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クーリングクレジット:cooling credit 第四部  作者: マスター


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18/30

第54話 遠隔起動まで十分

第54話は、会場噴霧V-3の遠隔起動まで10分という危機から始まります。

D-2解除キーを手に入れたユウトは、待機所へ戻るべきか、会場のミストを止めるべきか、そして待合所に残る謎の声を追うべきか――三つの選択を迫られます。

『会場噴霧 V-3

 遠隔起動まで:00:09:59』


 旧待合所の機械室。


 ユウトのスマホ画面に、赤い数字が点滅していた。


 9分42秒。

 9分41秒。

 9分40秒。


 手には、D-2の解除キー。


 待機所の搬入口側ダンパーを動かすために必要な鍵。

 それを使えば、夜間配送待機所の冷気の逃げを抑えられる。


 けれど、会場噴霧V-3が遠隔起動すれば、共同冷却ラインの負荷は再び跳ね上がる。


「どっちに行く?」


 ナギが言った。


 言葉は短い。

 でも、意味は重い。


「待機所へ戻るなら、D-2を開けられる。

 会場へ行くなら、V-3の起動を止められるかもしれない。」


「両方には行けない」


 ユウトは、機械室の地図を開いた。


 旧待合所。

 会場。

 夜間配送待機所。


 三地点が、共同冷却ラインでつながっている。


 そして、どこかにいる誰かが、V-3を遠隔起動しようとしている。


「……待って」


 ユウトは、スピーカーを見た。


 昼に救急搬送された高齢男性と同じ声が、そこから流れた。


『D-2を開ける前に、V-3を確認しろ』


 声の主は、V-3が危険だと知っている。


「ナギさん。

 V-3って、会場に行かないと止められないんですか?」


「遠隔で起動するなら、遠隔で止められる可能性もある。

 ただし、権限が必要。」


「旧待合所の制御盤からは?」


「……配線図を見る限り、待合所は旧ラインの保守拠点。

 V-3の状態確認くらいならできるかもしれない。」


「なら、ここで止める方法を探す。」


 ユウトは決めた。


「会場にも待機所にも走らない。

 まず、この待合所からV-3を止める。」


「できる保証はない」


「走って間に合わないよりは、可能性がある。」


 ナギは一度だけうなずいた。


「分かった。

 私は配線図を見る。

 ユウトは制御盤を探して。」


 残り、8分51秒。


 ◇


 機械室の制御盤は、青い工具箱の奥にあった。


 錆びた扉。

 色褪せたスイッチ。

 薄い液晶画面。


 表示されている文字は、ほとんど読めない。


『共同冷却ライン保守端末』

『待合所 M-1』

『会場噴霧 V-3』

『配送中継 D-2』


「全部つながってる」


 ユウトは息をのんだ。


 画面の右下には、小さな警告マーク。


『外部制御予約:V-3』

『実行時刻:20:12』


「外部制御予約って……」


「誰かが、起動時間を登録している」


 ナギが制御盤の横にしゃがみ込んだ。


「しかも、この端末からならキャンセルできるかもしれない。」


「やりましょう。」


「待って。

 古い設備は、キャンセル操作が“起動命令の上書き”になる場合がある。

 下手に触ったら、V-3だけじゃなくD-2の制御まで飛ぶ。」


 ユウトの手が止まる。


 残り、7分58秒。


「なら、どうすれば」


「権限レベルを確認する。」


 ナギは画面のメニューを操作する。


 薄い画面に、古いログが並んだ。


『V-3 起動予約』

『登録者:管理者ID 00』

『認証:旧保守権限』


「管理者ID、ゼロゼロ」


 ユウトは口にした。


「誰のIDですか?」


「分からない。

 でも、普通の現場責任者の権限じゃない。」


 そのとき、制御盤の下から、またスピーカーのノイズが聞こえた。


 ジジ……。


『……聞こえるか』


