表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/50

第44話 もう満足した

「なぜだ」

陸の声が、震えていた。

「せっかく、会えたのに。せっかく、母さんだと、分かったのに」

玉藻は、優しい眼差しで、陸を見つめた。

「陸。お前は、もう、妾がいなくとも、ちゃんと歩いていける」

「そんなこと……」

「叢雲が、ちゃんと、お前を育ててくれた。そうじゃろう?」

その一言に、陸は、言葉を詰まらせた。父の、不器用だが確かな愛情を、改めて思い出す。

「玲も、じゃ」

玉藻は、玲へと視線を移した。

「お前は、もう、誰かの"作品"でも、道具でもない。自分自身の足で、これから、自分の道を選んでいける」

玲は、唇を噛みしめながら、静かに頷いた。

「母さん、は……これから、どうするんですか」

その問いに、玉藻は、少し困ったように、それでいて、どこか楽しそうに笑った。

「さてな。またどこかの誰かに、ちょいと間借りさせてもらうかもしれん。今度は、女子高生じゃなく、案外、おじいさんかもしれんぞ」

その軽やかな物言いに、陸と玲は、思わず、涙の滲む目で、笑ってしまった。

「妾はな、この千年、ずっと、色んな景色を見てきた。楽しいことも、辛いことも、たくさんあった」

玉藻の声が、少しだけ、しみじみとした響きを帯びた。

「じゃが、今日、お前たち二人が、こうして、並んで立っている姿を見られた。……それだけで、もう、十分すぎるほどじゃ」

「母さん……」

「もう、満足した」

その一言に、陸と玲は、それ以上、何も言えなくなった。

玉藻は、静かに、二人に歩み寄ると、それぞれの頭に、そっと手を置いた。

「幸せに、生きよ。……妾の分まで、な」

温かい、しかし、確かに別れを告げる手のひらの感触。二人は、その温もりを、目に焼き付けるように、じっと感じ取っていた。


やがて、玉藻の体が、淡い光の粒となって、静かに空へと溶けていった。

「母さん!」

陸の叫びも、玲の伸ばした手も、その光を、掴むことはできなかった。ただ、光は、優しく二人を包み込むように、しばらく舞い続けた後、静かに、山の空へと消えていった。

風が、静かに吹き抜ける。剥き出しだった勾玉も、いつの間にか、その禍々しい輝きを失い、ただの、静かな石の欠片へと変わっていた。

「終わった、のか」

陸は、空を見上げたまま、呟いた。

「ああ」

玲が、静かに頷いた。

二人の頬を、涙が伝っていた。それは、悲しみだけでなく、長い長い因縁に、ようやく区切りがついたことへの、深い安堵の涙でもあった。

千年の時を経た物語が、今、静かに、その大きな一幕を閉じようとしていた。

(第45話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