表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
備蓄していた俺、アパートの部屋ごと転移。異世界で宿屋始めます。  作者: 島田まかろん三世


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

テイム

 畑を作るのに、シャベルが欲しいとお願いすると、一旦道具をひと揃えするために、ガルガンは自宅に戻ると言った。


 ハクの背に乗って行けば早いだろうが、その間に、俺が魔物にでも襲われるのはお断りだ。


 結局、みんなでガルガンの家に行った。

 そこは、小さな山小屋だった。


「必要なものを、持てるだけ持っていくぞ」


 すきくわかま、斧――農具一式。


 ドワーフ製のシャベルは、驚くほど軽かった。


 IT企業のデスクワークでなまりきった俺の腕でも、スコップが勝手に土に吸い込まれていくようだ。振るう力を必要としない。

 粘土質の土が、まるでバターのように滑らかにめくれ上がっていく。


「僕もやるー!」


 ハクが前足で、猛烈に地面を掘り始めた。


 その時だ。


 地面が盛り上がり


 次の瞬間――


 ドゴォン!!


 土が噴き上がった。


「痛ってええええええんじゃ!! こらああああああ――!!」


 怒号と共に現れたのは、軽自動車ほどもある、黄金の毛並みの巨大なモグラ。目の部分は元から見えないからだろうか、気合の入った鉢巻が巻かれている。


 尻もちをついた俺の前に、ハクが構えて、「がるるるるる……っ」と唸り声を上げた。

 俺も立ち上がり、ポケットに入れておいたスタンガンを取り出す。


 巨大モグラは地面に短い両足を突き立て、牙を剥き出した。


 だが。


「待て!! 待たれよ――!!」


 ガルガンが、慌てたように俺たちの間に割って入った。


其方そなたは――もしや……」


「ああん!? なんだクソちび。てめえが相手か!? こんちくしょう!!」


「いや……違う。――ユウマよ」


 ガルガンはモグラを見据えながら、俺にちらちらと目配せをする。

 俺は、なんのことかと小首を傾げた。

 ガルガンが、必死に小声で何かを囁いている。


「え?」


 俺は耳を澄ませた。


餌付け(テイム)じゃ……。《《こやつは使える》》」


「……ああ!!」


 ――だとして、言い方。


 俺は急いでキッチンに戻り、鍋に残っているカレーを温めた。

 食欲をそそる匂いが、充満する。

 換気扇を回した直後、外から叫び声が聞こえた。


「なんだあああああ!! この匂いはあああああああ!!」


 俺は炊飯ジャーから白い飯を盛り、カレーをかけた。

 皿を掲げ、玄関を飛び出す。そして、黄金の巨躯の前にそれを差し出した。


「食ってみろ」


 怪訝な顔をしてはいるが、この匂いには逆らえないようだ。

 巨大なモグラは短い両手で皿を掴んだ。


 モグラが、カレーを一舐めした瞬間。


「なんじゃあああああああああこぉりゃあああああああああああ!!!!」


 その巨躯がミシミシと音を立て、煙を噴き上げながら、毛が縮み、骨が軋み、収縮していく。


 雄叫びとともに煙の中から現れたのは、血管が浮き出るほど筋肉隆々の、全裸の『人間の』男だった。

 目元が布で覆われた、暑苦しい肌に汗を滴らせたその男は、カレーの皿を掲げて俺の前に両膝をついた。


「――なんだ……この味は。地竜あっしの魂に火がついたようになっちまったじゃあねえか……。旦那、お願いだ。あっしを弟子にしておくんなせえ!」


 いや、江戸っ子!?


「いや、弟子とかいらないから。服着て。今すぐ着て。そして、股間の怪しい輝きを今すぐ隠して!」


 怖いから――!!


 ◇


 モグラに名前を聞いた。

 そんなものは「無い」と、言ったので、俺が「アグリ」――と、名付けた。


 アグリは俺が渡したタオルを腰に巻き、猛烈な勢いで地面に潜る。

 どういう仕組みかは分からないが、布は変身する体の大きさに合わせ、伸び縮みするようだ。


「旦那ァ! 畑の改良ですな、合点だ!」


 次の瞬間、地竜の姿に変わる。


 ゴゴゴゴゴゴ――!!


 地面が波のようにうねり始める。

 わずか数分で、荒れ地だった庭は、しっとりとした極上の黒土へと変わっていった。

 地面から飛び出したアグリが叫ぶ。


「旦那ァ! 次はどこの土を喰らいやしょう!」


 俺は頭を抱えた。


 目の前にあるのは、ポージングを決める人型の広背筋と、ドワーフの髭と、犬の尻尾だった。


 俺の2LDKが。

 俺の夢見た、ラグジュアリーな香りが漂うはずだったスローライフなお仕事空間が、たった数日で――「むさ苦しい体育会系の合宿所」になり果てている。


「……女子はどこだ!? 異世界転移の特権、美少女との出会いはどこに行ったんだ!?」


 俺の魂の叫びが、魔鳴りの森に虚しく響いた。


「圧倒的ヒロイン不足――!!」


 その傍らで、ハクの家が着々と完成に近づいていた。

 銀精木ぎんせいぼくの香りに包まれ、ハクが「わーい、僕の秘密基地ー!」と、尻尾をぶんぶんさせて、大はしゃぎだ。


 そんな賑やかな騒動を、森の奥からじっと見つめる影があったことなど、そのときの俺は、まだ知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