表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/50

第29話 鏡が映した記憶

「九代目、本日も測定を」

研究員に案内され、玲は再び、あの地下の一室へと足を運んでいた。ガラスケースの中、YT-03は、相変わらず静かに佇んでいる。

「今日は、少し長めに接触していただきます。讓治様からの指示です」

「父上の?」

「はい。……検体No.7との連動実験の、事前確認だそうです」

その言葉に、玲は微かな違和感を覚えたが、口には出さなかった。

ガラスケースが開けられ、玲は再び、鏡の縁に指先を触れさせる。

その瞬間、前回よりもずっと鮮明な感覚が、脳裏に流れ込んできた。


海辺の景色。夕暮れ時。子供の笑い声。

そして――誰かに追われている。息を切らして、必死に走っている。隣には、同じ年頃の少年と、小さな女の子。

『こっちだ、早く!』

少年の声。それが、あの陸のものだと、玲は直感的に理解した。

女の子が、何かに躓いて転ぶ。少年が、慌てて助け起こす。玲自身も――幼い自分自身も、その場に立ち尽くしていた。

『……大丈夫か』

自分の声。震えていた。だが、それでも、何かを差し出そうとしていた。小さな、色とりどりの粒。

『これ、あげる』

その瞬間、映像は、鋭い痛みと共に、途切れた。


「九代目! 大丈夫ですか!」

研究員の声で、玲は我に返った。鼻から、うっすらと血が流れている。

「……ああ、平気だ」

玲は、震える手で、鼻を拭った。頭の中には、まだ、あの光景の残像が、はっきりと焼き付いている。

(あれは、俺の記憶なのか……?)

自分が、誰かを助けようとしていた。誰かに、何かを差し出そうとしていた。それは、これまで玲が知る自分とは、まるで違う姿だった。

「今日の測定は、ここまでにしましょう」

研究員が、慌ててガラスケースを閉じる。玲は、その様子を、どこか遠くから眺めているような感覚で見ていた。


自室に戻った玲は、一人、ポケットの中の金平糖を取り出した。

「これ、あげる」

先ほどの記憶の中の、自分自身の声が、耳の奥で反響する。

「まさか……」

まだ、確信には至らない。だが、点と点が、少しずつ、線になり始めていた。

(調べなければ)

玲は、密かに決意した。父に知られないよう、自分自身の手で、あの記憶の正体を、確かめる必要があった。

深夜、誰もいない研究フロアに、玲は一人、忍び込んだ。過去の実験記録、そして──自分自身に関する、古いカルテ。

「……ここに、何かあるはずだ」

薄暗い明かりの中、玲は静かに、キャビネットの鍵を探り始めた。

その手つきには、これまでの従順な"九代目"としての姿ではない、一人の人間としての、確かな意志が宿っていた。

(第30話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