第34話 交わらぬはずの答え
「白澤、聞きたいことがある」
翌朝、陸は改めて、白澤との通信を開いた。
「母は、本当に死んだのか。父は『亡骸はあった』と言っていた。でも、そこから先を、話してくれない」
『……うぬ、核心に近づいてきたな』
白澤の声は、これまでになく慎重だった。
『儂の知る限り、記録上は、玉藻は確かに命を落としたことになっている。だが──』
「だが?」
『九尾因子の、本当の力を知っているか。輪廻、あるいは憑依。肉体を失っても、意識だけは、生き続けられるという説がある』
その言葉に、陸の心臓が、大きく跳ねた。
「まさか、母が、今も……」
『断言はできん。だが、可能性としては、ゼロじゃない』
陸は、拳を強く握りしめた。もし、それが本当なら――母は、どこかで、今も生きているということになる。
『陸、一つ言っておく』
「なんだ」
『もし本当に、玉藻が生きているとしたら、それを一番知りたくないのは、あの三輪家の当主かもしれん』
白澤の言葉に、陸は息を呑んだ。
「讓治さんが……」
『彼は、玉藻が"死んだ"という前提で、その因子を解析し、玲に移植した。もし、それが根本から間違っていたとしたら――』
「玲の因子が安定しない理由も」
『そういうことだ』
通信が切れた後も、陸はしばらく、その場から動けずにいた。
同じ頃、玲もまた、一人の答えに辿り着こうとしていた。
深夜の資料室で見つけた記録、鷹宮の話、そして鏡が見せた記憶。全てが、一つの可能性を指し示していた。
(父上は、間違えているのかもしれない)
もし、母が本当に生きているのだとしたら――自分の中の不安定さは、決して"未完成"だからではない。最初から、解析すべき対象そのものが、そこになかったからだ。
「……そうか」
玲は、静かに息を吐いた。これまで感じてきた全ての違和感が、一つの答えへと収束していく。
コンコン、とノックの音。
「九代目、明日、検体No.7との連動実験の準備が整いました」
その報告に、玲は静かに顔を上げた。
「分かった」
短く答えながら、玲の内心では、これまでにない決意が固まりつつあった。
その夜、陸のもとに、思いがけない連絡が届いた。差出人は、悠人がまとめていた匿名の情報網――そこに、一件の匿名メッセージが紛れ込んでいた。
『明日、施設で危険な実験が行われる。対象は、九代目。止めたいなら、力を貸してほしい』
送り主の名は、記されていなかった。だが、陸には、なぜか、その差出人が誰なのか、確信めいた予感があった。
「巡、悠人。準備してくれ」
陸は、天叢雲を手に取った。
「行くところができた」
窓の外、夜空に、静かに月が昇っていた。千年の因縁が、いよいよ、大きく動き出そうとしていた。
(第4部・完)




