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03-スキル発動!

 二人の話を聞けばオオタルニカ王国、いや、この世界全般で大規模な戦争があったらしい。それは何百年と続いていて人類滅亡の危機だったとか。そこから30年たった現在、ようやく大勢の人が安定して生活していけるようになったそうだ。そんな風になってまで戦争するってバカなんじゃないだろうか。

 とりあえず二人は親のやっていたパン屋を継いで、この町にはあと3軒ほどパン屋があるのだけど東西南北ちょうどよく配置されていたので客の奪い合いということにはならなかったそうだ。

 ところが看板娘のアイリに目をつけた金持ちのボンボンがいた。親の金を自分の力だと勘違いしているタイプね。そいつはアイリにフラれた腹いせにと、すぐ傍にパン屋を作ってしまったらしい。聞いてるだけでダメ人間だってわかるわね。そんなヤツフラれて当然!

 そして品物に大差はないけどアイリたちの店より3割ほど安くパンを売ってるんだとか。安定したとはいえ裕福な家ばかりじゃない。安いものに飛びつくのは仕方ないよね……でもそれでアイリたちのお店が潰れそうだなんて納得いかないよ!!


「アイリ!お兄さん!そんなヤツに負けちゃダメ!なんとかしよう!!」


 意気込んでみたけれど肝心の二人の顔色はよくない。

「俺たちもなんとかしたいんだが……」

「味に差がなければ、安いものがいいって買物をするのは止められないわ」

 ぐぅ……それはそうなんだけどさ!見ず知らずの私にこんなに良くしてくれる二人がこのまま路頭に迷うなんて私は嫌だ!かといって私にできることって……お兄さんの作るパンは普通に美味しかった。プロに敵うような作り方なんて知らないし……あ、パンの種類を増やすっていうのはどうだろう。他にどんなパンを売ってるのかな?

「お店ではどんなパンを売ってるんですか?」

 そう言えば今って何時なんだろう。窓から見る限り太陽はまだ上の方にあるっぽい。お店放っておいていいのかな。

「どんなって……普通のパンだけど?」

 お兄さんから返ってきた答えではぜんぜん詳細が解らない。二人に頼んでお店を見せてもらうことにした。



 お店はキッチンから繋がる出入口から出ることができた。レンガのかまどだぁ……!初めて見たよ!

「パンはこっちに並べてあるの」

 おっと。目的を忘れるとこだった。カウンターの横を通り抜けて店内に。さーてどんなパンがあるのかな?

 ……あのね、お店そのものはあんまり広くないの。個人の店だからそこは仕方ないってゆーか日本でも個人でやってる美味しい店ってあんまり大きくないしね。だけどね、まさか、まさかカウンターに並んでるパン2種類が全部ってことないよね!??

「黒パンと白パンだよ。白パンはさっき食べてもらった柔らかいパンで、黒パンは日持ちするように固めに作ってあるんだ」

「あの、他のパンは売り切れですか?」

 お兄さんの口調から、もしかしなくても……

「パンはこれで全部だよ」

 やっぱり!!

「いくらなんでも種類が少なくないですか?」

「種類?」

 兄妹そろって首を傾げている。なんてこと!

「レーズンパンとか!クロワッサンとか!クリームパンとかあんパンとか!」

 どれも日本ではポピュラーだったのに。これじゃあお客さんだって飽きちゃうよ。

「ユイナは他のパンを知ってるの?オオタルニカではパンと言えばこの2種類なんだけど……」

 つまり他のお店もここと変わらないってことよね?それなら勝算があるよ!私だってパンに詳しいわけじゃないけどレーズンパンとか簡単そうじゃない?

「アイリ!お兄さん!もっと他のパンも作りましょう!!」

「他のパンって言っても……」

「私のいたところのパンを教えます!それで他の店に差をつけてやりましょ!」

 私の意気込みに押されてアイリは困惑している。でもお兄さんは何か考え込んでいるみたい。脈ありかしら?

「……アイリ、一度ユイナのいう新しいパンを試してみよう」

「お兄ちゃん?本気なの?」

「このまま何もしなければ潰れるのは眼に見えているよ……俺は店を潰したくない」

 おお!いいねいいね、やる気だね!

