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episode25

「宮野くん、なんで‥‥」

「‥‥‥」

宮野くんは何も言わなかった。

「ちょっと、はな、して‥‥」

なんで、なにも、言わないの。

まだ、手を離さない。

肩に顔を埋め込むようにしている。

離れようとしても、力が強くて動けない。なんで。



「ただいまー。今日寒いんですけどー」


ガチャガチャ!


「あれ?お二人さん、どつしたん?」

薫さんが帰ってくると、宮野くんはやっと離れた。

「‥‥‥っ!」

「凛ちゃん?どこ行くのー?」

あんなところ、もういられないっ———!

私は涙目になりながら研究室を飛び出した。

よく分からない。

とりあえず走った。

行先も分からない。

ただ走り続けた。

「うわっ!あぶねぇなー」

人に当たっても謝らない。もうこの学校から出て行きたかった。

荷物も、スマホと財布以外は研究室に置きっぱだ。



プルルルルル!



こんな時に、電話———響さんだ。

応答ボタンを押す指が一度固まる。けど、出なきゃ。

「もしもし?」

「凛ちゃん?ごめんね何度も。6時にそっに迎えに行くね」

「ありがとうございます」

「うん。それじゃ」

「はい.....」

「.......」

「.......」

「凛ちゃん?」

「.......」

「大丈夫?俺の声、聞こえてる?」

「ちゃんと、聞こえてます」

「凛ちゃん?」

「響さん.....」

「待ってて。いまそっち行くから」

そう言って、電話が切れた。

あれ?

もうなんで泣いてんの。

思い出すだけで、さらに。

「もう.....やだ」

メイクも崩れるし、服にはシワがたくさんつくし。



「凛!!」



「響さん.....」

「はぁはぁはぁ...なんで、凛ちゃん。泣かないで」

そう言いながら響さんは私の頬をハンカチで拭った。

「ごめんなさい.....ごめんなさい...」

「いいから。もう謝らないでいいから」

「だめっ」

響さんは、いま、ハグしようとした。

今だけは、絶対にダメ。

「凛、ちゃん?」

「響さん、私、ごめんなさい。実は.....」

「.....」

「あのね———ハグ、した」

「ハグ?」

「うん。同じ研究室の、子と」

ついに、言ってしまった。

なんで、こんな簡単に言えてしまったのだろう。

「.....じゃあ」

「えっ」

「これでいっか」

響さんはコートを脱いで、私の肩にかけてきた。

そして、ハグをした。

「響さん」

「もう話さなくていい。いまはじっとして、泣かないで」

なんで、いつもより力が強いの。

「離して」

「.......」

「離してってば!」

私は思い切り響さんを突き放した。でも当たり前に響さんは倒れない。

せっかく研究室を出てきたのに、こんなところでまた。

私は響さんから少しずつ離れた。

そして、響さんに背を向けて歩き出した。

響さんの声はもう聞こえない。

聞きたくない。

見たくない。

私は決して振り返らずに、下を見て歩いた。

「.....ゆき」

少し寒かったのも、コートのおかげで何も寒くなかった。







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