第40話 対峙
「玲、こちらへ来い」
讓治の声が、静かな山中に響いた。
玲は、その場から動かなかった。
「……嫌です」
「なんだと?」
「俺は、もう、あなたの"作品"じゃない」
玲の声は、震えながらも、確かな意志を持っていた。
「俺は、俺自身の意志で、ここに立ってる」
その言葉に、讓治の顔が、怒りに歪んだ。
「愚かな……! 分家の小僧に、たぶらかされたか!」
「違う」
陸が、静かに一歩前に出た。
「玲は、自分の意志で、ここにいる。あんたが、これまで一度も、認めてこなかっただけだ」
「黙れ」
讓治の姿が、再び、あの禍々しい輪郭を纏い始めた。不完全な力が、軋むような音を立てながら、体を歪めていく。
「お前たちごときが、私の邪魔をするな」
「邪魔してるのは、そっちだろ」
陸は、天叢雲の柄に手をかけた。同時に、体の内側で、オロチの頭たちが、一斉に応える気配がした。
「玲、下がってろ。あんたの相手は――」
「いや」
玲が、陸の言葉を遮った。
「これは、俺の問題でもある。……俺も、戦う」
その決意に満ちた声に、陸は、小さく頷いた。
「分かった。……一緒にやろう」
二人が、並んで讓治と対峙する。その光景に、讓治の表情が、初めて、明確な焦りを見せた。
「二人揃って、私に逆らうと言うのか」
「そうだ」
陸と玲の声が、重なった。
その瞬間、剥き出しになった勾玉が、一際強く、禍々しい光を放った。まるで、その対峙そのものに、呼応するかのように。
少し離れた岩陰から、その様子を見守っていた巡が、小さく息を吸った。
「悠人、今」
「ああ。……行くしかないよな」
悠人は、緊張した面持ちで頷いた。
巡は、ポケットから、あの小さな包みを取り出した。金平糖――かつて三人で分け合った、あの日と同じもの。
「陸、玲!」
巡の声に、二人が、思わず振り返った。
「これ、食べて」
巡は、駆け寄りながら、その包みを、二人それぞれの手に、しっかりと握らせた。
陸は、迷わず口に含んだ。玲もまた、今度は拾うのではなく――自分の意志で、しっかりとその粒を受け取り、口へと運んだ。
ほのかな甘さが、二人の中に、静かに染み渡っていく。
「これで……」
玲が、小さく呟いた。
「ああ。準備は、整った」
陸は、天叢雲を抜き放った。
讓治の禍々しい姿が、雄叫びと共に、二人へと襲いかかる。
千年の因縁を懸けた、最後の戦いが、今、始まろうとしていた。
(第41話へ続く)




