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クーリングクレジット:cooling credit 第四部  作者: マスター


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第57話 四地点の夜

第57話は、共同冷却ライン編の核心へ踏み込む「四地点作戦」の開始回です。

医療配送コンテナの温度、待機所の換気、会場噴霧V-3A、そして旧待合所の地下配線室。ユウトたちはそれぞれの場所に分かれ、限界寸前のラインを守ろうとします。

 夜間配送待機所の警告音は、止まらなかった。


 ピッ。

 ピッ。

 ピッ。


『共同冷却ライン負荷:87%』

『仮置きスペース:7.8℃』

『会場噴霧 V-3A:24%』

『医療配送コンテナ:温度上昇中』


 赤い非常灯の下で、ユウトは仲間たちを見た。


 ハル。

 ナギ。

 蒼真。

 片瀬。


 誰も疲れている。

 でも、誰もここで引くつもりはなかった。


「四地点で動きます」


 ユウトは言った。


「ここは、待機所と仮置きスペース。

 会場のV-3A。

 旧待合所の地下配線室。

 それぞれを同時に見ないと、ラインは守れない。」


「誰がどこへ行く?」


 片瀬が聞く。


 ユウトは、すでに頭の中で整理していた。


「片瀬さんと蒼真さんは、ここに残ってください。

 医療配送コンテナと、配送員の安全を守る役です。」


「私と蒼真が?」


 蒼真が聞く。


「はい。

 蒼真さんは現場の人へ声をかけられる。

 片瀬さんは荷物の優先順位と責任判断ができる。」


 蒼真は一瞬だけ戸惑った。


 だが、すぐにうなずく。


「分かった。

 赤いコンテナは俺が見る。

 人も、台車も、近づけすぎない。」


「ハルは会場へ。

 V-3Aが本当に動いているか、現場で確認してほしい。」


「俺だけで?」


「会場は閉まっている。

 設備を触る前に、まず周囲の安全を見られる人が必要です。」


「了解。」


「ナギさんと俺は、旧待合所の地下配線室へ行く。」


 ナギがライトを持ち直した。


「親機の確認。

 でも、止めるんじゃなくて切り替える方法を探す。」


「その“切り替える”が分からない」


 片瀬が言う。


「分かったときには、間に合わないかもしれない。」


「だから、急ぎます」


 ユウトは答えた。


「でも、急いで壊しません。」


 そのとき、スマホに新しい表示が出た。


『共同作業を確認』

『四地点連携ボーナス:有効』


『限定チャレンジ・最終緊急条件

 進行度:72%』


 そして、青いゲージの下に数字が出る。


『達成時・追加推定報酬:0.150 CC』


 ユウトは、画面を一瞬だけ見た。


 0.150 CC。


 今まで見た中で、最も大きい追加報酬。


 累計1.0 CCを超える。

 その先が見える。


 だが、赤いコンテナの表示も見える。


『医療配送コンテナ:8.6℃』


「時間がない。行きます!」


 ◇


 ハルは会場へ向かった。


 夜のフリーマーケット会場は、昼とは別の場所に見えた。


 屋台は片付けられ。

 テントは畳まれ。

 誰もいない駐車場に、街灯だけが落ちている。


 その中央で、ミストが出ていた。


 シューッ……。


 誰もいない場所へ。


 冷たい霧が、空に消えていく。


「……無駄に動いてる」


 ハルは、反射材付きのベストを着直した。


 周囲を確認する。


 人はいない。

 車もない。

 ただ、会場中央のノズルだけが、一定のリズムで噴霧している。


 端末には表示が出ている。


『V-3A:24%』

『外部制御競合:継続中』


「現場確認。

 V-3A、稼働中。人はいない。」


 ハルは通信で伝える。


『了解』


 ユウトの声が返る。


「ノズルの近くに、手動の制御箱はありますか?」


「ある。

 でも封印されてる。

 今は触らない。」


「お願い。

 親機の情報を見てから判断する。」


「分かった。」


 ハルはミストの下に立つ。


 涼しい。


 でも、誰もいない。


 その冷気の向こうで、会場の古い案内板が揺れていた。


『ここで休めます』


 今は、誰も休んでいない。


「人がいない場所を冷やして、

 人がいる場所が危ないって、最悪だな」


 ハルは小さくつぶやいた。


 ◇


 旧待合所。


 ユウトとナギは、機械室の奥に立っていた。


 青い工具箱の横。

 古い制御盤。

 そして、昨日まで見えなかった床の継ぎ目。


