第10話 夜行主にコンタクト
《はじめまして。白澤の紹介で来ました。少し、お聞きしたいことがあります》
《ほう。白澤の紹介とな。……面白い、話を聞こうではないか》
画面の向こうから返ってきた文面に、陸は思わず眉をひそめた。想像していたよりずっと、芝居がかった口調だった。
《まず、確認したいことがあります。あなたは、里や、警備会社について、何か知っているという噂を聞きました》
《ふむ。うぬ、随分と単刀直入じゃのう。良い、嫌いではない》
《答えていただけますか》
《答えぬでもないが、タダというわけにはいかんぞ。儂とて、暇を持て余しているわけではないのでな》
陸は、少し考えた。白澤の時と同じ、情報のやり取りが必要らしい。
《何を渡せばいいですか》
《そうさな……最近、面白い話はないか? 儂は、面白い話に飢えておるのでな》
面白い話、というふわっとした要求に、陸は戸惑った。隣で画面を覗き込んでいた巡が、横から口を挟んでくる。
「陸、亮太のこと話せば?」
「……それ、話していいやつか?」
「ぼかせばいいんじゃない?」
陸は少し悩んだ末、当たり障りのない範囲で、海で起きた不可解な出来事を、匿名めかして書き込んだ。
《ほほう。海の底に、飢えた何か、か。……なるほど、なるほど》
文面越しにも分かるほど、相手が興味を惹かれている様子が伝わってくる。
《良かろう。それだけの土産があれば、儂も応えるとしよう》
《では、教えてください。警備会社について、何を知っていますか》
《うぬら"里"の者からすれば、あれは目障りな連中じゃろうな。妖怪の因子を、まるで工業製品のように扱っておる。儂は、あの手のやり口が好かん》
《やり口、というのは》
《因子を"移植"するのじゃ、人にな。生まれ持った血ではなく、後から植え付けて作り出す。……歪よな、実に》
陸は息を呑んだ。それは、里で伝わる話の中にも、断片的にしか出てこない話だった。
《詳しく、教えてもらえますか》
《焦るでない。儂とて、全てを知っておるわけではない。ただ──》
一拍の間があった。
《あの組織の中に、生まれながらにその力を宿した"特別"な小僧がおる、という噂は聞いておる》
「……特別な、小僧?」
陸は、思わず声に出して呟いた。巡が、不安げに顔を覗き込んでくる。
《それが、今回のことと関係あるんですか》
《さてな。それは、うぬら自身の足で確かめることじゃ。儂は、噂を運ぶだけの者に過ぎぬのでな》
《なぜ、そこまで知っているんですか》
《儂は、妖怪に関することならば、何でも知っておかねば気が済まぬ性分でな。……総大将、というものは、そういうものじゃろう?》
その一言に、陸は思わず苦笑してしまった。妙な自信に満ちた言い草だったが、どこか憎めない響きもある。
《ありがとうございます。また、聞きたいことがあれば連絡します》
《うむ。次は、もっと面白い土産を期待しておるぞ》
そこで、やり取りは途切れた。
パソコンの画面を閉じ、陸は深く息を吐いた。
「変な奴だったな」
「うん。でも、悪い奴じゃなさそう」
巡の言葉に、陸は少し考えてから頷いた。
「そうだな……。ただ」
陸の脳裏に、先ほどの言葉が、重く残っていた。
生まれながらにその力を宿した、特別な小僧。
それが誰なのか、まだ陸は知らない。だがその存在が、これから自分の運命に、深く関わってくることになる予感だけが、確かに胸の内に芽生えていた。
(第11話へ続く)




