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クーリングクレジット:cooling credit 第四部  作者: マスター


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17/30

第53話 夜の二地点作戦

第53話は、余剰冷却容量4%という限界寸前の状況で始まります。

解除キーは旧待合所にある可能性が高い。しかし、ユウトが現場を離れれば、待機所の対応が崩れるかもしれない。今回は、二地点を同時に動かす緊張感と、匿名メッセージの送り主に近づく展開を描きます。

『余剰冷却容量:残り4%』


 夜間配送待機所の警告音が、短い間隔で鳴っていた。


 ピッ。

 ピッ。

 ピッ。


 待機所側の温度は、ゆっくり上がっている。


『待機所:19.4℃』

『仮置きスペース:6.8℃』


 空気分離ダンパーD-1は、なんとか動いた。


 けれど、搬入口側のD-2は応答しない。


 冷気の一部が、使われていない通路側へ逃げている。

 そのせいで、待機所はまだ寒く、共同冷却ラインにも無駄な負荷が残っている。


「解除キーが旧待合所にあるとしても」


 ユウトはスマホを見つめた。


「今から戻って、探して、また帰ってくる時間があるのか……」


 片瀬が、施設の表示板を見たまま言う。


「大型便の搬入は、あと四十分続く。

 その間に負荷が3%以下まで落ちたら、保冷指定の荷物を優先しないといけない。」


「待機所側の調整は、さらに後回しになる」


 ナギが言う。


「寒いままの人が増える。」


 待機所では、配送員たちが上着を羽織っている。


 仕事に入る前に、少しでも休みたい人。

 長距離運転から戻った人。

 点呼まで椅子で目を閉じている人。


 けれど、誰もが寒そうだった。


「ここを暖かくしないと」


 ユウトは言う。


「でも、荷物を守る冷却まで止められない。」


「だからD-2を閉じる必要がある」


 片瀬が答えた。


「だけど、解除キーがない。」


 そのとき、ユウトのスマホに、短い着信が入った。


『匿名:

