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クーリングクレジット:cooling credit 第四部  作者: マスター


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第62話 5.000 CCの条件

第62話は、最低5.000 CCという破格の広域案件を前に、ユウトが即答せずにFROST-9の考え方と北第七码頭の現実を確かめようとする回です。

大きく稼ぐための近道か、それとも自分のやり方を失う罠か。上位プレイヤーとの初対話を、テンポよく描きます。

『北第七码頭・限定広域案件』

『報酬:最低 5.000 CC』


 中央冷却ターミナルの巨大モニターに、その数字が浮かんでいた。


 5.000 CC。


 ユウトの累計は、1.261 CC。


 数字だけ見れば、今回の案件を一度成功させるだけで、今までの積み上げを何倍も越えられる。


「……最低、5.000」


 ユウトは、思わず口に出した。


 FROST-9は、表情を変えなかった。


「正確には、基本達成で5.000。

 追加条件を満たせば、もっと増える。」


「追加条件?」


「広域案件は、結果だけでなく安定性も評価される。

 冷却ラインを止めず、物流を遅らせず、救急対応を出さず、三日間を越えられれば、追加配分がある。」


「どれくらいですか?」


「最大で12.000 CC。」


 ユウトは、息を止めた。


 12.000 CC。


 都市圏ランキング1位が、87.420 CC。


 自分がその数字に近づくには、まだ遠い。


 でも、これは遠い世界の話ではなくなり始めている。


「……どうして俺なんですか。」


 ユウトは、FROST-9を見た。


「上位プレイヤーなら、ほかにもいるんじゃないですか。

 俺よりCCを持ってて、経験もある人が。」


「いる。」


 FROST-9は、即答した。


「そして、ほとんどの上位プレイヤーは、私の条件なら受ける。」


「じゃあ、なおさら俺じゃなくていい。」


「違う。」


 FROST-9は、都市圏の地図を拡大した。


 北第七码頭。


 海沿いの広大なエリア。

 コンテナヤード。

 大型倉庫。

 配送車の待機列。

 作業員用の休憩棟。

 近くには、古い住宅地もある。


「上位プレイヤーは、効率のいい場所を見つける。

 冷却効率。物流効率。設備効率。

 数字を伸ばすことには長けている。」


 北第七码頭の地図に、青と黄と赤の線が表示される。


「でも、効率が悪い場所を“残す”判断は、得意じゃない。」


「残す?」


「休憩棟。

 日陰の少ない待機列。

 短時間しか使われない給水所。

 近隣住宅地の小さな避難スペース。」


 FROST-9が赤い点を順に指す。


「全体を守るためには、切る候補になりやすい場所。」


 ユウトは、少し驚いた。


 FROST-9は、ただの効率主義者ではないのか。


「じゃあ、俺にそこを守れって?」


「違う。」


 FROST-9は、ユウトをまっすぐ見た。


「守るか切るかを、私の代わりに決めてほしい。」


 ユウトは眉をひそめる。


「さっき、最終決定はあなたがするって。」


「最終責任は私が持つ。

 でも、判断材料を出す人間が必要だ。」


「俺は、現場を見て、報告して、あなたが決める?」


「そう。」


「それなら、協働運用とあまり変わらないんじゃ。」


「違う。」


 FROST-9の声が少し低くなった。


「協働運用は、全員が決定に関わる。

 この案件は違う。

 全員の意見を聞いていたら、三日間で何かが破綻する。」


 制御室のモニターに、予測データが表示される。


『北第七码頭・猛暑予測』

『最大体感温度:43℃』

『大型貨物集中:通常比 168%』

『夜間待機車両:通常比 142%』

『地域冷却余力:11%』


「余力、11%……」


 ユウトは数字を見る。


 共同冷却ラインの夜、余剰が4%になったとき、あれほど危なかった。


 今回は広域。


 規模が違う。


「全員を守れる余力はない。」


 FROST-9が言う。


「だから、先に削る場所を決める必要がある。」


 その言葉で、ユウトの胸が少し冷えた。


「削るって……」


「冷却出力を下げる。

 運用時間を短縮する。

 優先順位を下げる。

 言い方を変えても同じこと。」


 FROST-9は、ためらわなかった。


「私は、決める。

 そのために、現場を見てきてほしい。」


 ユウトは、モニターの赤い点を見る。


 小さな給水所。

 短時間の休憩棟。

 住宅地の避難スペース。


 確かに、全体の効率だけなら、先に切られる場所だろう。


 けれど、そこには人がいる。


「条件を変えてほしい。」


 ユウトは言った。


 FROST-9の眉がわずかに動く。


「何を。」


「俺が行くなら、現場の声を集めるだけじゃなくて、代替案を出す権限がほしい。」


「提案なら、できる。」


「提案じゃ足りない。」


 ユウトは、言葉を選ぶ。


「“切るか残すか”の二択だけじゃなくて、

 時間帯を分けるとか、移動導線を変えるとか、低出力で残すとか。

 別の形を試す裁量がほしい。」


「裁量?」


「小さな現場調整です。

 大きなラインを勝手に動かすんじゃない。

 でも、現場にいる人が、少しでも使える形を作るための調整。」


 FROST-9は黙った。


 制御室の冷却音だけが響く。


 ブゥゥゥン……。


「報酬が欲しいから、行くんです。」


 ユウトは正直に言った。


「5.000 CCは、欲しい。

 成り上がるために必要なチャンスだと思う。」


