episode20
「響?」
「何で、お前がここにいんだよ」
「失礼ねぇ。私がここにいたらマズイっての?」
「.....」
俺の前に現れたのは———
「文華」
「久しぶり。元気してた?」
「まぁまぁかな」
「ふ〜ん、そっか。今から買い物?」
俺はコクリと頷きながら夜のスーパーに足を踏み入れた。まさかこんな所で再開するなんて。もう最後に会ったのは何年前だ?片手じゃ収まりきらない。
「私もちょうど買い物するとこだったんだ〜。一緒にいてもいい?」
「いいけど、俺すぐに車戻るよ」
「車で来てたんだ。じゃあさ、家まで送ってってよ」
はぁ?そんな無茶な願いに対応できるわけないだろ。ていうか、車内には凛ちゃんが寝てるし。急いで戻らないと、長時間1人のままにしておくわけにはいかない。
「え、それだけ?」
「急いでるから」
俺は天然水が入ったペットボトルを2本手に取り有人レジに向かった。その間もずっと文華はひっついて来てる。正直追い払う理由も見つからず、放っておいた。
「380円でーす」
「PayPayで」
電子マネーの音がスーパー内に響いた。
「ありがとうございます」
さっさと文華をかわして車に戻ろう。
.....って、この人ずっとついてくるんですけど!?どゆことガチで。意味わからん。
「あの、何でついてくるの?」
「送ってって言ってるじゃん。元カノのお願いだよ?」
元カノって、そうだけどもういつの話か忘れた。
彼女は俺が高校生の時から大学の中盤まで付き合ってた彼女、吉根文華だ。
俺が両親を亡くしてから叔父に引き取られた時、ずっと連絡を取ってくれていた、いわゆる幼馴染ってやつ。
よく心配のメールや電話をくれていた。まだ若造だった俺はその優しさに惹かれて付き合っていた。
「俺はこの後用があるからお前を送っていくのは無理だ。自力で帰れ」
「えぇ〜。私いま社の飲み会終わりで疲れてるって言うのに?」
「関係ない」
「てかなんでそんなに急いでるの?」
「文華には関係ないだろ」
「もしかして、用って彼女?」
俺は核心をつかれて少しだけ動揺した。その場に立ち止まり、文華の目を見て言った。
「だったら何だ?」
文華の動きが一瞬止まった。
やっぱり。
「だよね.....響も私も、もういい年してるもんね。ごめんねなんか。私頑張って自分で帰るわ!」
「うん」
「またね!」
文華はカジュアルな格好にかかとが高いヒールを履いていた。コツコツと音を鳴らせて俺たちが来た道を戻って行った。
帰る方向、こっちじゃなかったんだ。
「はぁ、もう何なんだよ」
俺は唐突に文華のことを考えるのが面倒ぐさくなった。今は凛ちゃんのことに集中しないと。
「凛ちゃーん?水いる?」
「あ、ありがとう。ごめんねわざわざ。ちょっと飲み過ぎちゃったみたいだから」
「そっか」
車内の助手席に座っていた凛ちゃんはごくごくと勢いよく水を飲んだ。俺も冷静さを保つために水を飲んだ。
「それじゃ帰りますよ」
「ありがとうございます」
そこからしばらく車を走らせて、俺の家に着いた。
「上がっちゃっていいの?」
「いつものことでしょ」
俺は凛ちゃんを自宅に招き入れた。手を洗わせて、一度ソファに座らせた。
俺は自分の分のコーヒーを作り、彼女の隣に座った。
「今日おいしかったねぇ」
「うん」
「私はね、明太子のやつが一番だった。響さんは?」
「同じやつ」
「そっか〜」
「.....」
「じゃあ次に美味しかったやつは?」
「.....」
「ど、どうしたの?なんか、さっきから変だよ?」
「.....はぁ。」
「ちょちょ!な、なんですか急に!?」
俺は凛ちゃんの両手をこれでもかと強く掴んで力任せに押し倒した。
凛ちゃんの目はまんまるとしてて、純粋だった。
「ん、、、ちょ.....」
「.....だめ?」
俺がそう一言言えば、凛ちゃんは怖そうに俺を見つめた。
「なんか、響さんじゃないみたい」
「ん?」
少し首をかしげると、さらに恥ずかしそうにした。照れるとまたいじめたくなる。
「ちょちょ、、んん———」
何度も深いキスが唇に落ちた。




