episode21
「響さん?んん.....ちょっと、まって———」
「はぁ...ごめん、つい」
「様子変ですよ?変なものでも食べましたか?」
今日の響さんは、何だか積極的すぎる。いつもは軽いキスで終わるのに。
頭の後ろにあった手は徐々に背中に周り、シャツの中に手が入っていった。
「!?」
「大丈夫?」
「は、はい」
これって、そういうこと、だよね?え、これってもう始まる感じ?私本当に初めてなんだけど.....!ちょっとまだ心の準備が全く、、、
「あの、響さんわたし」
「しー。ふっ、凛ちゃん、体に力入りすぎだよ。緊張してるの?」
顔が、近い。鼻先が当たってるし。
「ち、ちかい」
「ん?」
「ちかい!」
「.....かわいすぎるよ」
部屋は薄暗く、小さな息だけが聞こえた。
手足が伸びり、縮んだりした。
こんな経験、初めて。どうしたらいいかも分からず、響さんに全てを預けた———
「んん.....あれ?」
あれ?私、いつの間にか寝てた?
ふと布団から起き上がり、トイレに行こうとした時、自分が下着なことに気がついた。
「え!?うそっ!」
超特急でベッドの中に戻り、自分の体を隠した。
私、ついに.....
「はぁ」
私は天井を見上げた。
この感情、何だろう。今まで一度も感じたことがない感情だった。悲しくもないし、辛くもない。
でも何だか、響さんと距離がグッと近くなったら気がする。体だけじゃなくて、心も全部。
「凛ちゃん?」
「あ、響さん。おはようございます」
「おはよ」
「ちょ.....」
響さんはおはようと言うなり、手を背中に回して抱きついてきた。
私の顔は、響さんの胸に埋もれた。
「昨日寝れた?」
「多分。よく覚えてないんですけど」
「そっか。今日の予定は?」
「今日は、大学です。午後からあって、その後は何も。響さんは?」
「俺は仕事の打ち合わせ。夜まで仕事三昧。今日は寝れなさそうだよ」
やっぱり、この声は落ち着く。何が何だか分からなかった感情が封じられて、何事もなかったかのようになる。
大切な昨日のコトも、美化されていった。
「.....」
「寝ちゃった」
響さんは小さく息を吐きながら二度寝した。少し視線を上に向ければ、いつものアホ顔が浮かんでいた。
「へへっ」
私は少し体を起こして彼のほっぺに小さなキスを落とした。起きないか心配だったけど、普通に寝ていた。
「よしっ」
私は完全に起き上がった。
いつもの黒いスリッパを履いて洗面台に向かった。冷たい水のまま顔を洗う。
「はぁ!」
やけに肌ツヤがよく、顔もスッキリしていた。いつもの自分ではないみたい。
「おはよ」
「あ、おはようございます、って、さっきも言いましたよ?」
「そうだっけ」
「キッチン借りますね」
「りょうかーい」
今度はちゃんと目と目を合わせて話せた。やっぱり響さんの朝は寝癖がひどいかった。
私はあくびをしながらキッチンに立った。この前は響さんが朝ごはんを使ってくれたから、今日は私が作るって約束。
響さんはどんか料理でも美味しそうに食べてくれるからとっても嬉しい。
「何作ってるの?」
「今日はこの前の残りと、鮭と味噌汁と、和食です」
「ありがとうございます」
響さんは黒縁のメガネをつけていた。実を言うと、私は響さんの朝の姿が一番好き。無造作な髪型に余裕のない感じの態度、眠たそうな姿勢。って、気持ち悪いでしょ。でも本当のことなんだもんなー。
「凛ちゃんさ」
「はい」
「大学終わったら、夜ご飯食べに行かない?」
「え!?ほんとですか!絶対行きたいです!」
「おぉ、そんな喜ぶ?」
「いや、今のは忘れてください」
「あー!また照れてる」
「何言ってんのよ」
響さんはくすくす笑っていた。
もう.....
響さんはいつも私を困らせる。