『旧保守空間

 地下配線室』


 ナギがライトを当てる。


「ここ。」


 床に、小さな金属の取っ手があった。


 ユウトが引く。


 重い。


「開かない」


「横にロックがある。」


 ナギが、壁際の配管を指差した。


 古い表示。


『保守扉ロック

 管理者キー』


「また鍵か」


 ユウトは言った。


 しかし、さっきの青い工具箱には鍵が三本あった。


 待合所M-1。

 会場噴霧V-3。

 配送中継D-2。


 どれも違う。


「管理者キーはない」


 ナギが言う。


「なら、どうする」


 ユウトは制御盤を見る。


 管理者ID 00。


 昼の高齢男性。

 共同冷却ラインを作った人物。


 あの声が、何か知っている。


「聞こえますか」


 ユウトは、制御盤のスピーカーへ声をかけた。


「地下配線室へ入りたい。

 親機を確認したいんです。」


 ノイズ。


 ジジ……。


 返事はない。


「頼みます。

 待機所には医療配送コンテナがあります。

 会場のミストは、誰もいないのに動いてます。」


 数秒。


 そして、スピーカーから低い声がした。


『……鍵は、最初から渡してある』


「え?」


『工具箱の底を見ろ』


 ナギが青い工具箱を引き寄せる。


 中の工具を一度取り出す。


 古いレンチ。

 手袋。

 点検表。

 鍵の束。


 その下に、さらに薄い鉄板があった。


「二重底だ。」


 ナギが鉄板を持ち上げる。


 そこには、小さな黒いキーが入っていた。


『管理 M-0』


「M-0……」


 ユウトは、鍵を手に取った。


「最初から、ここに。」


『使う者が、急ぐだけの者か。

 人の話を聞く者か。

 それを見ていた』


 スピーカーの声。


「見ていたって……あなたはどこにいるんですか?」


 返事はない。


 ただ、スピーカーの奥で、かすかに咳き込む音がした。


 ユウトは不安になった。


「病院にいるんじゃ……」


『今は、親機を見ろ』


 声が少し強くなる。


『止めるのではない。

 使う場所を、正しい場所へ戻せ。』


 ユウトは黒い鍵を差し込んだ。


 カチン。


 床のロックが外れる。


 ギィィィ……。


 床扉が開く。


 下へ続く、狭い階段。


 冷たい空気が、地下から吹き上がってきた。


「行ける?」


 ナギが言う。


「行きましょう。」


 ユウトとナギは、地下へ降りた。


 ◇


 地下配線室は、思ったより広かった。


 壁一面にケーブル。

 古い端子盤。

 太い管。

 点滅するランプ。


 中央には、黒い箱のような装置がある。


『共同冷却ライン

 中央制御親機』


 ユウトは息をのんだ。


「これが親機……」


 親機の画面には、三つの拠点が表示されていた。


『旧待合所 M-1』

『会場噴霧 V-3』

『配送中継 D-2』


 そして、もう一つ。


『未登録端末:外部接続中』


「未登録端末」


 ナギが言う。


「これが、外部操作者?」


 画面の下には、接続履歴が並んでいる。


『20:12 V-3A 出力変更要求』

『20:21 待機所照明系統アクセス』

『20:26 非常換気ロック要求』

『20:34 V-3A 出力増加要求』


「やっぱり意図的だ」


 ユウトの拳が握られる。


「誰かが、順番に負荷を上げて、待機所を危なくしてる。」


「でも、ここからなら未登録端末を切断できるかも」


 ナギが操作パネルを見る。


 画面に二つの選択肢があった。


『未登録端末を強制切断』

『未登録端末を隔離し、制御経路を再配分』


「強制切断すれば終わる?」


「分からない。

 外部接続が急に切れたら、V-3Aが最後の指示を維持する可能性がある。」


「隔離して、経路を再配分する方は?」


「未登録端末を外しつつ、各拠点への制御を親機側へ戻す。

 でも、その分、今まで隠れていた負荷が表に出るかもしれない。」


 ユウトは、匿名の声を思い出す。


『親機を止めるな。

 “切り替えろ”』


「隔離して再配分する。」


 ユウトは言った。


「人がいない会場の冷却を最小にして、

 人がいる待機所と、医療コンテナを優先へ戻す。」


「それには、現場の情報が必要」


「通信をつなぐ。」


 ユウトは全員に呼びかけた。


「ハル、会場のV-3Aを見ながら、出力が落ちたか教えて。」


『了解』


「片瀬さん、仮置きスペースの温度を。

 蒼真さん、医療コンテナの数値を。」


『分かった』


『今、8.9度です!

