第6話 再会、あるいは真相
亮太は、詰所の仮眠室に運び込まれた。荒い息を繰り返しながら、うわ言のように何かを呟き続けている。
「陸、これ」
巡が、亮太の首筋を指差した。そこには、火傷のような、それでいて焼けた痕とも違う、奇妙な痣が浮かび上がっていた。
「因子に、直接干渉された痕だ」
陸は静かにそう言った。里の術書で読んだことのある、限られた症例。何者かが、意図的に他者の因子へ干渉し、その持ち主の意識を一時的に奪う──そういう類の痕跡だった。
「誰かが、亮太さんの力を、乗っ取ろうとしたってこと?」
渚紗の声が震える。
「おそらく。……でも、完全には成功しなかった。だから亮太さんは、まだ息がある」
陸は目を閉じ、亮太の胸に手をかざした。里に伝わる、簡易な浄化の術。強い力ではないが、暴走しかけている因子を、一時的に鎮めることはできる。
「──っ」
亮太の体が、びくりと震えた。そして、ゆっくりと目を開ける。
「……ここは」
「詰所です。亮太さん、覚えていますか」
「あ……あんたは……」
亮太は霞む視界の中、陸の顔を捉えた。
「里の、人か……」
「はい。草薙陸です。渚紗さんから連絡を受けて」
亮太は、ゆっくりと体を起こそうとして、痛みに顔をしかめた。
「無理しないでください」
「いや……話す。今のうちに、話しておかないと」
亮太は、途切れ途切れに語り始めた。
「最近、潜るたびに……海の底で、何かの気配を感じてた。最初は、大した力じゃないと思った。でも、日に日に、強くなって……」
「それが、あなたを?」
「ああ。今日、いつもの場所に潜ったら……いきなり、引きずり込まれた。何かに、内側から乗っ取られるみたいに」
亮太は、そこで一度言葉を切り、震える声で続けた。
「あれは……多分、俺たちと同じ、因子を持つ何かだ。でも、まともじゃなかった。まるで……飢えてるみたいに」
飢えている。
その言葉に、陸の中で何かが引っかかった。
「亮太さん、その"何か"の姿は」
「見えなかった。でも……声は、聞こえた気がする」
「声?」
亮太は、絞り出すように言った。
「──足りない、足りない、って。ずっと、そう繰り返してた」
その夜、詰所の外で、陸と巡は改めて事の次第を整理していた。
「因子に直接干渉して、乗っ取ろうとする何か。飢えていて、"足りない"と繰り返す」
陸は呟いた。
「白澤の言ってた、他の場所でも増えてる痕跡。これと、繋がってる気がする」
「うん。めぐも、そう思う」
巡は、少し不安げな顔で、陸の袖を軽く引いた。
「陸、これ……多分、俺たちだけじゃ手に負えないやつかも」
「かもな」
陸は、夜空を見上げた。星々の下、海はまた何事もなかったかのように、静かに凪いでいる。だがその静けさが、かえって不気味に感じられた。
「一旦、亮太さんのことは、片がついた。渚紗さんも、ひとまず安心してくれるだろう」
「うん」
「でも」
陸は、拳を握りしめた。
「これは、始まりに過ぎない気がする」
その予感は、決して的外れなものではなかった。
数日後、遠く離れた別の街で、同じような"痕跡"が、また一つ、静かに刻まれようとしていた。
(第7話へ続く)




