第38話 解けた封印
翌朝、陸のスマートフォンに、白澤からの通信が届いた。
『陸、緊急だ。今すぐ、話を聞いてくれ』
「どうした、そんなに慌てて」
『儂の中の、"封印"が解けた。……これまで、どうしても語れなかったことが、今なら話せる』
その言葉に、陸は息を呑んだ。
「教えてくれ」
『まず、殺生石のことだ』
白澤の声は、これまでになく、はっきりとしていた。
『うぬらが探していた、行方不明の勾玉。八尺瓊――その正体は、殺生石そのものだ』
「勾玉が……殺生石」
『そうだ。玉藻が命を落とした夜、その因子の残滓が、石という形に凝固した。それが、殺生石として、これまで語り継がれてきた』
陸は、これまで積み重ねてきた情報が、一気に繋がっていくのを感じた。
『そして、あの石には、一つの制約がある。九尾因子を持つ者――つまり、うぬと、三輪玲。この二人にしか、触れることができない』
「なぜ、そんな制約が」
『あの石は、玉藻の力の中でも、最も凶悪な部分そのものだ。触れた者を、容赦なく死に至らしめる。……九尾の因子を宿す者か、本人以外には、触れることすら許されない』
白澤は、一拍置いて、続けた。
『そして、今――玉藻自身が、その場所へ向かっている』
その一言に、陸の心臓が、大きく跳ねた。
「母が、殺生石に……」
『儂の見立てでは、玉藻は、自らの意志で、千年続けてきた生に、区切りをつけようとしているのかもしれん』
「区切り、って」
『分からん。ただ、確かなのは――彼女が、動き出したということだ』
陸は、拳を強く握りしめた。
「讓治も、そこに向かうはずだ」
『恐らくな。あの男は、まだ諦めていない』
白澤の声に、これまでにない緊張が滲んだ。
『陸、覚悟を決めろ。これが、千年の因縁の、本当の終着点になる』
通信を切った後、陸は、すぐに玲へと連絡を取った。
「玲、聞こえるか」
『……陸か。何かあったのか』
「母が――玉藻が、殺生石に向かっている」
しばらくの沈黙の後、玲の声が、静かに返ってきた。
『……ああ。俺も、なんとなく、そんな気がしていた』
「一緒に、行かないか」
その問いに、玲は、少しの間、答えなかった。だが、やがて、はっきりとした声で、応えた。
『ああ。今度は、俺の意志で』
その言葉に、陸は、確かな手応えを感じた。
体の内側、オロチの頭たちが、静かに、しかし確かな熱を帯びていく。牙、剛、癒、疾、呪、静――そして、第八。
全ての頭が、今、初めて、同じ方向を見ていた。
「巡、悠人。準備してくれ」
陸は、天叢雲を手に取った。
「殺生石へ向かう」
窓の外、朝日が、静かに昇り始めていた。千年の因縁の、最後の幕が、今、開こうとしていた。
(第39話へ続く)




