↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クーリングクレジット:cooling credit 第四部  作者: マスター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/34

第56話 暗闇の非常換気

第56話は、夜間配送待機所編の緊急局面です。

冷却の再配分には成功したものの、非常換気が止まり、待機所の空気そのものが危険になり始めました。ユウトたちは配送員を退避させながら、暗い施設の奥で換気を復旧させ、外部操作者の正体へ一歩近づきます。

 待機所の照明が落ちていた。


 残っているのは、赤い非常灯だけ。


 壁。

 ベンチ。

 配送員たちの顔。


 すべてが、薄い赤色に染まっている。


『待機所・非常換気:停止』

『復旧優先度:最上位』


 ユウトのスマホには、そう表示されていた。


 その下で、冷却ラインの数値が変動している。


『共同冷却ライン負荷:79%』

『待機所:21.1℃』

『仮置きスペース:6.7℃』

『会場噴霧 V-3A:16%』


「全員、こちらへお願いします!」


 蒼真が、大きな声を出した。


「待機所は一度、外へ移動します!

 荷物側には入らないで、白いラインより手前へ!」


「なんだ、停電か?」


「照明だけ?」


「冷房は動いてるぞ」


 配送員たちの間に、不安が広がる。


 しかし蒼真は、さっきまでの強引な口調ではなく、ひとりひとりの目を見て言った。


「念のためです。

 五分だけ、場所を移してもらえますか。

 ここは俺たちが確認します。」


 その言い方がよかったのか、最初に立ち上がったのは、さっきユウトたちに話しかけた配送員だった。


「分かった。

 みんな、いったん行こう。」


 他の人たちも、少しずつ動き始める。


 片瀬は無線機を持ち、仮置きスペースの外側を指示した。


「保冷区画の外、荷札棚の横を一時待機にします!