 ユウトは顔を上げた。


「聞こえます!」


 今度の声は、昼より近く聞こえた。


『V-3は止めるな』


「え?」


 ナギの表情が変わる。


『止めれば、配送中継の圧が一気にD-2へ逃げる。

 鍵を入れた瞬間に、搬入口側が危なくなる。』


「じゃあ、どうしろっていうんですか!」


 ユウトは思わず叫んだ。


 だが、返事はすぐに来なかった。


 ジジ……。


『V-3を“止める”んじゃない。

 “分けろ”』


「分ける?」


 ナギが配線図を広げる。


「待って……V-3の噴霧ラインは、会場中央と周辺部で二系統に分かれている。」


「昼にミストが出ていた場所?」


「そう。

 中央だけ使うなら、周辺部を切ればいい。

 完全停止じゃなく、低出力運転に落とす。」


「でも、会場はもう閉まっている」


「閉まっているからこそ、中央だけで十分なのかもしれない。」


 ユウトは制御盤を見た。


 画面には、二つの項目がある。


『V-3A:中央噴霧』

『V-3B:周辺噴霧』


 どちらも、起動予約になっている。


「V-3Bだけキャンセルする?」


「それなら全体制御への影響は小さいかもしれない」


「かもしれない、か」


「古い設備だから。」


 残り、6分21秒。


 ユウトのスマホが震えた。


『限定チャレンジ:緊急分岐』

『選択してください』


『A:V-3全系統を停止する』

『B:V-3周辺噴霧のみを低出力化する』

『C:外部制御予約を維持する』


「……また選択肢か」


 ユウトは、画面を見つめた。


 Aなら、負荷は確実に下がる。

 だが、声の主は危険だと言った。


 Cなら、何もしない。

 でもV-3が全開で動けば、待機所の余力が削られる。


 残るのはB。


 ただし、Bは中途半端な選択ではない。


 完全に止めず、必要な分だけ残す。

 それは、これまでユウトが繰り返してきた“冷やしながら守る”選択だった。


「Bです」


 ユウトは押した。


『B:V-3周辺噴霧のみを低出力化する』


 制御盤に、新しい確認画面が表示される。


『V-3B 制御変更』

『周辺噴霧:停止』

『中央噴霧:低出力維持』

『実行しますか?』


「実行。」


 ユウトが押す。


 画面が、一度真っ暗になる。


 ブゥゥゥン……。


 待合所の冷却装置の音が、少しだけ変わった。


 ナギが端末を見る。


「負荷……下がってる。」


『共同冷却ライン負荷:82%』

『夜間配送待機所・余剰容量:残り7%』


「三パーセント戻った!」


 ユウトは息を吐く。


 しかし、画面には新しいエラーが出ていた。


『V-3B:停止確認』

『V-3A:制御応答なし』


「中央噴霧が応答しない?」


 ナギが言う。


「外部制御予約の一部が残ってる。」


「でも、負荷は下がった」


「今はね。

 でも中央噴霧が勝手に全開へ戻る可能性がある。」


 そのとき、スピーカーからまた声が流れた。


『それでいい。

 V-3Bを落とせば、D-2を開ける余地ができる。』


「あなたは誰なんですか」


 ユウトは、制御盤へ向かって言った。


『なぜ俺たちのことを知ってる。

 なぜ、設備のことを知ってる。』


 ノイズ。


 そして、少しだけ長い沈黙。


『昔、この線を作った者だ』


 ユウトとナギが、顔を見合わせる。


『待合所も、会場も、配送待機所も。

 人が暑さで倒れないように、夜でも休めるように……そうしてつないだ。』


「あなたが?」


『だが、維持する人間がいなくなった。

 記録だけが残り、仕組みだけが残り、いつの間にか“誰のための線か”が消えた。』


 声が途切れる。


 ユウトは、昼に救急車へ乗せられた高齢男性を思い出す。


 あの人が、この共同冷却ラインを作った人物なのか。


「あなたは、あの待合所にいた人ですか?」


 返事はない。


 代わりに、制御盤の画面に新しい案内が表示された。


『管理者ID 00:緊急保守モードを一時開放』


『D-2解除後、配送中継の出力を

