表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/50

第28話 平安の名残

「白澤、約束通り、聞かせてくれ」

その夜、陸は改めて、白澤に向き合っていた。

『……分かった。うぬも、覚悟はできてるみたいだな』

白澤の口調は、いつになく落ち着いていた。

『まず、これだけは対価として何か寄越せ。……いや、今回は、いい。うぬがここまで踏み込んだ、その覚悟そのものを、対価としておこう』

「それでいいのか」

『儂とて、けじめってものを知らんわけじゃない』

白澤は、そう前置きしてから、静かに語り始めた。

『今から千年ほど昔、平安の頃。うぬの一族──いや、正確には、うぬと三輪の、両方の祖先は、まだ一つの家だった』

「一つの、家」

『朝廷お抱えの陰陽師の家系だ。(あやかし)を鎮め、時に祓う、そういう役目を担っていた』

陸は、息を詰めて聞き入った。

『ある時、一族はある女に出会う。その女こそ、九尾の因子を宿した最初の人間――うぬの母、玉藻だ』

「母が……最初の?」

『そうだ。彼女は、朝廷に取り立てられ、寵愛を受けるまでになった。だが、その力ゆえに、一族の中で意見が割れた』

白澤は、一拍置いて、続けた。

『力に飲まれた者は、もう人ではない。討ち、あるいは回収し、管理すべきだ――そう考えた者たちがいた。一方で』

「一方で?」

『力を持っていても、本人の心は残っている。共に生きるべきだ――そう考えた者たちもいた』

その言葉に、陸は、ふと気づいた。

「それが……草薙と、三輪の」

『そうだ。前者が、今の三輪。後者が、今のうぬたち、草薙の祖だ』

陸の脳裏に、これまで積み重ねてきた違和感が、次々と繋がっていく。

「でも……三輪は、朝廷に重用されて栄えた側だって」

『その通りだ。血筋の上では、三輪こそが"本家"だった。だが、実際に彼女の――九尾因子の本質を理解し、正しく向き合う術を受け継いだのは、里に下った、うぬたちの祖の方だった』

「本家と、分家が、入れ替わった……」

『そうだ。名も、格式も、あちらが継いだ。だが、本当の意味で"継ぐべきもの"を継いだのは、うぬたちの方だったのかもしれん』

しばらくの沈黙が流れた。陸は、この千年という時間の重みに、言葉を失っていた。

「玉藻は……母は、どうなったんだ」

『そこから先は、まだ、儂にも全ては分からん。ただ――』

白澤の声が、わずかに揺れた。

『表向きの記録では、討伐されたことになっている。だが、実際には、違うという言い伝えが、うぬの一族には、密かに伝わっているはずだ』

「違う、って」

『うぬの父に、直接聞け。……これ以上は、儂の口からは言えん』

その言葉を最後に、通信は静かに切れた。


陸は、しばらく画面を見つめたまま、動けずにいた。

千年前の因縁。本家と分家の入れ替わり。そして、母・玉藻の、まだ明かされない結末。

「これが……俺と、三輪玲の、始まりか」

呟いた声は、静かな部屋に、重く響いた。

体の内側で、オロチの頭たちが、いつになく静かに、耳を澄ませているような気配があった。まるで、この千年の物語の続きを、共に待っているかのように。

(第29話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