 水を出して! 椅子も持ってきて!」


「了解!」


 台車を押していた作業員が、すぐに動く。


 ユウトは、その様子を確認してからハルとナギへ向いた。


「非常換気、どこですか?」


 片瀬が答える。


「待機所の奥。

 点呼室の裏に、手動換気盤があるはず。」


「あるはず?」


「十年以上、手動では触っていない。」


「また古い設備か」


 ハルが言う。


「今日は、昔のものばかりだな。」


「昔のものが残ってるなら、使える可能性も残ってる」


 ユウトは言った。


「行きましょう。」


 ◇


 待機所の奥。


 点呼室の裏は、普段ほとんど使われていない通路だった。


 非常灯の赤い光。

 床に積まれた古い備品。

 壁際に伸びる太いダクト。


 ナギが小型ライトを照らす。


「空気、重い」


 ハルが言った。


 ユウトも感じていた。


 冷たくはない。

 でも、息を吸っても少しだけ浅い。


「長居しないで。

 確認して、必要ならすぐ戻る。」


 ナギが言う。


 通路の突き当たりに、古い鉄扉があった。


『非常換気盤

 関係者以外操作禁止』


「今日、操作禁止ばっかりですね」


 ユウトが苦笑する。


「笑ってる場合じゃない」


 ハルが言いながらも、少しだけ口元をゆるめた。


 扉を開ける。


 中には、壁いっぱいの換気盤があった。


 大きなブレーカー。

 非常用の赤いレバー。

 小さな表示灯。

 そして、停止している送風機。


 ブゥゥゥン……というはずの音がない。


「これが止まってる」


 ナギが言う。


「原因を見ないと。」


 ユウトのスマホが震えた。


『非常換気系統:外部制御ロックを検出』


「また外部制御……」


「誰かが換気まで止めた?」


 ハルの声が低くなる。


「冷却だけじゃない。

 照明、換気、会場の噴霧。

 共同ラインにつながる周辺設備を、順番に触ってる。」


「なんのために?」


 ユウトが言う。


「待機所を危なくして、俺たちにチャレンジを失敗させるため?」


「それだけなら、冷却を止めればいい」


 ナギが首を振る。


「ここまで細かく、負荷が上がる場所だけを選んでいる。

 まるで、ライン全体の限界を試しているみたい。」


 その言葉に、ユウトは背筋が冷えた。


 限界を試す。


 誰かがこの共同冷却ラインを、意図的に壊そうとしているのか。


 換気盤の画面に、赤い文字が表示される。


『外部ロック中』

『管理者権限が必要です』


 ユウトは、スマホに残っている表示を確認する。


『管理者ID 00:緊急保守モード』


 ただし、緊急保守モードの時間は、すでに終了している。


『緊急保守モード:期限切れ』


「もう使えない……」


 ハルが換気盤を確認する。


「手動レバーがある。

 これを引けば、外部ロックを無視して起動できるかもしれない。」


「かもしれない、だな」


 ユウトが言う。


「ただ、手動起動は一度入れたら、すぐ止められない可能性がある。」


 ナギが古い表示を読む。


『非常換気

 手動起動時は、外気導入を優先すること』


「外気導入……」


「それなら、人のいる待機所には必要」


 ユウトが言う。


「でも、外の暑い空気が入る」


「今は寒さより換気が先」


 ハルが答えた。


「冷却は調整できても、空気は代わりがない。」


 そのとき、通路の向こうから片瀬の声がした。


「ユウトくん!」


「片瀬さん?」


 片瀬は、無線機を握って駆け込んできた。


「保冷コンテナ側の温度が上がり始めてる。

 6.7度から7.4度。

 冷却ラインのV-3Aがまた上がってる。」


 ユウトのスマホを見る。


『会場噴霧 V-3A:16% → 20%』

『共同冷却ライン負荷:83%』


「まずい」


 ナギが言う。


「非常換気を動かしたら、待機所側に外気が入る。

 その分、冷却負荷も変わる。」


「でも換気を止めたままにはできない。」


「分かってる。

 だから、やるなら今しかない。」


 片瀬は、換気盤の手動レバーを見る。


「責任は私が取る。」


「片瀬さん」


「施設の責任者は私。

 ここにいる人たちを退避させたのも、換気を入れるのも、私が決める。」


 ユウトは一瞬、何も言えなかった。


 そして、うなずく。


「俺たちは、数字を見ます。

 変化があったらすぐ伝えます。」


「頼む。」


 片瀬が赤いレバーに手をかける。


「非常換気、手動起動。」


 ガチャン。


 レバーが下がる。


 一秒。


 二秒。


 何も起きない。


「動かない?」


 蒼真の声が無線から入る。


『片瀬さん、外で待機してる人が増えてます。

 早く戻ってきてください。』


「もう少し待って!」


 片瀬が返す。


 三秒。


 四秒。


 そして――。


 ゴォォォォン!


 施設の奥で、巨大な送風機が回り始めた。


 壁のダクトが震える。


 待機所の換気口から、外気が一気に流れ込む。


「動いた!」


 ハルが叫ぶ。


 ユウトのスマホに変化が出る。


『非常換気:手動起動確認』

『二酸化炭素濃度:低下開始』


「よし!」


 しかし、同時に別の数値が跳ねた。


『待機所:21.1℃ → 23.8℃』

『共同冷却ライン負荷:83% → 87%』


「外気が入った分、負荷が上がった」


 ナギが言う。


「でも空気は戻ってる。」


「保冷側は?」


 片瀬が聞く。


 表示板のデータが、無線越しに届く。


『仮置きスペース:7.8℃』


 片瀬の表情が固まる。


「限界が近い。」


「ここでV-3Aを落とせれば……」


 ユウトが言った。


 だが、制御応答はない。


 外部操作者が、まだV-3Aを押し上げている。


『会場噴霧 V-3A:20% → 24%』


「誰だよ……!」


 ハルが、換気盤の壁を拳で叩きそうになって止めた。


 ユウトのスマホが震える。


 匿名メッセージ。


『匿名:

