第25話 因縁の輪郭
翌日、陸は白澤に、これまでの経緯を全て伝えた。三輪玲との再会、母の名が「玉藻」だったこと、そして父が語らずにいる何か。
『……玉藻、か』
白澤の反応は、いつもより明らかに重かった。
「知ってるのか」
『儂のデータベースにも、断片的にしか残っていない話だ。ただ……その名前、決して軽い話じゃない』
「教えてくれ」
『今は、まだだ。うぬの父上と、同じことを言うようだがな』
白澤は、珍しく歯切れの悪い調子で、そう告げた。
『ただ一つ、言えることがある。うぬが今、辿り着こうとしている真実は──この里だけでなく、あの組織、そして千年前の因縁にまで、繋がっているということだ』
「千年前……」
『そうだ。焦る気持ちは分かる。だが、もう少しだけ、時間をくれ。儂の方でも、調べておく』
その言葉を最後に、通信は途切れた。
その夜、陸は縁側で、悠人、巡と共に、静かな時間を過ごしていた。
「三輪玲、か」
悠人が、集めた資料を眺めながら呟いた。
「あいつの写真、改めて見たけど……本当に、他人とは思えない顔してるよな」
「そうだな」
陸は、素直に頷いた。もう、それを否定する気にはなれなかった。
「めぐも、少しずつだけど、思い出してきた」
巡が、ぽつりと口を開いた。
「昔……小さい頃、陸と、あの子と、三人で、何かしたような……。それが、すごく大事なことだったような、そんな感じがする」
「大事なこと?」
「うん……ごめん、それ以上は、まだ」
巡は、悔しそうに首を振った。だが、その断片的な感覚は、確かに何かの真実に近づいている手応えがあった。
「焦らなくていい」
陸は、巡の頭を、優しく撫でた。
「少しずつでいい。思い出せたら、教えてくれ」
「うん」
その夜遅く、陸は一人、剣を手に、庭に立っていた。月明かりの下、天叢雲の刃が、静かに光を反射している。
(玉藻、か)
母の名を、心の中で繰り返す。まだ、その人がどんな人物だったのか、何一つ分からない。だが、確かなことが、一つあった。
自分と、三輪玲は、単なる偶然で出会ったわけではない。千年前から続く、大きな因縁の中で、再び巡り合うべくして、巡り合ったのだ。
体の内側で、オロチの頭たちが、静かに息づいている。牙の頭、剛の頭、癒の頭、静の頭──それぞれの気配が、いつもより、はっきりと感じられた。
そして、奥底の何か。8番目の、まだ名も知らぬ気配。
「お前は、何を知ってるんだ」
問いかけても、答えはない。だが、その沈黙の奥に、確かに何かが、応えようとしているような、そんな予感があった。
陸は、剣を鞘に収め、夜空を見上げた。
星々の下、遠く離れたどこかで、同じ夜を過ごしているはずの玲のことを、陸はふと思った。
(お前も、同じ空を、見上げてるのか)
答えの出ない問いを胸に抱いたまま、陸は静かに、次の一歩を踏み出す覚悟を固めていた。
千年の時を経て積み重なった因縁の、本当の輪郭が、今、少しずつ姿を現し始めていた。
(第3部・完)