 手動で再配分できます』


「手動で再配分?」


 ナギが読み上げる。


「D-2を開けたあと、待機所・仮置き・会場のどこにどれだけ冷却を回すかを選べる。」


「なら、待機所を寒すぎない温度にして、荷物の冷却を維持できる」


「できるかもしれない。」


 残り、4分18秒。


 ユウトは、片瀬へ通信をつなぐ。


「片瀬さん、聞こえますか!」


『聞こえる。

 こちらは余剰7%まで戻った。

 でも大型便はまだ入ってきてる。』


「D-2の解除キーを持っています。

 V-3Bを止めて、D-2を開ける余地を作りました。」


『本当に?』


「ただし、D-2解除後は出力の手動再配分が必要です。」


『操作は誰がする?』


 ユウトは、制御盤を見た。


 旧待合所。

 会場。

 配送待機所。


 遠く離れた三地点の冷却を、この古い端末で決める。


「俺がやります」


 言った瞬間、自分でも少し驚いた。


 片瀬が沈黙する。


『相馬くん。

 それは、現場の責任者でもない君が決めるには重すぎる。』


「分かっています。」


 ユウトは息を吸う。


「だから、数値を見て俺が勝手に決めるんじゃない。

 片瀬さん、ハル、ナギさん、それぞれの現場の声を聞いて動かします。」


 通信の向こうで、誰かが台車を押す音がする。


『……分かった。

 ここは私が判断を出す。

 あなたは、手を動かして。』


「はい。」


 ハルの声が入る。


『ユウト、D-2の前にいる。

 鍵を待ってる。』


「今、そっちへ向かいます。」


 ナギが言った。


「会場側のV-3Bは止めた。

 あとは、D-2を開けて、流れを戻すだけ。」


「ただし」


 ユウトは、スマホを見た。


『V-3A:制御応答なし』


 中央噴霧は、まだ沈黙したまま。


 いつ全開へ戻るか分からない。


「……まだ終わってない。」


 ユウトとナギは、軽バンへ走った。


 残り、3分32秒。


 D-2の解除キーを握ったユウトの画面に、最後の警告が出る。


『緊急保守モード有効時間:03:30』


『時間内にD-2を解除しない場合、

 管理者ID 00の権限は再びロックされます』


 夜の道路の先に、配送待機所の光が見えた。


 そこではハルが、搬入口の上を見上げて待っている。


 そして、そのさらに奥。


 誰もいないはずの会場方向から、かすかに。


 シューッ……。


 ミストが、もう一度動き始める音がした。

第54話では、会場噴霧V-3の遠隔起動に対して、ユウトが“全停止”ではなく“周辺噴霧だけを低出力化する”選択をしました。


今回のポイントは、以下です。


ユウトは旧待合所の保守端末から、V-3の中央噴霧と周辺噴霧が別系統であることを確認した


V-3B(周辺噴霧)を停止し、V-3A(中央噴霧)を低出力で維持することで、待機所の余剰冷却容量を4%から7%へ戻した


スピーカー越しの人物は、自らを共同冷却ラインを作った人物だと名乗った


管理者ID 00の緊急保守モードが一時開放され、D-2解除後に冷却出力を再配分できる可能性が生まれた


ただし、中央噴霧V-3Aは制御に応答せず、再び動き始めている気配がある


緊急保守モードの残り時間は3分30秒。ユウトは解除キーを持って待機所へ戻る


ユウトは今回、CCを稼ぐための近道ではなく、全体を壊さずに負荷を落とす選択をしました。

その判断によって、待機所側の余剰容量は回復し、D-2を解除するための最低限の余地ができています。


次回は、緊急保守モードの残り時間内にD-2を解除し、待機所・仮置きスペース・会場噴霧への冷却配分を決める最終局面です。

しかし会場中央のV-3Aは、誰かの遠隔制御によって再び動き始めています。ユウトたちがD-2を開ける前に、共同冷却ラインはもう一度限界へ近づくかもしれません。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成:リアル(Perplexity)

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