 V-3Aを追うな。

 操作者は、会場にいない。』


「会場じゃない?」


 続くメッセージ。


『匿名:

 旧待合所の地下配線室を見ろ。

 そこに“親機”がある。』


「地下配線室……」


 ナギが設備図を開く。


「待合所に地下なんて……」


 画面を拡大する。


 旧待合所の機械室。

 その下に、薄い灰色の線がある。


『旧保守空間

 地下配線室』


「本当にある。」


 片瀬が言う。


「でも、今から誰が行くの?

 保冷側は限界。

 非常換気も動いたばかり。

 ここを離れられない。」


 ユウトは、画面を見る。


 共同冷却ライン負荷87%。

 仮置きスペース7.8℃。

 V-3Aは24%。


 そして、匿名メッセージの最後の一文。


『親機を止めるな。

 “切り替えろ”』


「また、止めるんじゃなくて分けろってことか」


 ユウトは、小さく言った。


「誰かが……同じことを言ってる。」


 そのとき、待機所の無線から、蒼真の焦った声が響いた。


『片瀬さん!

 保冷指定のコンテナ、一台だけ表示が赤になった!

 温度が上がってます!』


 片瀬の顔が青くなる。


「どの便?」


『医療配送です!

 あと十分で引き渡し予定の――』


 無線の向こうで、警告音が鳴る。


 ピピピピピッ!


 ユウトのスマホが、また震えた。


『限定チャレンジ:最終緊急条件を検出』


『医療配送コンテナの温度維持と、

 共同冷却ライン親機の制御競合を同時に解決せよ』


 そして、その下に、新しい数字。


『達成時・追加推定報酬:0.150 CC』


「……0.150」


 ユウトは数字を見た。


 だが、すぐに画面を閉じた。


「報酬はあとです。」


 ハルとナギ、片瀬を見る。


「医療配送コンテナを守る。

 その間に、親機を見つけて、外部操作を止める……いや、切り替える。」


 片瀬が、ゆっくりうなずいた。


「時間がない。」


 ユウトは言った。


「だから、三地点じゃなく、今度は四地点で動きます。」


 待機所。

 仮置きスペース。

 会場噴霧。

 旧待合所の地下配線室。


 共同冷却ラインの本当の夜が、まだ始まったばかりだった。

第56話では、待機所の非常換気を手動で復旧させることに成功しました。しかし、その代償として外気導入による冷却負荷が上がり、仮置きスペースの温度は7.8℃まで上昇します。


今回のポイントは、以下です。


配送員を一時退避させ、待機所の人の安全を優先した


非常換気は外部制御ロックされていたが、片瀬の責任判断で手動起動した


二酸化炭素濃度は低下し始めた一方、外気が入ったことで共同冷却ライン負荷は87%まで上昇した


会場噴霧V-3Aは外部操作者によって24%まで引き上げられ、保冷側の余力を削っている


匿名メッセージにより、外部制御の中心となる「親機」が旧待合所の地下配線室にあることが判明した


医療配送コンテナの温度が危険域へ近づき、新たな最終緊急条件と追加0.150 CCの可能性が発生した


ユウトは、0.150 CCという大きな報酬の表示を見ても、先に医療配送コンテナを守る判断をしました。

成り上がるためにCCを稼ぐことと、誰かの大切な荷物や仕事を壊さないこと。その二つを両立させることが、ユウトの勝ち方になり始めています。


次回は、旧待合所の地下配線室にある“親機”と、温度が上がり続ける医療配送コンテナを同時に救うための四地点作戦です。

匿名メッセージの送り主は本当に味方なのか。親機を“止める”のではなく“切り替える”とは何を意味するのか。夜の共同冷却ライン編は、いよいよ核心へ入ります。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成:リアル(Perplexity)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。