 旧待合所の機械室。

 制御盤の下、青い工具箱を探せ』


「……具体的すぎる」


 ユウトは画面を見つめる。


「誰だよ、これ。」


「案内役か、監視役か」


 ナギが言う。


「どっちにしても、待合所の中をよく知ってる。」


 ハルが搬入口側から戻ってきた。


 反射材付きのベストには、少しほこりがついている。


「D-2のところまで行った。

 物理的にレバーはある。

 でもロックがかかってる。鍵なしじゃ無理だ。」


「やっぱり解除キーが必要か」


「たぶん青い工具箱にある」


 ユウトが言うと、ハルの目が鋭くなる。


「また匿名か。」


「うん。」


「信用するのか?」


「信用じゃない。

 手がかりとして使う。」


 ユウトは、待合所と現在地の地図を開く。


 車なら十分。

 走っても二十分近い。

 片瀬の車を借りられたとしても、夜の倉庫街は搬入車が多い。


「俺が行く」


 ユウトは言った。


「ハルはここに残ってください。

 D-2が開いたときの安全確認が必要になる。」


「一人で旧待合所へ?」


「ナギさん、来てもらえますか。」


 ナギは即答した。


「行く。

 設備の手がかりなら、私の方が見落としが少ない。」


「俺も行く」


 蒼真が言った。


「旧待合所の機械室で失敗したの、俺だし。」


「蒼真はここに残って」


 ユウトは言う。


「え?」


「配送員への説明と、荷物の振り分けを続けてほしい。

 今、片瀬さんと現場の人たちの間を動けるのは蒼真さんです。」


「俺が?」


「さっき、ちゃんと人に聞いて、ちゃんと動かしてました。」


 蒼真は少し黙った。


 やがて、目をそらして言う。


「……分かった。

 でも、キーを見つけたらすぐ戻れ。」


「もちろん。」


 片瀬が、車のキーを差し出す。


「配送用じゃない、私用の軽バンが裏にある。

 ただし、運転はできる?」


「できます。」


「安全運転で。

 今日、急ぐあまりに事故を起こされたら、全部終わる。」


「分かりました。」


 ユウトはキーを受け取った。


 手のひらが少し汗ばんでいる。


『余剰冷却容量:残り4%』

『追加報酬倍率:×1.4』


 画面の二つの表示を見比べる。


 CCを稼げるチャンス。

 でも、今は数字を追うだけでは足りない。


「ナギさん、行きましょう。」


「うん。」


 夜の倉庫街を、軽バンが走り出した。


 ◇


 旧待合所に着いたとき、時刻は午後八時二分だった。


 昼間のフリーマーケットのにぎわいは、すでに消えている。


 屋台は片付けられ。

 会場の照明は、半分だけ落とされ。

 広い駐車場には、数台の車しか残っていない。


 旧待合所だけが、ぽつんと明かりをつけていた。


 入口近くのベンチでは、警備員らしい男性が座っている。


「すみません」


 ユウトが近づくと、男性は立ち上がった。


「待機所の件か?」


「知ってるんですか?」


「地域観測チームから連絡が入った。

 機械室に入るなら、これを持っていけ。」


 男性が渡してきたのは、小型ライトと、白いヘルメットだった。


「中はまだ完全には整備されてない。

 勝手に機械へ触るな。」


「はい。」


 ナギもヘルメットを受け取る。


「ありがとうございます。」


 待合所の中は、昼より少し静かだった。


 入口側のベンチは使える状態に整えられている。

 換気窓から風が入り、冷却機能も低出力で動いている。


 けれど奥の機械室へ近づくと、空気が変わる。


 ブゥゥゥン……。


 低い稼働音。

 古い金属の匂い。

 壁に残る、剥がれた注意書き。


「制御盤の下、青い工具箱」


 ユウトは小さく言った。


「見つけても、すぐ開けないで」


 ナギが言う。


「何が入ってるか分からない。

 昔の設備なら、鍵だけじゃなく予備部品や薬剤が残っているかもしれない。」


「分かりました。」


 制御盤の下には、古いケーブルが何本も伸びている。


 その奥。


 ほこりをかぶった青い工具箱があった。


「……あった」


 ユウトはしゃがみ込む。


 青い塗装は剥がれ、角が錆びている。

 しかし、箱には小さな白い文字が残っていた。


『共同冷却ライン

 保守用』


 ナギが息をのむ。


「ただの工具箱じゃない。

 保守用の鍵なら、本当にD-2の解除キーが入っているかも。」


 ユウトは、箱の留め具に触れる。


 鍵はかかっていない。


 カチン。


 ふたが開く。


 中には、古い工具。

 手袋。

 黄ばんだ点検表。

 そして、小さなキーホルダー。


 鍵が三本。


『待合所 M-1』

『会場噴霧 V-3』

『配送中継 D-2』


「D-2!」


 ユウトは思わず声を上げた。


「見つけた……!」


 ナギは、すぐに鍵を確認する。


「鍵の番号、待機所の表示と一致してる。

 これなら使える可能性が高い。」


 ユウトのスマホが震えた。


『解除キー候補を確認』

『限定チャレンジ・第2条件:進行度 68%』


「68%……」


「帰りましょう」


 ナギが言った。


 だが、ユウトは工具箱の中に残った点検表へ目を向けた。


 紙には、古い手書きのメモがある。


『D-2解除時は、V-3を先に確認』

『配送中継への負荷が急増した場合、会場噴霧を自動停止』


「V-3……」


 会場噴霧。


 昼にミストを止めたとき、負荷は下がった。

 でも今、フリーマーケット会場は閉まっている。


「会場のミスト、今も動いてる可能性があります。」


 ナギが点検表を読む。


「自動停止していなければ、D-2を解除した瞬間に、冷却ラインの負荷が別の方向へ流れる。」


「待機所だけ直しても、また別の場所が止まる……」


 ユウトは歯を食いしばる。


 鍵は見つかった。


 だが、鍵を使う前に確認しなければならないものが増えた。


 そのとき。


 待合所の奥、機械室のさらに奥から、かすかな音がした。


 コツン。


 ユウトとナギが同時に振り向く。


「……誰かいますか?」


 返事はない。


 コツン。


 今度は、壁の向こうから聞こえる。


 ナギがライトを向ける。


 制御盤の横。

 配管が壁の中へ入っている場所。


 そこに、古びた小さなスピーカーが埋め込まれていた。


 ジジ……。


 ノイズ。


 そして、聞き覚えのある声。


『……ユウトくん。

 鍵を見つけたなら、次は急ぐな。』


「……誰?」


 ユウトの背中が冷たくなる。


 スピーカーから聞こえるのは、昼間に救急車へ運ばれた、あの高齢男性の声だった。


『D-2を開ける前に、会場のV-3を確認しろ。

 さもないと、今夜の配送だけじゃ済まない。』


 ユウトは、壁のスピーカーを見つめた。


「どうして……俺の名前を?」


 返事の代わりに、待合所の照明が一瞬消えた。


 パッ。


 そして再び点いたとき、ユウトのスマホには新しい表示が出ていた。


『共同冷却ライン:予期しない制御信号を検知』


『会場噴霧 V-3

 遠隔起動まで:00:09:59』


「遠隔起動……?」


 ナギの顔が強張る。


「会場は閉まっているのに、ミストが再起動する?」


「誰かが動かそうとしてる」


 ユウトはD-2の解除キーを握りしめた。


 残り十分。


 待機所へ戻るか。

 会場のV-3を止めに行くか。


 それとも、この待合所に残る、謎の声の正体を追うか。


 夜の共同冷却ラインは、まだユウトたちを離してくれなかった。

第53話では、ユウトたちが待機所と旧待合所を同時に動かす「夜の二地点作戦」に入りました。


今回のポイントは、以下です。


ユウトとナギが旧待合所へ向かい、ハルは搬入口側、蒼真は配送員と荷物の導線、片瀬は現場操作を担当する形で役割分担した


旧待合所の機械室にある青い工具箱から、D-2の解除キーを発見した


ただし、古い点検表には「D-2解除時はV-3を先に確認」とあり、会場噴霧との連動リスクが判明した


昼間に救急搬送された高齢男性と思われる声が、待合所の古いスピーカーから流れた


さらに会場噴霧V-3が、10分後に遠隔起動するという新しい危機が発生した


ユウトは解除キーを手に入れ、限定チャレンジ第2条件の進行度も68%まで進めました。

しかし、鍵を見つけたことが解決ではなく、共同冷却ライン全体が誰かに操作され始めている可能性が出てきます。


次回は、遠隔起動まで残り10分のV-3をどう止めるかが焦点です。

閉まっている会場でミストが再起動すれば、夜間配送待機所の冷却余力がさらに削られるかもしれません。そして、匿名メッセージやスピーカー越しの声を送っている人物が、味方なのか、それとも別の目的を持つ相手なのかも見え始めます。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成:リアル(Perplexity)

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