第35話 潜入
夜明け前、陸は巡、悠人と共に、三輪総合警備保障の施設近くまで来ていた。
「本当に、行くんだね」
巡が、緊張した面持ちで陸を見上げる。
「ああ。玲を、あのままにはできない」
陸は、天叢雲を腰に差し、深く息を吸った。
「悠人、頼めるか」
「任せろ。……いや、任せてください、若様」
「その呼び方、やめろ」
悠人は、いたずらっぽく笑うと、ノートパソコンを開いた。
「施設の警備システム、昨日から解析してた。完全にとは言わないけど、裏口から侵入するルートは見つけてある」
「助かる」
「感謝は、後でゆっくり聞く。まずは、無事に帰ってきてからな」
その言葉に、陸は小さく頷いた。
施設の裏口、警備の薄い区画を選んで、三人は静かに侵入した。
「巡、周囲の気配、分かるか」
「うん……あっちの方、何か、強い力を感じる」
巡が指し示した先、地下へと続く通路があった。陸は、そちらへと足を進める。
道中、何度か黒服とすれ違いかけたが、悠人の事前の解析のおかげで、大きな戦闘は避けられていた。
「もうすぐだ」
地下の一室、重い金属扉の前に、陸たちは辿り着いた。
扉の向こう、微かに、玲の気配を感じる。同時に――これまで感じたことのない、禍々しい何かの気配も。
「玲!」
陸は、扉を蹴破るようにして、中へと踏み込んだ。
部屋の中央、玲は、拘束具のようなものに繋がれ、意識を朦朧とさせていた。傍らには、讓治が、静かに佇んでいる。
「……来たか」
讓治は、驚いた様子もなく、陸を見つめた。
「玲を放せ!」
「放す? ……お前は、何を勘違いしている」
讓治は、静かに首を振った。
「これは、我が息子のための、必要な処置だ」
「必要な処置だと……!?」
陸は、拳を握りしめ、一歩前に出た。
「検体No.7との連動、だろう。玲の意志を、無視して」
その言葉に、讓治の表情が、わずかに動いた。
「……お前が、なぜそれを知っている」
「関係ない。今すぐ、それをやめろ」
陸は、天叢雲の柄に手をかけた。同時に、体の内側で、オロチの頭たちが、一斉に警戒を強めるのを感じた。
「くだらん」
讓治は、冷たく笑った。
「お前ごときに、何が分かる。この子は、私の――」
「あんたの、何なんだ」
陸の声に、怒りが滲む。
「玲は、道具じゃない。あんたの、完成させるべき作品でもない」
讓治の目が、初めて、明確な怒気を帯びた。
「黙れ」
その一言と共に、部屋の空気が、一変した。
讓治の傍らに置かれていた、一本の注射器――禍々しい紫の光を放つそれに、讓治は、静かに手を伸ばした。
「お前が、そこまで言うなら」
「まさか……」
陸の脳裏に、悪い予感がよぎった。
「私自身が、真の力を示してやろう」
讓治は、そう言い放つと、迷いなく、その針を自らの腕に突き立てた。
(第36話へ続く)