 九度を超えたら危ない!』


 蒼真の声が、焦っている。


「ナギさん、操作を」


「待って。

 親機の再配分には、各拠点の“優先度”を決める必要がある。」


 画面に、四つのスライダーが出る。


『人の滞在』

『医療・保冷輸送』

『会場設備保護』

『未登録端末の隔離』


 優先度は合計100%。


「これ、どう分ける?」


 ナギが言う。


 時間はない。


 ユウトは、待機所の配送員たちを思い浮かべる。

 赤い医療コンテナ。

 誰もいない会場のミスト。

 そして、まだ正体の分からない未登録端末。


「医療・保冷輸送を一番に」


「何パーセント?」


「四十五。」


「人の滞在は?」


「三十五。」


「会場設備保護は?」


「最低限。五。」


「残り十五は、未登録端末の隔離。」


 ナギが画面を操作する。


『医療・保冷輸送:45%』

『人の滞在:35%』

『会場設備保護:5%』

『未登録端末の隔離:15%』


「実行するよ」


 ユウトは、一度だけ目を閉じた。


「お願いします。」


 ナギがボタンを押す。


『制御経路を再配分しますか?』


「実行。」


 地下配線室の装置が、大きく唸った。


 ゴォォォォン……。


 ランプが赤から黄へ、黄から青へ変わる。


 しかし同時に、天井のケーブルが激しく振動した。


 バチッ!


「うわっ!」


 火花が散る。


 ユウトとナギは、とっさに後ろへ下がった。


『制御経路再配分:進行中』

『未登録端末:隔離処理中』

『V-3A:出力低下要求』


「ハル、どうですか!」


 通信越しに、ハルの声。


『ミストが……弱くなってる!

 24%から、18……14……!』


「片瀬さん!」


『仮置き、8.3度!

 下がり始めた!』


「蒼真さん!」


『医療コンテナ、8.7!

 止まりました!』


「よし……!」


 ユウトの身体から、少しだけ力が抜ける。


 だが、親機の画面に、最後の警告が出た。


『未登録端末:隔離失敗』


『理由:未登録端末は、外部ではありません』


「外部じゃない?」


 ナギが画面へ近づく。


『接続元:旧待合所・地下配線室 内部』


 室内が静かになる。


 ユウトとナギは、同時に振り向いた。


 地下配線室の一番奥。


 ケーブルの影に、もう一つ小さな扉がある。


 さっきまで気づかなかった。


『旧制御席

 立入禁止』


 その向こうから。


 カチッ。


 キーボードを叩くような、小さな音がした。


 そして、聞き覚えのある声が、扉越しに響いた。


「……そこまで来たか、相馬ユウト。」


 ユウトは、息をのんだ。


 昼に救急車へ運ばれたはずの、あの高齢男性の声だった。

第57話では、ユウトたちが四地点に分かれて共同冷却ラインの根本原因を追い、旧待合所の地下配線室にある中央制御親機へ到達しました。


今回のポイントは、以下です。


片瀬と蒼真は待機所・医療配送コンテナを担当し、ハルは会場噴霧V-3Aを監視、ユウトとナギは地下配線室へ向かった


工具箱の二重底から管理者キーM-0を発見し、地下配線室へ入ることに成功した


共同冷却ラインの中央制御親機には、「未登録端末」が接続されており、会場噴霧、照明、非常換気へ順番に不正な制御を送っていた


ユウトは、医療・保冷輸送45%、人の滞在35%、会場設備保護5%、未登録端末隔離15%という優先配分を選択した


その結果、V-3Aの出力は低下し、仮置きスペースと医療配送コンテナの温度も改善を始めた


しかし未登録端末は外部ではなく、同じ地下配線室の内部にあると判明した


奥の「旧制御席」から、救急搬送された高齢男性の声が聞こえた


ユウトたちは、ラインを守るための再配分には成功しつつあります。

しかし、これまで匿名メッセージや音声で導いてきた人物が、実は旧待合所の地下にいる可能性が出てきました。味方として助けていたのか、それともラインを不安定にしていた本人なのか。真相はまだ分かりません。


次回は、旧制御席の扉の向こうにいる人物と、ユウトが直接向き合います。

共同冷却ラインを作った人物は、なぜ自らの設備を混乱させたのか。そして医療配送コンテナと夜間配送待機所を守るために、ユウトが最後に選ぶべき“切り替え”とは何なのかが明らかになります。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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