「なら、私の指示に従えばいい。」


「でも、CCを稼ぐために、現場で見た人を数字だけで切りたくない。」


 FROST-9の目が、少しだけ細くなる。


「きれいごとだ。」


「そうかもしれないです。」


「北第七码頭では、きれいごとでラインは回らない。」


「分かってます。」


 ユウトは、北第七码頭の地図を見る。


「だから、現場を見てから決めたい。」


 しばらく沈黙が続く。


 やがてFROST-9は、端末を操作した。


『限定広域案件・参加前偵察』


『北第七码頭:事前観測パスを付与』


『猶予:24時間』


「一日だけやる。」


 FROST-9が言った。


「北第七码頭を見て。

 私が切る候補にした場所を全部回れ。」


 モニターに、四つの赤いポイントが表示される。


『A:第3作業員休憩棟』

『B:待機車両用給水スポット』

『C:港湾外周・日陰ベンチ区画』

『D:近隣住宅地・簡易避難スペース』


「四つ?」


「全部、運用縮小候補。」


「これを見て、代替案を出す。」


「出せなければ?」


「……あなたの判断に従う。」


 FROST-9はうなずいた。


「それが条件だ。」


 ユウトのスマホに、新しい画面が出る。


『事前観測パス:開始』


『報酬:観測完了 +0.080 CC』

『代替運用案が採用された場合:追加 +0.250 CC』

『広域案件への正式参加資格:解放可能』


「0.080……」


 いきなり5.000 CCではない。


 まずは、現場を見る。


 小さな報酬から始める。


 ユウトらしい。


「受けます。」


 ユウトは言った。


「ただし、四つの場所を見て、切る以外の方法がないなら、俺も認めます。」


「いい。」


 FROST-9は、初めてわずかに笑った。


「それを見たかった。」


「何をですか?」


「5.000 CCを見ても、すぐに頷かないかどうか。」


 ユウトは少し不快になった。


「試したんですか。」


「そう。」


「人を試すの、好きなんですか。」


「好きではない。

 でも、広域案件で現場を任せる相手は選ぶ。」


 FROST-9は、北第七码頭の地図を消した。


「明日、午前六時。

 第七码頭の東ゲートから入って。」


「分かりました。」


 ユウトが出口へ向かうと、背後からFROST-9が言った。


「ひとつだけ、警告しておく。」


 ユウトは振り返る。


「北第七码頭には、私のチームだけじゃない。

 他の上位プレイヤーも、案件の一部を狙っている。」


「競争相手がいる?」


「いる。」


 FROST-9のモニターに、ランキングの一部が表示された。


『都市圏ランキング 3位:HEATWAVE-3』

『都市圏ランキング 5位:RIVER-EDGE』

『都市圏ランキング 8位:MIST CROW』


「彼らは、切る場所を迷わない。」


 ユウトは、そのIDを見た。


 自分のログを閲覧していたFROST-9。


 そして今度は、自分が上位プレイヤーたちの領域へ入る。


「俺が代替案を出す前に、誰かが切るかもしれない。」


「そういうこと。」


 ユウトのスマホが震えた。


『北第七码頭・事前観測パス』


『開始まで:15時間42分』


 その下に、見慣れない表示がある。


『観測対象:4地点』

『競合プレイヤー:検出』

『あなたの現在順位:圏外』


 そして最後に、一行。


『最初に現場を動かした者へ、優先提案権を付与』


 ユウトは、中央冷却ターミナルの出口で立ち止まった。


 5.000 CCは、まだ遠い。


 だが明日。


 北第七码頭で、自分より強いプレイヤーたちより先に、四つの現場を見て、動かし、提案しなければならない。


 成り上がるための競争が、いよいよ始まる。

第62話では、ユウトが最低5.000 CCの広域案件を前に、FROST-9の条件をそのまま受け入れず、「切るか残すか」だけではない代替案を提案する裁量を求めました。


今回のポイントは、以下です。


北第七码頭では猛暑と大型貨物集中が重なり、地域冷却余力は11%しかない


FROST-9は全員を守る余力がないため、先に運用縮小する場所を決める必要があると考えている


縮小候補は、第3作業員休憩棟、待機車両用給水スポット、港湾外周の日陰ベンチ区画、近隣住宅地の簡易避難スペース


ユウトは、時間帯分け・低出力化・導線変更など、現場に残せる代替案を検討する権限を求めた


FROST-9は24時間限定の事前観測パスを付与し、観測完了で+0.080 CC、代替案が採用されれば追加+0.250 CCを提示した


北第七码頭にはHEATWAVE-3、RIVER-EDGE、MIST CROWといった上位プレイヤーも関わっており、優先提案権をめぐる競争が始まる


ユウトは、5.000 CCをただ受け取るためにFROST-9へ従うのではなく、自分の強みである“現場を見て、使える別の形を作る”ことを持ち込もうとしています。

ただし、今回の相手はこれまでのような街外れの小さな改善ではありません。都市圏ランキング上位のプレイヤーたちは、ユウトが現場を見終える前に、効率の悪い場所を切るかもしれません。


次回は、午前六時の北第七码頭から始まります。

四つの縮小候補をどんな順番で回るのか。誰が先に現場を押さえるのか。そしてユウトが最初に出会う競合プレイヤーは、協力相手になるのか、それとも最初からユウトの案を潰しに来るのか。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成:リアル(Perplexity)

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