第41話 全ての頭
讓治の一撃を、陸は天叢雲で受け止めた。
衝撃が、腕を痺れさせる。だが、怯む間もなく、玲が横合いから、幻惑の力を放った。讓治の視界を、一瞬、揺らがせる。
「くっ……!」
讓治が、怯んだ隙をつき、陸は距離を取った。
「玲、いけるか」
「ああ。……前より、ずっと、力が馴染んでる」
玲の瞳が、深い金色に輝いていた。もう、暴走の兆しはない。母の力を、確かに、自分のものとして扱っている。
「これが……お前たちの、力か」
讓治は、苦々しく呟いた。歪な体から、紫の光が、断続的に漏れ出している。
「私の方が、正統な血筋のはずだ。なぜ、お前たちの方が……!」
その叫びと共に、讓治は、再び陸へと肉薄した。
「陸!」
咄嗟に、陸は目を閉じかけた。讓治の"見たら死ぬ"力が、放たれる予感があった。
だが――
(――大丈夫だ、逃げなくていい)
体の奥から、静かな声が響いた。第八だった。
陸の瞳が、これまでにない、澄んだ光を帯びる。讓治の力が、陸の視界を貫いた。だが、何も起きなかった。
「な……に……」
讓治が、愕然と後退った。
「効かない、だと……!? なぜだ!」
「あんたの力は」
陸の声に、これまでとは違う、重なるような響きが混じった。
「誰かを"見せて"傷つける力だ。……だが、こいつは、誰かを"守る"ための力だ」
牙が、剛が、癒が、疾が、呪が、静が――そして、第八が。
これまで、一つずつ積み重ねてきた頭たちとの絆が、今、初めて、全て同時に応えていた。
陸の姿が、変わっていく。瞳の色、纏う気配、全てが、これまでのどの発現とも違う、統合された姿へと。
「これが……全部の頭が、応えるってことか」
陸自身、驚きを隠せなかった。だが、恐怖はなかった。ただ、確かな一体感だけが、そこにあった。
「化け物が……!」
讓治が、恐怖に顔を歪ませながら、力を振り絞った。だが、その力は、既に限界を迎えつつあった。急ごしらえの適合、歪な発現。彼自身の体が、その力に耐えきれなくなっていた。
「終わりにしよう」
陸は、静かに、しかしはっきりと告げた。
「あんたが求め続けてきたものは、ここにはない」
「黙れ……! 私は、まだ……!」
讓治の叫びが、山中に響き渡る。だが、その声は、次第に、力を失っていった。
その時――
「そこまでじゃ」
聞き覚えのない、しかし懐かしいような、女性の声が、静かに響いた。
全員が、その声のする方向を振り返った。
制服姿の少女――いや、その体を借りた、玉藻が、静かに、そこに立っていた。
(第42話へ続く)




