表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/50

第17話 交わり始める道

翌朝、陸は改めて、母屋の叢雲のもとを訪れていた。手には、あの写真のコピーを持っている。

「父上」

叢雲は、写真を一目見るなり、静かに目を閉じた。長い沈黙が、部屋を満たす。

「……その男の名を、知りたいか」

「はい」

叢雲は、湯呑みを置き、久方ぶりに、はっきりとした声で言った。

「三輪玲。あの警備会社、三輪の家の跡取りだ」

「三輪、玲……」

その名を、陸は口の中で繰り返した。

「父上は、いつから知っていたんですか」

「随分と、昔からだ」

叢雲は、遠くを見るような目をした。

「お前とあの子は、幼い頃、一度だけ会ったことがある。詳しいことは、まだ話せない。だが──」

叢雲は、そこで一度言葉を切り、静かに続けた。

「あの子は、決して、お前の敵として生まれたわけじゃない。それだけは、覚えておいてくれ」

その言葉の意味を、陸はまだ、完全には理解できなかった。だが、確かなことが一つあった。

自分と三輪玲の間には、何か、単なる偶然では片付けられない繋がりがある。それを、父はずっと前から知っていながら、あえて語らずにいたのだ。


その日の夕方、陸は縁側で、悠人と巡と共に、静かな時間を過ごしていた。

「結局、俺は、しばらくここに世話になっていいのか」

悠人が、少し遠慮がちに尋ねる。

「ああ。狙われてるなら、下手に一人で戻る方が危険だ」

「……恩に着る」

悠人は、そう言って小さく笑った。

「にしても、妖怪の因子だ、平安の因縁だって、正直まだ実感が湧かない。俺には、そんな特別な力なんて、ないと思うんだけどな」

その呟きに、陸は何も言わなかった。ただ、心の中で、小さな違和感だけが、静かに残り続けていた。


同じ夕暮れ時、施設の一室で、玲もまた、一枚の報告書に目を通していた。

『情報屋"夜行主"、行方不明。回収失敗』

差出人の欄には、鷹宮の名前があった。玲は、その文字をしばらく見つめた後、静かに報告書を閉じた。

(あの男が、絡んでいるのか)

理由は分からない。だが、玲の中では、あの夜出会った男の存在が、日に日に大きくなっていくのを感じていた。

コンコン、と扉が鳴る。

「九代目、父上がお呼びです」

玲は、静かに立ち上がった。父の元へ向かう足取りは、いつもより、わずかに重かった。


父の執務室、讓治は玲を迎えると、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。

「玲、話がある」

「はい」

「例の、分家の動きが、活発になっている。もうすぐ、お前にも本格的に、動いてもらうことになるだろう」

その言葉に、玲の中で、何かが静かに強張った。

「……分かりました」

「案ずるな。お前なら、必ずうまくやれる」

讓治は、そう言って、玲の肩に手を置いた。優しい仕草だった。だが玲は、その手のひらから伝わる温もりの奥に、これまで感じたことのない、微かな冷たさを感じ取っていた。


同じ空の下、里で静かな夜を過ごす陸と、施設で父の言葉を受け止める玲。

二人はまだ、互いの本当の関係を知らない。だが、確実に、二つの世界は交わり始めていた。

海の底に潜んでいたもの。都市の奥で進められている実験。そして、千年の時を経て、再び巡り合おうとしている、二つの因子。

その先に待つものが何なのか──それは、まだ誰にも分からなかった。

(第2部・完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