「ねえ、アイリ。一度だけでも試してみない?」

「そう……ね。私も、両親の残してくれた店を潰したくないわ」

 よーし!決定だー!

「じゃあね、さっそくだけど簡単そうなのからいくね!サンドイッチは具を挟むだけだしレーズンパンもレーズンを入れて焼くだけだからいけると思うの」

「落ち着いて、ユイナ。一つづつ説明してくれるかい?」

 おっとっと。先走りすぎちゃった。

「あ、ごめんね。じゃあサンドイッチからね。これはパンを薄切りにして具を挟むの。具はなんでもいいんだけど……」

 さっきのスープを思い出せば野菜類は色々ありそうだ。

「バターはあるかな?あと野菜とベーコンがあるといいなぁ。それとゆで卵!」

 食材は日本とあまり変わらないね。でも手をかけるってことがあまりないらしい。

「お兄さんはパンを切ってくれる?そうね、6枚になるように」

 食パンのように四角いパンはないらしい。お見せにある白い丸いパンを切ってもらう。まずはバターを塗ってと。

「こっちはレタスとベーコンね。こっちはジャム。これは玉子サンドにしよっと」

 私でも作れる簡単な物から……と思ったらなんとマヨネーズとジャムがなかった!ええー。


『ユイナ、ユイナ』


 頭の中に声が響く。この声はちっちゃい女神さま?

『あのね、おかあさんがこっちでもちゃんとスキルが使えるか見てきなさいって……』

 スキル!そうだ、私には100均という強い味方があるじゃない!!ジャムもマヨネーズも売ってたはず。

 スキルを発動させて手のひらをなぞるように商品を探す。検索機能もあるとはなかなかやるじゃない。注文確定ボタンを押して待つ。

『アイテムがとどきましたぁ!かばんの中をみてください』

 魔法の鞄って言っても本当に鞄があるわけじゃないのよね。100均ショップと同じように頭の中に画面が浮かび上がる。そこからお目当てのものを見つければ手のひらの上に現れた。こんなふうに出てくるなんて知らなくて落としそうになってしまう。

『よかった。ちゃんと出ましたね』

 女神さまもほっとしたような声を出している。

「ユイナ……?」

 あ、思わず二人を置いてけぼりにしてしまった。

「あのね、これは私の故郷のものなんだけど……」

「え……?」

 二人はきょとんとして私の差し出した手を見詰めている。

「……何もないけど?」

 ええっ!?この真っ赤なイチゴジャムの瓶が見えないと?

『ユイナ、あのですね、あなたの国のものはほかの人に見えないです。ぶんかのちがいでこんらんをおこす……と言ってました』

 誰がよ!見えなくてどう使うの!?責任者でてこいー!!

『それで、ユイナが買ったものはかこうするとほかの人にも見えたりつかえるです』

 かこう……加工?手を加えればいいってことなのかな?

『どうぐだとたくさんつかうと世界となじんで見えるそうですー』

 はぁ……よく解らないけど色々制約があるのね。

『ごみはかばんの中にごみ箱があるので入れたらなくなります』

 あ、それ助かる!プラゴミってなにげにたくさん出てかさばるのよね。

『ちゃんとつかえてよかったです。これでわたしもいちにんまえなのです!』

 いや、それはどうかなぁ……?

『おかあさんにおしらせしてきます!』

 え、ちょっと!

 何度呼びかけても返事はかえってこなかった。


「お待たせ!女神さまからもらったスキル使ってたの」

 あっけにとられている二人に向き直ってスプーンを貸してもらう。ジャムの蓋を外してスプーンを差し込む。アイリとお兄さんから見たらパントマイムみたいなんだろうなぁ。

 パンの上にジャムを塗ると加工と認めてもらえたみたいで二人にも見えたみたい。

「「えっ」」

 急に現れたジャムにびっくりしている。

「あのね、私が使わないと見えないみたい。これはイチゴジャムっていって果物を砂糖で煮詰めたものだよ」

 どうやらイチゴやブルーベリーなんかの果物はあるらしいけど砂糖で煮てジャムにするっていう発想がなかったらしい。それってどう考えても食文化はあまり期待できなさそうだよね……

 気を取り直してゆで卵は潰してもらってマヨネーズと和える。塩胡椒も少しだけ。レタスとベーコンはそのまま挟めばいいだけだから簡単だ。

「じゃーん!これがサンドイッチです!」

 三人前をお皿に並べて差し出した。さっき食べたばかりなので私の分は小さめだ。

「パンとおかずをひとまとめにしてあるのか」

「彩りがきれいで美味しそうね」

「こうやってね、手で持ってあぐっとかぶりついて食べてね」

 まずはお手本として食べてみせる。どれも私にとってはよくあるフツーの味だけど二人にはちがったみたい。

「……美味しい!このジャムっていうのが甘くてデザートみたい」

「玉子もまろやかで、でもしっかり味がする……ベーコンとレタスもすごく合う!!」

 二人はあっという間に食べ終わった。

「作り方も簡単なのにこんなに美味しいなんて……」

「外で食べるにもいいな。歩きながら食べれそうだ。旅人たちに売れるかも」

 二人はサンドイッチに対して前向きになってくれたようだ。

「じゃあサンドイッチは売るってことでいいですか?」

「もちろん!これなら余っても私が食べちゃうわ」

 アイリはよっぽどジャムが気に入ったらしい。

「でも、このジャムとマヨネーズが……どうやって作ったらいいんだろう」

 それは私がスキルで買って、その分の代価をいただくことになった。私しか使えないのでその工程は私が請け負う。私はいいって言ったのに「仕事だから」とお給料まで約束してくれる。ありがたい。作り方も一応説明してみたけど最初のうちは慣れないので私から買ってくれるらしい。

「そのうち自分たちでも作れるようになりたいなぁ」

 お兄さんが楽しそうだ。きっと料理が好きなんだね。レーズンパンは今日焼く分が終わってしまっているとのことで明日にまわした。レーズンもお酒もあるのに漬けるという手法はなかったみたい。戦争のせいで食べ物が不足して保存にまわすほどの分があまりなかったらしい。とりあえず明日は100均から買ってすませることにした。

 問題は値段だ。今はパンを一つ100sで売っているらしい。それをボンボンの店では70sで売っているのね。どこの家も大体4~5人で暮らしているうえにパンが主食らしい。それは一家でかなりの数を買うよねぇ。全部をサンドイッチやレーズンにしなくてもいいんだから私は200sくらいでいいと思ったけど倍額は厳しいという二人の意見にしたがって150sに落ち着いた。これでもちゃんと利益は出るみたいだしこの世界に詳しくない私が決めるよりいいだろう。

「とりあえず明日はそれぞれ20個くらいを作って出してみよう」

「ええ!もっと多くてもよくない?」

「でも売れるか解らないのに沢山は出せないわ」

 むぅぅ。商売って難しいんだな、やっぱり。でも仕方ない。全部売れるようならまた増やせばいいし途中で追加もできるもんね。

「それじゃあ買い出しにいかないとな。アイリ、荷物が多くなりそうだし皆で行こう」

「市場があるの!?私も行きたい!!」

 リアル市場!スーパーとかはないんだよね、きっと。果物や野菜がたくさん積んであったりするのかな。これはテンション上がってきましたよ!

「皆で行くとお店閉めなくちゃいけないでしょ。お兄ちゃんとユイナで行ってきてくれる?私はその間に具材の下ごしらえをしておくわ」

「わかったよ。それじゃあユイナ、行こう」

 こうして私たちは市場へと向かうことになった。どんなお店があるのかなー。できれば雑貨屋さんとかあると嬉しいんだけど。

 そんな期待は粉々に砕かれることを、私は知らずに浮かれていた。


誤字脱字等は修正しても報告あげないつもりです……改の字があったらそーゆーことだったと思ってくださいm(_ _)m 話に大幅な修正等がある時はきちんと報告します。

一話あたり2000字くらいであげていこうと思ってたのにどんどん伸びていく……不思議。区切りが悪いので仕方ない?

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