さんは、いっつも私を困らせる」
てか、いつになったら起きるのよ。こんなに寝てないで、早く。
「早く、起きて.....」
ギュッと、手を握った。けど、握り返してはくれなかった。
「こんにちは」
「凛ちゃん!昨日の荷物そのままよ!?どうしたの?」
「あ、ごめんなさい。昨日酔っ払って、持って帰るの忘れてました」
いま私は、研究室にいる。
「酔っ払ったって、ここで飲んだんじゃないでしょうね?」
「いやいやいやまさか!!!外でです」
「そうよね。そういえば、宮野くんは?」
「特に、聞いてません」
「そっか」
薫さんは白衣を着て自分の作業に戻った。
宮野くんとは、もうまともに顔を見て話せない。あんなことがあった後になんて、会えない。でも、実験で会わなきゃだよね。
「あぁ〜もう!!!」
さっさと帰って響さんのところに行こう。会っても普通に接する。大丈夫。落ち着けぇ.....
ガチャ
「おっはよーございまーす!」
「宮野くん朝から元気いいねー」
「.......」
宮野くんはいつも通り、研究室にやってきた。目が合った途端、私は目を逸らした。
「凛さん、おはよう」
私は少しだけ睨んだ。
宮野くんは自分の席に荷物を置いて白衣を着始めた。
「凛ちゃん?大丈夫?」
薫さんが顔を覗いてきた。
「あ、大丈夫です」
私は普段を装っていつも通りの作業を始めた。コンテストまであと少しなんだから。
「凛さん?ここ確認お願いします」
「ありがとう」
でも絶対に顔は見れなかった。
「はぁ」
「で?何があったわけ?」
「何って、なに?」
「いつものあんたじゃない」
「べ、別に何もないよ?」
大学の空きコマに、裕奈といつもの喫茶店に来た。あの綺麗なお姉さんがいるところだ。
「何かあったらアドバイスしたのに〜」
「.......実はさ」
「うんうん。なるほど.....ってえぇぇぇ!?!?」
「しぃー!うるさい!!」
周りから視線が集まった。
「ごめんごめん。何その映画みたいな話。あんたちょーモテ期じゃん!」
「モテ期?」
「年上の包容力ある猫系か.....年下の甘々な犬系か.....って、あの京本って男?も犬系なんでしょ?」
「ま、まぁ———」
『もう少しだけ』
「響さん.....」
「なにあんたニヤニヤてんの」
「響さんの口癖だよ〜」
「はぁ。まぁいいや。それで、京本は安定してるのね?」
「うん。もう大丈夫そう」
「そばにいてやんなよ〜」
「はいはい」
「にしても京本もやばいね〜。売り子に一目惚れして家に連れてきて付き合っちゃうって。大胆すぎてもはや好感持てるわ」
「うんうん。それに響さんは、いっつも私のことばっかり考えててくれてるし、酔った時も介抱してくれるし、ご飯も一緒に食べてくれるし.....」
「ほんっとうにラブラブなんだね」
「お待たせしました。いちごパフェです」
店員さんが注文したものを持ってきてくれた。
あ。
あの綺麗な人だ。
「ありがとうございます」
「それに京本響っていう名前もすてきっ!」
響さんの好きなとこ、尽きないなぁ。
「すみません」
「はい?」
すると、綺麗な女性が話しかけてきた。
「あの、つかぬことをお聞きしますが———
響とお知り合いですか?」




