↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クーリングクレジット:cooling credit 第四部  作者: マスター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/38

第61話 FROST-9からの招待

第61話は、共同冷却ライン編を終えた翌日から始まります。

累計1.243 CCに到達し、都市圏ランキングの対象にもなったユウト。しかし、その朝に届いたのは祝福ではなく、上位プレイヤー「FROST-9」からの短いメッセージでした。成り上がりの次の舞台が、静かに開きます。

 月曜日、午前七時。


 相馬ユウトは、アパートのベッドの上で目を覚ました。


 身体が重い。


 前日の夜。

 旧待合所。

 夜間配送待機所。

 屋上の予備循環バルブ。

 共同冷却ライン。


 あれだけ走って、考えて、叫んで、判断した。


 眠れたのは、ほんの数時間だった。


「……今日は休みたい」


 ユウトは枕に顔を埋めた。


 しかし、スマホが震える。


『共同冷却ライン・前日ログ確定』


 目をこすりながら画面を見る。


『安全導線:正常』

『待機所・医療配送優先配分:継続中』

『会場噴霧V-3A:低出力維持』

『協働運用日次プール:0.050 CC』


『あなたの前日貢献配分:+0.018 CC』


「……0.018」


 大きな限定チャレンジの後だから、小さく見える。


 でもこれは、一晩だけのボーナスではない。

 協働運用が続く限り、現場で役に立てば、少しずつ増えていくCCだ。


『累計:1.261 CC』


「積み上がる……」


 ユウトは、少しだけ笑った。


 小さな改善。

 現場の確認。

 人の声。

 危険を避けた判断。


 その積み重ねが、1.0 CCを越えた。


 だが、次の通知を見た瞬間、眠気が飛んだ。


『新着メッセージ』


『差出人:FROST-9』


 ユウトは、画面を見つめる。


 都市圏ランキング対象の実績として登録された直後、自分のログを閲覧していた謎の上位プレイヤー。


 メッセージは短かった。


『あなたの協働運用ログを読んだ。

 今夜、話がしたい。』


 さらに、位置情報。


『集合場所:中央冷却ターミナル

 時間:20:00』


「中央冷却ターミナル……」


 街外れとは反対方向。


 都市圏の中心にある、大規模な冷却拠点。


 ユウトは、画面をスクロールする。


『注記:

 招待を受けるかどうかは自由。

 ただし、返答は正午まで。』


「正午までって……急すぎるだろ」


 ユウトはベッドから起き上がった。


 ◇


 午前九時。


 ユウトは、駅前広場のベンチに座っていた。


 いつものミスト。

 いつもの案内板。


『ここで休めます』

『無料です』

『申請不要です』


 第四部の最初に、何度も見た言葉。


 街外れで大きなチャレンジを終えたあと、この場所は妙に静かに見えた。


「悩んでますね」


 声をかけてきたのは、WindArcだった。


 ユウトは、少し驚く。


「久しぶりですね。」


「共同冷却ラインの話、聞きました。

 街外れでかなり大きなことをやったそうで。」


「全部、なんとか間に合いました。」


「“なんとか”の規模じゃないですよ。」


 WindArcは、ユウトの隣に座る。


「旧待合所の再接続。

 会場噴霧の再調整。

 夜間配送待機所の冷却配分。

 協働運用の立ち上げ。

 現場ログを見た人たちの間では、かなり話題になっています。」


「それで、これが来たのかな」


 ユウトはFROST-9のメッセージを見せた。


 WindArcの表情が少し変わる。


「FROST-9から?」


「知ってるんですか?」


「名前だけです。」


「名前だけ?」


「都市圏ランキングの上位に、ずっといるプレイヤーです。

 個人で大きな冷却案件をいくつも回している、と言われています。」


「……個人で。」


 ユウトは、昨日の運用者選定を思い出す。


 自分は、一人で決める道を選ばなかった。


 でもFROST-9は、個人で大きな案件を回している。


「どんな人なんですか?」


「顔も本名も、ほとんど出していません。

 ただ、ランキングの記録を見る限り、

 広域冷却の効率化で大きくCCを稼いできた人です。」


「効率化……」


 その言葉が、少し引っかかる。


 R-01。

 地域最適化サーバー。

 人の滞在を数字の外に置いた効率。


 ユウトは、画面を見る。


『今夜、話がしたい』


「行くべきですかね。」


 WindArcは、すぐには答えなかった。


「会うべきかどうかは、ユウトさんが決めることです。

 でも、上位プレイヤーからの招待を断るなら、何を断るのかを分かった上で断った方がいい。」


「話を聞くだけなら。」


「それでいいと思います。」


 ユウトはしばらく考えた。


 FROST-9が何を求めているのかは分からない。


 共同冷却ラインを褒めたいのか。

 都市圏ランキングの世界へ誘いたいのか。

 あるいは、協働運用を自分の効率的な案件に組み込みたいのか。


 でも、知らないまま怖がるより。


 会って、見て、判断する。


「行きます。」


 ユウトは、返信を打った。


『相馬ユウトです。

 20時に中央冷却ターミナルへ行きます。』


 送信。


 すぐに既読がつく。


 そして、返信。


『了解。

 あなた一人で来て。』


 ユウトの指が止まった。


 ◇


 午後。


 共同冷却ラインの協働運用チャットに、新しいメッセージが入った。


『ハル:

  日次ログ確認。会場側、問題なし。

  V-3Aは6%固定。』


『ナギ:

  待合所の換気と低出力冷却も安定。

  ただし予備循環経路は、今夜もう一度点検したい。』


『蒼真:

  夜間配送待機所、今夜も人多い。

  片瀬さんが、仮置きの分け方を少し変えるって。』


『片瀬:

  医療配送側は問題なし。

  ただし、気温が上がれば再調整が必要。』


 ユウトは、画面を見た。


 昨日までなら、自分が現場を走っていた。


 今は、みんながそれぞれの場所で動いている。


 協働運用は、最初の一日をちゃんと回り始めていた。


「……俺がいなくても、回る部分がある」


 少しさみしいような。

 でも、安心するような気持ち。


 そのとき、ナギから個別メッセージが来た。


『FROST-9に会う件、聞いた。』


「誰から?」


『ハル。

 ハルは蒼真に言った。

 蒼真は片瀬さんに聞いた。

 片瀬さんが私に送った。』


「情報が早いな……」


『協働運用だから。

 一人で危ない場所へ行くなら、共有して。』


『ユウト:

 中央冷却ターミナル。20時。

 話をするだけ。』


『ナギ:

 “あなた一人で来て”って言われたんでしょ。』


 ユウトは、少し驚く。


『ユウト:

 どうして知ってる?』


『ナギ:

 顔に出てそう。』


『ユウト:

 メッセージですけど。』


『ナギ:

 じゃあ、文面に出てる。』


 少し間を置いて、ナギから続きが届く。


『行くなとは言わない。

 でも、中央冷却ターミナルは見学施設じゃない。

 広域設備の調整拠点。

 入るなら、何を持ち帰るか決めてから行って。』


「何を持ち帰るか……」


 ユウトは、その言葉をメモした。


 情報。

 交渉。

 新しい案件。

 あるいは、上位プレイヤーの考え方。


 何も持ち帰れないなら、会う意味がない。


 ◇


 午後七時四十分。


 中央冷却ターミナル。


 ユウトは、駅から降りて巨大な建物を見上げた。


 街外れの旧待合所とは比べものにならない。


 ガラス張りの壁。

 高い冷却塔。

 上を走る太い配管。

 出入りする管理車両。


 建物の正面には、大きな表示があった。


『都市圏冷却ターミナル

 広域負荷調整・非常時供給拠点』


「……ここが、上位プレイヤーの世界か」


 入口で、端末を持った受付スタッフが待っていた。


「相馬ユウトさんですね。」


「はい。」


「FROST-9様がお待ちです。

 こちらへどうぞ。」


 案内されたのは、一般の待合スペースではない。


 認証ゲート。

 管理用エレベーター。

 数字だけが並ぶ制御フロア。


 エレベーターの中で、ユウトのスマホが震えた。


『都市圏ランキング対象エリアに入りました』


『プレイヤー観測強度:上昇』


「観測強度?」


 不穏な言葉だ。


 エレベーターが止まる。


 扉が開く。


 そこには、巨大な制御室があった。


 壁一面のモニター。

 都市圏の地図。

 無数の冷却ライン。

 色で変わる負荷表示。


 青。

 黄。

 赤。


 そして、中央のモニターに。


『都市圏ランキング

 1位:FROST-9』


 数字が表示されていた。


『累計Cooling Credit:87.420 CC』


「……八十七?」


 ユウトは、思わず立ち止まる。


 自分は1.261 CC。


 桁が違う。


「驚いたか。」


 制御室の奥から声がした。


 白いジャケット。

 長い黒髪。

 年齢はユウトより少し上に見える女性。


 彼女はモニターの前に立ち、振り返った。


「相馬ユウト。

 ようこそ、中央冷却ターミナルへ。」


「……あなたがFROST-9?」


「そう。」


 FROST-9は、ユウトのスマホをちらりと見た。


「協働運用を選んだプレイヤー。

 個人日次0.030 CCを捨てて、0.050 CCを分配する側に回った人。」


「ログ、全部見たんですか。」


「必要な範囲だけ。」


「何の話がしたいんですか。」


 FROST-9は、都市圏の地図を操作する。


 いくつもの冷却ラインが表示される。


 その中で、ひとつのエリアが赤く点滅した。


『次期重点エリア候補:北第七码頭』


「ここを見てほしい。」


「北第七码頭?」


「明後日から三日間。

 猛暑と大型貨物の集中が重なる。」


 地図上の赤いエリアが、ゆっくり広がる。


「冷却余力が足りない。

 物流、作業員、待機車両、近隣の休憩所。

 全部を守ろうとすれば、誰かの優先順位を下げる必要がある。」


 ユウトは、共同冷却ラインの夜を思い出す。


「俺に、何をしろと?」


 FROST-9は、まっすぐユウトを見た。


「協力して。

 ただし今回は、協働運用じゃない。」


 モニターに、新しい表示が出る。


『北第七码頭・限定広域案件』


『報酬:最低 5.000 CC』


 ユウトの呼吸が止まる。


 5.000 CC。


 これまでの最大報酬0.150 CCを、はるかに超える数字。


「条件は?」


 ユウトが聞く。


 FROST-9は、静かに答えた。


「私の指示に従うこと。

 現場判断は、私が最終決定する。」


 制御室のモニターで、北第七码頭が赤く光っていた。


 ユウトは、5.000 CCという数字と、FROST-9の目を見比べた。


 成り上がるための最大のチャンス。


 けれど、それは自分が昨日、選ばなかった“一人の正解”の中へ入る誘いだった。



第61話では、共同冷却ライン編の翌日を描き、ユウトの前に都市圏ランキング1位の上位プレイヤー・FROST-9が現れました。


今回のポイントは、以下です。


協働運用の初日分として、ユウトには+0.018 CCが配分され、累計は1.261 CCになった


FROST-9は都市圏ランキングの上位プレイヤーで、累計87.420 CCという圧倒的な実績を持つ


ユウトは中央冷却ターミナルへ招待され、広域冷却の規模と上位プレイヤーの世界を初めて目にした


FROST-9は、北第七码頭で起きる猛暑と大型貨物集中への対応案件を提示した


報酬は最低5.000 CC。ユウトにとって、一気に成り上がる最大級のチャンスになる


ただし条件は、FROST-9の指示に従い、最終決定権を彼女へ預けることだった


第61話は、ユウトの物語が「街外れの協働運用」から、「都市圏規模の競争と高額報酬」へ移り始める回です。

5.000 CCは、ユウトがこれまで積み上げた1.261 CCを大きく上回る数字です。しかし、その報酬を受け取るためには、自分で現場の声を聞き、仲間と優先順位を作るやり方を、一度FROST-9に預ける必要があります。


次回は、ユウトがこの誘いを即答せず、北第七码頭の情報とFROST-9の運用方針を確かめようとします。

FROST-9は本当に冷酷な効率主義者なのか。それとも、都市圏全体を守るために厳しい選択をしているだけなのか。ユウトは5.000 CCの誘惑の前で、自分の勝ち方を試されることになります。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成:リアル(Perplexity)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。